IMF、戦後最大級の不況を予測

投稿者 曽我純, 6月29日 午前8:46, 2020年

米国の新型コロナ感染者数は先週、過去最高を更新した。テキサス州やフロリダ州では入店制限を強化したため、経済は再び下降に向かうだろう。トランプ大統領の新型コロナへのルーズな対応が感染者数の増大を引き起こしており、トランプ大統領の政治責任が問われている。感染者の拡大、人種問題さらに暴露本によってトランプ大統領の支持率は低下する一方、バイデン前副大統領の支持率は上昇、両者の格差は拡大しており、トランプ大統領の再選は難しくなりつつある。

24日、IMFが最新の世界経済予測を発表したが、それによれば2020年の世界経済成長率は-4.9%と4月予測の-3.0%から1.9ポイントの下方修正である。先進国に限れば-8.0%と大きく落ち込む見通しである。米国は-8.0%だが、もし米国経済がこの予測のように推移すれば、金融崩壊期の2009年(-2.5%)をはるかに上回り、第2次大戦直後の1946年(-11.6%)以来74年ぶりの深刻な不況になる。FRBが6月10日に公表した2020年の米GDP予測(-7.6%/-5.5%)に比べてもIMFのマイナス幅は大きい。

世界の総名目GDPに占める米国の割合は24.6%であり、世界1の規模である。日本は5.9%と米国に比べれば、ウエイトは低く、世界経済への影響力も小さい。仮に、今年の米GDPがIMFの予測通り8.0%も落ち込めば、米名目GDPは前年比1.7兆ドル減少することになり、世界経済を約2%引き下げることになる。

IMFの予測によれば、ドイツは-7.8%だが、フランスやイタリアが2桁減となり、ユーロ圏GDPは10.2%のダウンとなる。日本は5.8%減とG7のなかでマイナス幅はもっとも小さい。2度の大型補正予算(57.3兆円)によって他の先進国ほど悪くならないと予想しているが、はたして米国よりも軽い症状で治まるだろうか。

補正予算57.3兆円は2019年度の名目GDPの10.4%に当たり、正味これだけの支出が追加されれば、今年度のGDP減少分の多くを埋め合わすことができるはずだ。だが、1次と2次を加えた予備費11.5兆円、企業への融資15.4兆円、Go Toキャンペーン1.6兆円など補正予算の半分ほどはGDPへどれだけ寄与するか不透明である。大型補正予算といわれ規模だけに目が向けられがちだが、実際の支出は規模をかなり下回るだろう。

日本経済は米国経済の影響を受けやすく、米国経済が悪化すれば直ちにその波が日本に押し寄せ、米国経済以上に深刻な状態に陥る。これまでの両国のGDP成長率を一瞥するだけで、日本経済の脆さ弱さがわかる。

バブルが崩壊しつつあった1991年までは、日本の経済成長率が米国を上回っていたが、1992年以降2019年までの28年間をみると日本が米国を上回ったのは2010年と2013年の2回だけだ。それも前年の大幅減と消費税率という特殊要因による伸びであり、そうした要因がなければ、バブル後、一貫して米国が日本より高い成長を続けていたことになる。

2019年度の対米輸出は14.8兆円、総輸出に占める比率は19.6%と国別ではトップである。一方、米国からの輸入は8.5兆円と中国の半分にも満たない。全体の貿易収支は1.2兆円の赤字だが、対米収支は6.3兆円の黒字なのである。最大の黒字を稼ぎ出しているのは輸送用機器であり、2019年度の黒字額は4.6兆円である。2番目は半導体等製造装置などの一般機械の2.3兆円だ。対米黒字額の73%は輸送用機器が稼ぎ出しており、自動車の対米輸出の減少は貿易収支を一気に悪化させるだろう。

5月の米雇用者報酬は前月比2.5%増加したが、3月の水準を5.1%下回っている。失業保険は増加したが、個人への給付金の減少などにより、個人所得は4.2%減少し、可処分所得も4.9%減となった。個人消費支出は前月比8.2%増加したが、それでも3月を下回り、前年比では9.3%減である。貯蓄率は23.2%と前月よりも低下したが、年率4.1兆ドルを貯蓄しており、米国民は不透明な将来へ備えている。

米国で新型コロナがぶり返していることから、消費者心理の改善は足踏みし、来月以降の個人消費も低調な状態のままだと思う。高失業率も値の張る自動車の購入を控えさせ、今年の米自動車販売は大幅に減少するだろう。米国の自動車販売不振は日本の自動車メーカーの輸出を直撃し、稼働率の低下と利益率の悪化に苦しむことになる。さらにメーカーの業績悪化は何層もの下請け企業に波及し、日本経済全体に下方圧力が掛かることになる。

2020年の米GDPが前年比8.0%も減少するならば、企業業績は半減以下に激減するかもしれない。2008年、2009年の米実質GDPは0.1%、2.5%それぞれ前年を下回った。同年、米製造業の純利益は-24.7%、-47.0%といずれも大幅な前年割れとなっている。

日本のGDPはIMF予測の-5.8%では収まらないと想定しておくべきだ。2008年度の実質GDPが3.4%減少したことで、大企業製造業の純利益は赤字に転落したことを参考にするならば、5%を超えるマイナス成長になれば、それ以上のことが起きても不思議ではない。現状の実体経済はそのような経路を辿っている。

6月の製造業PMIを比較しても日本は米国やユーロ圏よりも悪い。しかも6月の米、ユーロ圏は5月よりも改善しているが、日本は5月よりもさらに低下している。外需が弱くなれば、たちどころに喘ぐという製造業の構造は少しも変わっていない。

今年1-3月期の米企業利益は前年比-9.1%の減益となったが、4-6月期以降の業績は3割以上の減益になるだろう。だが、米株はそれほど深刻な状態にはいたっていない。米10年債利回りが底這い状態にあるのとは対照的である。円ドル相場も小幅な動きであり、嵐の前の静けさといったところか。

日本株は底堅い動きを示しており、4-6月期以降の業績を織り込んでいるとは思えない。日銀の年12兆円のETF買いによってかなり相場は歪められている。だが、時価総額590.8兆円(5月末、東証一部)の株式を支え切れるものではない。米株の急落、企業業績の悪化などを無視できなくなれば、売りが売りを呼ぶ展開となり、株式は崩れていくことになろう。米国経済の戦後最大級の収縮やそれに基づく企業収益の無残な結果が現実的だと予測され始めると株式に金融政策は無力となる。そのような日が近づいているように感じる。

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曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数