FRBを危惧させる消費支出

投稿者 曽我純, 6月29日 午後5:33, 2014年

円ドル相場は膠着状態にある。日本経済は財政・金融政策により成長しつつあり、米国経済も緩やかに回復しつつあるという評価が一般的だが、実際は、先行き不安で満ちている。だから、円ドル相場もどちらに傾けることもできないのである。日米経済は良くなっているとはいえ日米の国債利回りは低下傾向にあり、日米の利回り格差は過去3ヵ月ほぼ2%である。本当に経済がよくなっているのであれば、国債利回りは上昇するはずだが、そうはならないのは、日米経済の内容は言われているほど改善されていないからだ。

5月の米個人消費支出は前月比0.2%と4月の横ばいからは伸びたものの消費の足取りは弱い。失業率は2009年10月(10.2%)をピークに大幅に改善、過去1年を降り返っても、1.3ポイントも低下している。これだけ失業率が改善されれば、個人消費も良くなるはずだ。だが、思ったように、消費支出は上向かない。

過去の失業率と消費支出の関係をみると、失業率が低下すれば、それに伴い消費支出は伸びている。今回、失業率の低下というより、消費支出の急激な落ち込みによる反動があらわれただけで、消費支出にさしたる変化はないように思う。特に、実質の消費支出は5月、前年比1.5%と伸びは2ヵ月連続の低下である。米実質経済成長率は消費支出のでき如何で決まる。実質消費支出が1.5%であれば、実質経済成長率も1.5%程度になる。

今月、FRBは今年第4四半期の実質経済成長率を2.1%~2.3%へと3月の見通しを下方修正したが、4月(前年比1.8%)、5月(1.5%)の消費支出のペースではあきらかにこの見通しに届いていない。さらにPCE物価指数(食品・エネルギーを除く)は5月、前年比1.5%と予測の範囲に収まっている。経済成長が予測を下回るようであれば、FRBはゼロ金利政策を解除するわけにはいかない。ゼロ金利がいつ引上げられるかもわからない状況になっていることが、円ドル相場に影響しているのである。

5月の米非労働力人口は9,200万人、前年よりも225万人も増加しており、もしこの非労働力人口を失業者に入れば、失業率は7.7%になる。失業率は低下しているとはいえ、まだ過去の景気回復期に比べれば依然高く、しかも実質的な失業率が高いことが消費支出の回復を阻んでいるのである。

超低金利で耐久消費財は売れているけれども、非耐久消費財は低調であり、主力のサービスも伸びは低い。サービスは今年に入ってからも3月は前月比0.7%伸びたがそれ以外の月はほぼ0.1%と低迷しており、このサービスの伸び悩みが消費支出の足を引っ張っているのである。個人消費支出が約7割を占める米国経済では個人消費がもっと高い伸びを示さなければ、高い成長は実現できない。個人消費の拡大が持続性をみせなければ民間設備投資意欲も湧かないだろう。設備投資が堅調にならなければ高い経済成長は実現できないのである。もともと貿易収支は赤字であるから、設備投資の勢いが弱ければ、超過貯蓄は結局、政府部門の支出増で吸収されるほかない。

名目GDPの構成比をみると、金融危機の起こるまえの2007年には政府部門は19.3%だったが、2009年には不況対策を講じたことにより21.4%に上昇、その後は下がり続け2013年には18.6%と2001年以来12ぶりの小さな政府となった。2013年の政府支出の内訳は連邦政府が7.4%、地方政府が11.2%と地方の割合が大きい。連邦政府は軍事と非軍事にわかれるが、4.6%、2.8%と軍事が非軍事の規模を上回っている。

 消費の力がなく、自律的成長に至らない段階で政府部門を横ばいないし減少させると、経済は足踏みしてしまう。名目GDPの政府支出は2010年の3.17兆ドルからほぼ横ばいで推移していたが、2013年には3.12兆ドルに減少した。今年1-3月期は前年比0.2%減少した。こうした政府部門の抑制・削減が米国経済の成長を弱いものにしているのだ。

 政府支出の削減を一層強めることになれば、実質2%程度の低い成長でさえも達成できないことになる。ゼロ金利を5年半も続けていながら、消費が以前のような伸びに回復しないことは、家計は米国経済の先行きを決して楽観していないことのあらわれだと思う。ゼロ金利と国債利回りの低下でも民間設備投資を刺激することができなかった。利回りと設備投資には相関関係がないことは当然のことだが、期待収益率がこれほどにまで低下するとはFRBも予想していなかったのではないか。

国債利回りの低下は国際的であり、6月のIfo景況指数の2ヵ月連続の低下や6月ユーロ圏PMIの低下によって、独国債利回りは週末1.26%に低下し、日本の国債利回りも5月の消費者物価指数が前年比3.7%に上昇したが、0.56%と過去最低水準に近づいた。ゼロ金利や国債購入政策では実物経済を刺激することはできないのである。これまでの日本経済を振り返れば金融政策の限界がわかるのだが、日本とは違うと思っているのか、金融政策に偏った経済運営を執り行っている。これでは、実体経済が元のような姿を取り戻すことはできず、マネー経済だけが活況を示す本末転倒の事態が続くことになるだろう。

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