5月4日、ERBは3月に続いて政策金利FFレートを引き上げた。前回の上げ幅は25ベイシスポイント(bp)だったが、今回は50bp引き上げ、FFレートは0.75%となった。4月28日に公表された今年1-3月期の米名目GDPは前年比10.6%と2四半期連続の2桁増であり、GDPデフレーターは6.8%に上昇した。こうした実体経済に照らし合わせれば、0.75%にどれだけの効果があるか、はなはだ疑問だ。焼け石に水といったところか。本来であれば、もっと早い段階で政策金利を上げるべきだったが、金融・資本市場の動向が気掛かりで利上げは遅れに遅れた。2%の物価目標を掲げていながら、FRBは物価上昇を横目で見るだけであった。PCE物価指数が昨年3月、前年比2.4%と目標の2%を上回り、今年3月には6.6%へと1年で大幅に上昇してしまった。PCE物価指数が前年比6.6%になりFRBの目標を4.6ポイント上回って、やっと重い腰を上げたのである。
今年1-3月期の米実質GDPは前期比0.4%減少したが、これは在庫減と貿易赤字の拡大が原因であり、米国経済の主力である個人消費支出(PCE)や民間設備投資の伸び率はいずれも前期よりも高く、米国経済の拡大は持続している。
名目PCEは前年比11.3%、民間設備投資も10.9%伸びており、米国経済は過熱状態にあると言える。4月の雇用統計によれば、非農業部門雇用者は前月比42.8万人増と前月と同数の拡大を示し、時間当たり平均賃金も前年比5.5%とやはり前月並みに伸びており、0.75%では、この行きすぎた景気拡大を沈静化させることはできない。
年内5回のFOMCが開催されるが、すべてのFOMCで50bpの利上げを実施したとしても3.25%である。先週末、米10年債利回りは3.13%へと2018年11月以来3年半ぶりの高水準に上昇した。その時のFFレートは2.25%であり、10年債利回りがFFレートを約90bp上回っていた。先週末の格差は2.38%あり、過去の利上げ局面に比べて、10年債利回りの上昇ペースは速く、先行きの政策金利の上昇をかなり織り込んでいると言えるだろう。
10年債利回りの急速な上昇は、実体経済に時間は掛かるけれども、じわじわ効いてくるはずだ。だが、最も打撃を受けるのは株式や住宅などの分野である。資金調達コストの上昇により、ゼロ金利下のように安易な売買はできなくなる。しかも、国債価格の値下がりがまだ続いていることから、流動性確保により妙味があることも、株式の魅力を削いでいる。6月には、FRBはバランスシートの縮小に乗り出し、債券利回りはさらに上昇するだろう。利回りの上昇による現在価値の下落も加わり、米株式の下落は止まりそうにない。すでに、ナスダック総合は昨年11月に付けた過去最高値から約25%下落している。
2月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は前年比20.2%と依然高騰しているが、住宅ローン金利(30年固定、5月5日現在)は5.27%と2009年8月以来約13年ぶりの高金利に見舞われており、住宅取得は難しくなってきている(昨年末は3.11%)。住宅価格の高騰は米国だけでなく、ユーロ圏も同様に記録的な上昇になっている。昨年第4四半期のユーロ圏住宅価格は前年比9.4%と2005年の調査開始以来最高の伸びである。特に、ドイツは12.2%と3四半期連続の2桁増だ。ドイツ10年債の利回りが今年1月までの2年半ほどマイナスであったことが住宅価格を押し上げたのである。だが、米国の利上げによって、ドイツの国債利回りも先週末1.13%(2014年7月以来)と昨年末比1.32%上昇し、米国の1.62%に次ぐ上昇となっている。因みに、昨年末からのイギリスの上昇幅は1.03%であり、日本は日銀が徹底的に上昇を抑制する姿勢を露わにしていることから0.17%にとどまっている。
日本不動産研究所の「不動研住宅価格指数」によれば、今年2月の首都圏総合指数(既存マンション、2000年1月=100)は108.47と前月比20カ月連続で上昇し、前年比では11.86%だ。東京都指数は120.02、前年比11.34%、出遅れていた埼玉県指数は90.71、前年比20.33%も上昇し、バブル化している。
イングランド銀行は5日、政策金利を0.25%引き上げ1%とした。ECBは年内には利上げに踏み切るだろう。ゼロ金利を持続するのは日本だけということになる。そうした金融政策の相違から、先週末のTOPIXは昨年末比3.9%の下落にとどまっている半面、S&P500は13.5%、STOXX EUROPE 600も12.0%それぞれ下落している。金融政策の違いが株式や為替に顕著に表れている。
先週末の為替相場を昨年末で比較すると、円ドル相場の変動が最大で、13.5%もの円安ドル高だ。昨年6月から貿易赤字は続いているが、これだけ円安ドル高が進行すると輸出は伸び輸入は減少することになるはずだ。一方、米国の今年1-3月期の貿易赤字はドル高によって輸入が拡大し、2,888億ドルと前年同期を41.6%も上回っている。この傾向が持続すれば今年の米貿易赤字は1兆2,000億ドル程度に拡大するだろう。これだけのドルが世界中に散布されるということだ。対米輸出国はドルでは使えないのでドル売り自国通貨買いに出る。為替の価格メカニズムが働くことや米国の巨額のドル散布などにより、いつまでも一方方向に為替相場が進むことはない。大きく動けば、必ずそれと反対の動きが現れることは、歴史が証明している。
日銀は金融政策について頑なな態度を変えず、ゼロ金利を続けるという。ゼロ金利で株式を支え、為替は円安にする。だが、こうしたゼロ金利政策を長年続けてきても、日本経済は一向に代わり映えしない。特に、日経平均株価は2012年12月26日の第2次安倍内閣発足後から辞任した2020年9月16日までに約2.2倍に値上がりしたが、名目GDPは8.4%増、個人消費支出(帰属家賃を除く)は0.3%減少している。この間、2度の消費税率の引き上げが行われたにもかかわらず、消費は減少したという事実をみれば、株式は実体経済に少しも寄与していないことは明らかだ。
こうした実態にもかかわらず、岸田首相は「資産所得倍増」というばかげた主張をロンドンのシティーでぶったのだ。数十年前から「貯蓄から投資へ」を政府は叫び続けているが、それでもまだ叫び足らないようだ。株価の上昇は株式発行を促し、調達した資金を設備投資や研究開発に投資することにより、実体経済を躍動させるのだが、今では発行市場は流通市場の陰に隠れてしまっている。2021年の全国上場会社の株式による資金調達額は3.53兆円と2020年の1.57兆円に比べれば2.2倍になっているが、公募は1.36兆円(うち新規公開は1,762億円)にすぎず、第3者割当等が1.78兆円と株式調達の5割を占めている。債券の調達(10.94兆円)に比べれば、株式は三分の一に過ぎない。
株式の売買が活況になっても、お金が頻繁に動くだけで、博打と同じで胴元と一部の富裕層の懐が膨らむだけなのである。ゼロ金利は株式への参入を促したけれども、発行市場を安楽死させつつある。株式に流動性があることが投機を強めるが、本来、企業などの実体経済に流動性などないのだ。流動性のないものに流動性を付与した株式市場は一方通行になってしまえば、流動性は機能しなくなり、パニックに陥ることになる。そうした局面が近づいてきているのかもしれない。