FRBは先週開催のFOMCで政策金利を0.75%へと0.25%引き上げた。前回の利上げ(昨年12月)からは3ヵ月後ということになる。1年後となった2回目の利上げに比べれば、期間は短くなり、利上げペースは速くなってきた。3ヵ月毎に利上げすれば次は6月になる。さらに9月、12月に利上げすればFFレートは1.5%に上昇することになる。それでも名目経済成長率を下回っていることになるだろう。FRBの予測によれば、今年の実質経済成長率は2.0%~2.2%であり、政策金利は実質さえも下回ることになる。実体経済に比べれば歴史的超金融緩和が続くことになる。
物価が高騰した第2次オイルショックの1981年、米政策金利は14%まで引き上げられた。これがピークとなり、その後、政策金利の長期トレンドは右肩下がりとなった。第2次世界大戦後から1960年に至るまでの米国経済の変動幅は大きかったが、ベトナム戦争が始まった1960年以降は拡大成長経路を辿ることになった。それを可能にしたのは政策金利を低く抑えていた金融緩和策であった。政策金利を低目に誘導することにより、長期金利も実体経済に比較して低い水準で推移し、設備投資意欲を盛り立てた。だが、2回のオイルショックにより、米国経済だけでなく世界経済は低成長と物価高という悩ましい事態に陥った。
第2次オイルショックを境に米政策金利はほぼ名目経済成長率に遅行する形で推移していた。なにしろ強烈な物価上昇に見舞われた恐怖感が、かつてのような政策金利の低め誘導を阻止していた。低くすることによって物価高騰がおこるのではないかという懸念が、中央銀行につねにまとわりついていたのである。だから、1981年のピーク以前の政策金利は名目GDPの伸びを下回る水準に位置していたが、ピーク以降、政策金利は名目GDPの伸びと同じ程度で推移していた。長期の金利トレンドは第2次オイルショックをピークとした左右対称の形状になっている。
名目GDP(昨年10-12月期、前年比伸び率)と昨年末FFレートの差は3%だ。ゼロ金利にしてからその差は4%を超えるときもあったが、それでも依然開きは大きい。1980年以降では今の政策金利は、異常に低い水準に据え置かれたままだといえる。実体経済と政策金利との乖離幅が大きいということは、金融経済を優遇していることでもある。が、政策金利を超低金利にとどめていても、米実体経済の回復力は弱く、以前のような成長経路に戻るような気配を窺うことはできない。
ゼロ金利や超低金利をこれだけ長期間続けても、米国経済はもはや実質3%、4%の成長を達成することはできないし、金融政策では実体経済を起動させることができないことが証明されたともいえる。
ゼロまで金利を引き下げ、かつ大規模な国債等の購入策の実施によって金融経済を優遇したことが、2008年にあからさまになった不良債権の膿をいまだに米国経済に抱えていることを可能にさせた。そのことが実体経済の回復を妨げているのだろう。米国経済のバランスシートはまだまだ不健全だといえる。政府系機関保有の住宅担保債券は昨年末、8.52兆ドルと2012年3月末(7.53兆ドル)を底に増加傾向にあり、一部は不良債権として塩漬け状態にあると予想される。FRBと商業銀行は1.75兆ドル、2.06兆ドルそれぞれ保有している大口債権者である。本来、清算されるべき不良資産を抱えたままであれば、資金の流れは悪くなり、実体経済の歩みを阻害することになる。こうした影響を受けているから実体経済がおもいのほか弱いのだろう。
不良資産の保有を可能にしているのはゼロ金利なのだ。資金の借入コストの低下が不良債権の保有維持を可能にしている。だが、必要なところへ資金が流れる通路が狭くなるというマイナスの側面も大きい。だが、今後、徐々に政策金利が引き上げられることになれば、資金コストは上昇し、不良資産を保有することが難しくなるだろう。過度に金融経済に依存している米国経済は、予想以上に利上げの影響を受けやすくなっているのである。小幅な利上げであっても、米バランスシートへのインパクトは大きいのではないだろうか。
2月の米小売売上高は前月比0.1%と低迷し、前年比でも2.1%の低い伸びとなった。2月の鉱工業生産も前月比横ばい、前年比0.3%と足踏み状態である。一方、消費者物価指数は前月比0.1%だが、前年比では2.7%と2012年3月以来約5年ぶりの高い伸びである。食品・エネルギーを除くコアは前年比2.2%と過去1年以上2%台前半で推移している。個人消費支出物価指数のコアは1月、前年比1.7%だが、近いうちにFRBの2017年予測(1.8%~1.9%)を上回るだろう。そうなればFRBの利上げ速度は速まるはずだ。トランプ政策により、米国経済のたどたどしい足取りはさらに乱れることになるが、利上げはこの混乱に拍車をかけることになりはしないか。
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