トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との批難の応酬はエスカレートする一方だ。安倍首相もトランプ大統領の尻馬に乗り、緊張関係を増幅させている。相手がどうであれ、粘り強い交渉で話し合いにたどり着く努力をすることが、政治家の最大の使命だと思う。威勢のいい言葉を発するだけでは、事態はすこしも改善しない。国民に受けるような、みせかけの発言では墓穴を掘ることにもなりかねない。トランプ大統領に追随していれば、事態はなにも好転しないだろう。むしろリスクは高まり、日本が最初に攻撃されるかもしれない。安倍首相は日本を危険な国に仕向けている。
戦前、政治家や軍人たちが国民を高揚させ、戦争に突入していった状況を思い起こすならば、安倍首相の国連での演説はそれと同類のものではないか。今月28日には衆議院を解散し、選挙戦に突入する見込みだが、北朝鮮を激しく非難することで衆議院選を有利にしようと目論んでいるように思える。北朝鮮問題を煽り、国民の関心を国内問題から逸らすという作戦が透けて見える。
大国が寄ってたかって北朝鮮に制裁を加え、孤立化させているが、戦前、日本の孤立化が戦争へと推し進めたことに思いを寄せるならば、制裁強化と孤立化では日本と同じような最悪の事態に行き着くかもしれない。だれかが北朝鮮との対話をしなければならないが、そのような強いリーダーシップを発揮する人物がいないことが、事態をより深刻にしている。
北朝鮮と米国の激しい応酬とは裏腹に、米国株式は過去最高値を更新し、日本株も年初来高値を更新している。為替相場が円安ドル高に推移していることが、日本の株高に繋がっている。『貿易統計』によると、8月の輸出は前年比18.1%と2013年11月以来3年9ヵ月ぶりの高い伸びとなった。8月の円ドル相場は110円77銭と前年と比べて7円53銭の円安になったからだ。海外経済の拡大によって、数量ベースでも輸出は10.4%の2桁増である。9月も前年比で円安ドル高になるのは確実であり、輸出は引き続き伸びるだろう。
FRBは19、20日開催のFOMCで政策金利は据え置いたが、10月からバランスシートの正常化に着手すると発表した。一方、20、21日の金融政策決定会合で日銀は引き続き国債を年80兆円購入することとした。こうした金融政策の違いが円安ドル高をもたらしたのだ。
ただ、日銀の国債購入額は表向き年80兆円だが、実際には、その半分の40兆円(9月20日時点の国債残高の前年比増加額)に減少している。なにしろ日銀の国債保有残高は432兆円(9月20日時点)に膨れ、国債残高の4割を保有しており、思うように買えなくなっているからだ。だから日米の金融政策の方向は違うが、円ドル相場はそれほど大きく動かないのである。
それにしても日米の中央銀行の行動はあまりにも経済実態とかけ離れていると言わざるを得ない。特に、日銀はすでに4年以上、巨額の国債購入を続けているが、2%の物価目標にはまったくとどいていない。にもかかわらず、お題目でも唱えるように、巨額の国債購入を続ける。マネーを供給すれば物価が上がることを妄信しているのだ。猪突猛進であり、捨て身のテロ行為と考え方は変わらない。そのような法則が正しいのであればとっくに物価は上昇しているはずだ。が、マネーは金融機関から非金融機関にでていっていない。金融機関が日銀への国債売却で得たマネーは、日銀に還流しているだけで、家計や企業には流れて行かない。企業は利益を分捕り、マネーは有り余るほどある。家計は労働分配率の低下に苦しみ、消費を拡大するどころではないのである。日銀政策委員会委員のような超高額所得者では一般家計の窮状など予想もつかないだろう。空理空論をもてあそび、目標未達を何年経過してもお咎めなしの無責任体制の日銀、余りにも目に余る組織ではないか。
どちらを向いて政策遂行しているかが重要だ。森友・加計問題で登場した財務省を始めとする公務員はあまりにも傲慢ではないか。すべてが安倍首相の方向だけを向いて仕事をしているのだ。公僕ではなく安倍首相の僕になってしまっている。日銀も総裁を筆頭に安倍首相の僕に堕落しきっている。だから、成果がまったくでなくても首が繋がっているのである。安倍独裁政治が続く限り、日銀は国債を買い、株や不動産も買い続けるだろう。
株式や不動産は正常な価格形成が損なわれ、価格は歪みに歪んでいる。資本主義経済を標榜しながら、実は、中国以上に統制された株式・不動産市場だといえる。いつもバブルを発生させるのは政府や中央銀行の政策だということを忘れてはならない。
過去72年間、戦争はなかったけれども、1990年代の株式・不動産のバブル崩壊で数百兆円が吹き飛んだ。2011年には東北大震災により福島第1原発がメルトダウンした。メルトダウンにより、これからいくら掛かるかわからないほどの巨額の負担が発生する。
バブル崩壊も原発のメルトダウンもすべて人災だということである。これらには政府・日銀の政策がかかわっている。そして、今も政府・日銀の共謀によって、株式・国債・不動産バブルが作られているのである。経済が縮小しているときに、これらのバブルが崩壊すれば、日本経済は1990年代以上の深刻な長期不況に陥るだろう。日銀は安倍首相の鞄持ちではなく、国民の側に寄り添った政策を遂行すべきだ。