イタリアの政局混乱懸念からイタリア国債利回りが急騰し、対ドルでユーロは昨年7月以来の水準に落ち込んだ。が、6月31日、連立合意が成立、ひとまずイタリアの政治の混乱は収束し、ユーロドル相場は週間ではほとんど変わらずで引けた。これでユーロが安定するかといえば、懐疑的にならざるを得ない。南欧の実体経済は引き続き低迷しており、それが政治的マグマとしていつ噴き出ても不思議ではないからだ。
4月のユーロ圏失業率は前月比0.1ポイント低下の8.5%だが、イタリア、スペインは11.2%、15.9%である。ユーロ圏の失業率8.5%を上回る国はギリシャ20.8%、フランス9.2%、キプロス8.6%を加えた5ヵ国だが、すべて地中海に面した南欧である。
2008年、欧州でも不動産バブルが弾け、経済が急速に悪化した国が南欧には多い。景気は緩やかに回復しているけれども、EUの厳しい財政規律によって、思うように財政支出の拡大を図れず、高失業率の解消までにはいたっていない。
EUは共通通貨とECBによる金融政策を導入したが、国債は各国の経済や信用力に依存し、ECBの影響力は及ばない。その結果、ドイツのように経済力と信用力の強い国の国債は人気を博し、そうでない国の国債はリスクが高いということで買い手は少ない。経済が強い国の国債は利回りが低下し、資金調達コストが低くなり、それによって、ますます経済が強くなるという仕組みになっている。一方、経済の弱い国は競争力が低下し、景気低迷から抜け出せなくなる。このような問題をEUは抱えているため、EU各国の成長は相当不揃いでまだら模様となり、しかも経済格差は拡大することになる。だから国民の政治への不満は高まり、イタリアのように反EU政党が躍進することになるのである。
今年1-3月期のユーロ圏実質GDPは前年比2.5%だったが、イタリア、フランスはそれぞれ1.4%、2.1%と弱い半面、スペインは2.9%とユーロ圏を上回っている。週末のイタリア国債(10年物)の利回りは2.64%、1ヵ月で86ベイシスポイントも上昇しているが、スペインは1.41%、同13ベイシスポイントの上昇にとどまっている。一方、週末、ドイツ国債は0.38%、同18ベイシスポイント低下しており、南欧の国債売り、ドイツ国債の買いという動きが強まった。
米10年債利回りは3%割を割っているが、ドイツ国債利回りの低下から米独金利差は拡大し、対ドルでユーロは安くなっている。円ドル相場は週央、108円台に上昇したけれども、5月のISMや米雇用統計が強く、109円台に押し戻された。
強い経済指標の発表にもかかわらず、6月1日の米10年債利回りは前日比5ベイシスポイントの上昇にとどまった。5月の米失業率は前月比0.1ポイント低下の3.8%と2000年4月以来約18年ぶりの低い記録である。だが、賃金は前年比2.7%と前月より0.1ポイントの上昇と過去3年ほどの変化の範囲に収まっており、賃金の伸びは安定しているといえる。これほど長期間、米経済の拡大は持続しているが、賃金の伸び率はリーマンショック以前の3%を超える高い伸びには達していない。
賃金が上がらないのは、ひとつは労働参加率(労働力人口・16歳以上の人口比率)が下げ止ったままで上昇しないからである。2008年1月の労働参加率は66.4%だったが、経済の急激な悪化から仕事に就けず、就労を諦めたため労働参加率は低下していった。2015年9月には62.3%と1977年9月以来38年ぶりの低水準だ。その後もはかばかしい改善は見られず、今年5月も62.7%にとどまっている。労働参加率が低いことは、非労働力人口に隠れている潜在的労働力が十分にあるということだ。失業率は歴史的低水準だが、労働参加率が低いことが失業率にげたをはかせているといえる。賃金が上昇していけば、非労働力人口から労働力人口にシフトするという潜在的労働供給力の過剰さが、賃金の上昇を抑えているのではないだろうか。
賃金の上昇率が緩慢なことが、個人消費を緩やかにし、延いては物価の伸びを適度なものにしているのである。トランプ大統領の気まぐれな経済政策でも、今、米国経済は心地よい径路を進んでいるように思う。
他方、日本はどうだろうか。森友問題で佐川氏ら財務省幹部38人全員が不起訴になり、働き方改革関連法案は衆議院を通過した。月100時間未満の残業を国が認めるなど企業寄りの改革では、日本企業の長時間労働はすこしも改善されないだろう。公文書を破棄、改竄し、国会運営に莫大な損失を与えたにもかかわらずなにの咎めもない。これでも日本は法治国家なのだろうか。
いったいだれのための法なのかが問われている。官僚が官僚に都合よく作った法なのだろうか。だれが、いつ、なぜ文書を改竄・破棄したのか、まったく究明されていないにもかかわらず、不起訴なのだ。国会答弁に辻褄を合わせるために改竄、破棄したというが、なぜ官僚がそのようなことをしなければならなかったのだろうか。官僚の上に立つ内閣や政治家の働きかけがなければ、嘘の答弁などするはずがない。嘘の答弁をしてなにか個人的にあるいは組織的にメリットがあるのだろうか。こうした問題の本質を曖昧にし、官僚に手が回らないようにすることが検察(官僚)の目指すところなのだろう。
6月1日、厚生労働省は2017年の『人口動態統計』を発表した。出生数の94.6万人に対して死亡数は134.0万人、自然減は39.4万人である。出生数の100万人割れは2年連続であり、明治32年(出生数138.6万人)以降では最低を更新した。合計特殊出生率は1.43に低下、平均初婚年齢は夫妻ともに横ばいだが、婚姻件数は60.6万件と減少しつづけている。
このような状況だが、2017年度の男性の育児休暇取得率は5.14%という情けないほど低い。事業所規模別では5~29人が6.13%と高く、500人以上は4.98%であり、大企業にも育児休暇取得はほとんど浸透していないのだ。このように男性が育児に参加しないで、出産・育児を女性だけで切り回していくことは不可能に近いと思う。だから、出産にブレーキを掛けざるをえないのである。育児休暇取得率だけでなく、長時間労働も出産・育児に関わることを難しくしている。年次有給休暇取得率も男性は46.8%(2016年)と低く、男性は会社にがんじがらめにされており、こうした会社の仕組みでは、もはや日本社会は立ち行かなくなっているのだ。