4月の米失業率、約17年ぶりの3%台

投稿者 曽我純, 5月13日 午後9:29, 2018年

1ヵ月弱、自宅を離れている間、米国の国債利回りは上昇し、それによってドル高が進行した。ドル高だが、原油などの商品相場は値上がりしている。NYダウも戻しており、それにつれて主要国の株式も堅調である。米国債利回りは上昇しているが、欧州の利回りに大きな変化はない。短期金利については、過去1ヵ月、米国にも動きは見られない。

米国債利回りの3.0%超えだけが注目され、ドルが買われているが、特に、米国経済が力強さを増してきているわけではない。米債への影響力の大きい平均賃金も4月、前年比2.6%と2月以降3ヵ月連続の横ばいである。1月は2.8%だったが、昨年9月も2.8%を付けていた。前年比2.0%前後でもたついていた平均賃金は2015年に上がりだし、2016年以降は2.4%から2.8%の範囲で推移している。失業率が歴史的な水準に低下しても、賃金は一向に上昇しないのである。このことが物価の安定にも繋がっているのである。

実質GDPの個人消費支出は2015年、前年比3.6%と2004年以来11年ぶりの高い伸びを示したが、2016年、2017年は2.7%、2.8%に低下した。平均賃金は上方にシフトしたが、個人消費支出はさして伸びなかった。個人消費に力強さが欠けたため、2016年、2017年の実質GDPは1.5%、2.3%にとどまった。

今年1-3月期の実質GDPは前年比2.9%と2016年4-6月期の1.2%を底に7四半期連続の伸び率拡大だ。これを見れば、米国経済は確かに回復しているといえるのだが、2015年1-3月期には3.8%も伸びており、回復しているとはいえ、依然3%割れでは決して高いとはいえない。

個人消費支出が思わしくないのは、可処分所得の伸びが低いからだ。一人当たり実質では2015年は3.4%も伸びたが、2016年、2017年は0.7%、0.5%と2年連続で1%を下回った。今年1-3月期は1.3%に戻しているが、それでも伸びは低く、これでは、主エンジンである消費は伸びず、米国経済は力強さを取り戻すことはできない。

3月の米貿易収支によれば、輸出と輸入は前年比11.0%、9.0%それぞれ伸び、米国と世界経済は拡大を続けていることを裏付けている。が、4月のISM景況指数は製造業、非製造業ともに前月を下回り、景気頭打ちの兆しもあらわれている。

個人消費支出の緩やかな拡大によって、消費者物価指数は落ち着いている。4月の食品・エネルギーを除く指数(コア)は前年比2.1%と前月と同じであった。昨年の1.9%に比べれば上昇しているが、2016年の2.2%とほぼ同じであり、今後、物価上昇が激しくなるとは考えにくい。

米消費者物価(コア)が前年比3.0%を超えたのは1995年12月が最後であり、その後22年超、2%台以下で推移しており、長期的に物価は極めて安定している。対照的に、株価は著しく上昇しており、企業利益の拡大や資産・所得格差の拡大が顕在化していく過程であった。多数の米国民の所得の伸びは低く、消費支出意欲を掻き立てることはできなかった。2008年のリーマン・ショックによって、消費者の購入意欲は一段下方シフトしたのではないかと思う。

3月の個人消費支出物価指数、同食品・エネルギーを除く指数は前年比2.0%、1.9%といずれもFRBの2018年の予測範囲に収まっている。雇用も拡大を続け、失業率は3.9%に低下した。失業率の3%台はITバブルの2000年12月以来、17年4ヵ月ぶりだ。2000年4月には3.8%に低下しているが、その前の3%台は1970年1月(3.9%)とさらに約30年も遡らなければならない。3%台の失業率というのは記録的な数字なのである。1948年以降、70年間でも極めて稀な低失業率でも物価は安定している。

こうした歴史的な失業率も米債券相場への影響は限定的であった。いまの米国経済は物価と失業率が背反するのではなく、両立しているのである。これは米国だけでなく日本やドイツについても当てはまる。かつて物価と失業率にはトレードオフの関係があるとながいあいだ信じられていたけれども、日米で数十年もそのような関係をみることはできない。

低い物価上昇率を背景に政策金利は抑えられ、株式などの金融資産は上昇していった。4月末のNYダウは前年比15.4%も上昇している。2月の住宅価格は前年比6.8%と1-3月期の名目GDPの伸びを上回っている。米株式価額・名目GDP比率は昨年末、2.32倍と過去最高を更新した。2008年の金融恐慌以前のピーク(2007年第2四半期)でも1.81倍であった。今はそれを大幅に上回っており、実体経済との比較では米株式は明らかにバブルといえる。

金融政策は物価と雇用に寄与したと思われるけれども、金融経済を肥大化させ、バブルにした。FRBはいまだに0.25%ずつ恐る恐る利上げしているが、実質マイナス金利であり、名目GDPの伸びを大幅に下回っている金利の状態をいつまで続けるつもりなのだろうか。こうした異常な金利と経済の関係が続けば、株式等の金融経済はさらに膨れていくことは間違いない。

PDFファイル
180514).pdf (402.4 KB)
Author(s)