需要ショック

投稿者 森野榮一, 4月10日 午前11:04, 2011年

 

やっと休日を迎えた感じだ。先週、読めなかった情報をネットで読む。Peterson Institute for International Economics にある Anders Aslund の Carry Trade Aggravates the Oil Shock が目にとまった。

 

需給ギャップを言い、緩和的な金融政策を採る主流の経済学に批判的な議論は、高止まりしたコモディティ価格をもたらしたキャリートレードの現実を見る者には、そうした見解もさもありなんと思わせる。

議論を、下記に簡単にメモしておくか。

 

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最近の石油価格ショックは世界の主要な中央銀行やその見当違いの金利政策にとって更なる注意を払うべき教訓として役立てられるべきである。現在主要な中央銀行は3月にユーロ圏におけるインフレ率が年率で2.6%に上昇したにもかかわらず、マイナスの実質金利を維持している。いまだ、欧州中央銀行が来週、その主要金利を年率1.0%から1.26%に引き上げることを意図していても、米連邦準備制度理事会と日本銀行はゼロ金利を維持しており、抵抗が存在する。

 

マイナスの実質金利が永続することは、世界の金融市場を歪める危険がある。中央銀行は現実を直視し、速やかに金利を引き上げるべきである。金融緩和政策は別の成長の条件がある場合にのみ経済成長を刺激しうる。今日、多くの余剰資本はキャリートレードで投資条件がいっそう有利な新興市場に向かい、あらゆる種類の市場を不安定にしている。

 

プリンストンのヒュン・ソンシン教授はほとんどのキャリートレードの評価に、米国における160行の外資系銀行の非コアのドル債務の純額を使用している。現在のところ、それは6000億ドルにのぼる。偶然、それはまさしく米連邦準備制度理事会の第二次量的緩和のボリュームである。この資金は投資や消費者需要で米国経済を刺激してはいない。代わりに、そのもたらしたものは、世界経済を不安定化し、新興経済の政策立案者に通貨戦争や経済の過熱を引き起こす資本流入に不満を述べさせる需要ショックである。

 

主流の経済学者たちはいまだ、かなりの失業率で明白な大規模な需給ギャップのために低金利によって経済を刺激する必要性を認識することに囚われている。しかし世界は2年半の間、マイナスの実質金利を見ており、昨年の世界の成長率は5%であった。それは歴史的な最大値であった。主張された需給ギャップは旧世界で廃棄された工場の多くが新興市場で競争力のあるところに敗れていることを反映した幻想である。構造的な変化が大規模な再訓練を必要とするので、失業率は高止まりしそうである。

 

国際的な投資家は西欧に投資するよりも、かつてない規模でキャリートレードを追求している。昨年、好まれた二種類の取引は新興市場の資産とコモディティへの金融投資であった。借り入れた資金は短期にのみ利用可能なので、こうした投資は生産能力よりもむしろ価格を高める・・・必要があった。国際的な投資家はキャリートレードのために、とくに米国からの格安の融資を利用しもっとも価格が上昇する資産に投資する。昨年11月まで主に深紅市場でそうであった。現在、原材料や食糧、石油、金属、ゴールドが好まれている。

 

農産物が、昨年ロシアとオーストラリアでの干ばつで希少となったとき、食糧はポピュラーなキャリートレードとなった。食料価格の高騰は多くの途上国で暴動と社会的緊張の一因となり、少なくとも北アフリカでは、重大な政治的帰結を伴っている。また高騰する食料価格への補助金はこうした諸国における金融の安定に脅威となっている。

 

キャリートレードは現在の北アフリカの社会不安を引き起こしてはいないかもしれないが、その一因であった。その政治的不安定さが、今度は中東の資産市場を抑制している。過剰な流動性は新興市場の資産よりも収益の上がる別のはけ口を見つけなければならない。低迷する西欧経済への実質投資を気に掛けることはない。

 

投資対象の少なさを考慮すると、キャリートレードは、現在、コモディティ、特に石油およびゴールドに集中する。中東で始まった混乱の後、リビアにおける生産減少やいっそうの政治的混乱がありそうなので、石油はとりわけ魅力的となっている。石油やゴールドのETFで、一般投資家はこのキャリートレードに参加できる。したがって、原油市場はサプライ・ショックに苦しむだけではなく、需要ショックでもある。

 

現在の極端に緩和的な西欧の金融政策の帰結はあまりにも明確である。公定の金利が低ければ低いほど、石油価格は、より高く暴騰する。過剰流動性は、刺激されすぎた低業績の西欧経済を妨げる以外の助けにはならないであろう。現在、西欧経済の最大の脅威は原油価の急騰である。

 

主流の金融経済学者は、インフレを大きく扱うことを軽蔑し、・・・食料やエネルギー価格、そしてコアインフレに焦点を当てることを無視する。しかしそれは、非インフレ的な財やサービスに焦点を当てることを意味する。ところでもし、インフレターゲット政策を意味があるようにするなら、それは実際のインフレ(市民の日常生活に影響する種類のそれ)に焦点を合わせなければならない。

 

金融刺激策はあまりに長い間試みられたが、機能しなかった。代わりに、この10年間の、当初から央まで、壊滅的な資産バブルと破裂とつながった。米国では、平均して、2002年以来、わずかなマイナスの実質金利が存在し、それはFFレートから消費者物価のインフレ率をマイナスして測れる。幻想である需給ギャップよりも金融の安定性により注意を払う・・・時である。・・