2倍超に上昇した米株式・GDP比率

投稿者 曽我純, 12月11日 午後6:06, 2016年

日経平均株価は5週連続の値上がりで、昨年末以来の高値を付けた。5週連続の円安ドル高と同一歩調である。1ヵ月で10円超の円安ドル高だ。NYダウも5週連続で伸びているが、米大統領選挙の11月8日比での上昇率は、TOPIXの11.9%、日経平均株価の10.6%に対してNYダウとS&P500は7.8%、5.6%それぞれ上昇しており、日本株の上昇率を下回っている。トランプ氏の米大統領就任で最も影響を受けるのは米国の政治・経済だが、なぜ米国よりも日本株がこれほど値上がりするのだろうか。

次期政権の重要ポストにウォール街出身者が就くことにより、株高政策が採られると予想され、米株高の進行が日本株高に結びついているのかもしれない。NYダウなどの米主要株価指数は過去最高値を更新しているが、日本株は値上がりしたとはいえ、過去最高値の半分にも満たない。こうした出遅れ感が米株以上に日本株が値上がりしている理由なのだろう。欧州の主要株価指数も過去最高値に近づいており、日本株のように出遅れてはいない。FT100やDAXは1.6%、6.9%の伸びにとどまっている。

これほど株価が上昇していることから、今週のFOMC(13日、14日)では来年の利上げペースを引き上げるのではないかと予想され、こうした利上げを見込んでの円安ドル高期待の高まりが、ドル買い円売りを促し、さらなる円安ドル高に繋がっているのである。

日米10年国債の利回り格差は、米国債の上昇により拡大しており、しかも独米よりも格差は大きくなっており、ドル高円安がドル高ユーロ安よりも強くあらわれている。FOMCで来年の利上げ幅が大きくなると予想されるならば、米国債利回りは一層上昇することになり、ドル高円安が進行するだろう。

一方、トランプ氏は対米黒字国に対してはドル安を唱えていることから、口先介入にも警戒が怠れない。1ヵ月間で約10円もの急速な円安ドル高だけに、年末やトランプ氏大統領就任式の来年1月20日前後が反転のときになるかもしれない。

米株式は過去最高値を更新しているが、7-9月期の企業利益は前年比5.2%の小幅な伸びにとどまっている。10月の米財輸入は前年比1.6%減と2ヵ月連続のマイナスだし、輸出も1.6%減少しており、米国をはじめ世界経済に勢いは感じられない。10月の米資本財受注は前年比4.2%減少しており、設備投資回復の兆しはみえず、10-12月期の米企業利益も期待できそうにない。実体経済に比べて株式の値上がりが目立つということは、バブルが醸成されつつあることでもある。

7-9月期の『Financial Accounts of the United States』が公表されたが、それによると9月末の米株式価額は37.24兆ドルと前年よりも8.9%増加している。先週末のS&P500は9月末を4.2%上回っているので、これを適用すれば、現在の米株式価額は38.81兆ドルになり、9月末よりも1.57兆ドルの増加だ。今の為替レートでは2ヵ月強で181兆円も増えていることになる。

株式と実体経済の関係をみるには、株式価額と名目GDPを比較するとわかりやすい。株式価額・名目GDP比率が低ければ株式が過少評価されており、高ければ過大評価されているからだ。1945年以降を年末値みると、1994年までは概ね1倍以下に収まっていた。だが、1995年以降は1倍を超えており、ときには2倍にも達している。

1990年代に入り比率は急上昇しており、ITバブル期の1999年には1.98倍と過去最高を更新した。株式価額は名目GDPの約2倍に膨れたのである。ITバブル崩壊により、株式は下落し、2002年には1.13倍に低下した。その後、金融バブルが膨らんでいくにつれて比率は上昇、2007年には1.75倍となった。金融バブル後の急激な株式収縮により、2008年には1.04倍に急低下した。だが、株式の回復は著しく、2013年には2倍と過去最高を更新、2014年は2.11倍へとさらに上昇し、株式は実体経済をはるかに上回る速度で拡大していった。

株式・GDP比率は高水準を維持しており、いまも2倍を超えている。1945年以降の71年間を振り返ってみても、今の状態は異常だといえる。このような高比率が長期間持続したことは過去になく、早晩、株式の収縮によって修正されるはずだ。

長期間、2倍もの株式・GDP比率が続いているのは、ゼロ金利等の金融政策によるものだ。FRBがゼロ金利政策等を続けたことにより、資金調達コストが低下し、株式と実体経済の関係が崩れてしまったのである。金利の引き上げが緩やかであれば、株高の調整も緩やかだが、利上げのテンポが速ければ株高の調整速度も速まるだろう。

実体経済が株式よりも伸びることにより、高比率が修正されることはないだろう。株式がこれだけ好調で株式価額が増加しても、個人消費支出は緩やかなままだ。株高の個人消費への関連性は薄いのである。一部の富裕層が株式の大半を占有しているため、株高によって個人消費を底上げすることはできないのである。

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