週末、日経平均株価は約3%も急落し、6月17日以来の1万5,000円割れとなった。先月30日の高値からは5.5%の値下がりだ。8日、アジアや欧州の主要株価も下落したが、値下がり率は日経平均株価ほどではなかった。ウクライナの緊張や米オバマ大統領のイラク空爆承認により下落したというが、消費税引き上げによる日本経済の不振が露になってきていることが、急落を引き起こした主因だと思う。株式市場参加者は1万5,000円台の水準に神経質になっていたのである。
経済が悪化し始めているときに、株式を買うことは、最悪の投資行動であり、株式投資のセオリーから完全に外れた行動だ。このようなときに、株式を購入すれば高値掴みとなり、長期間保有せざるを得なくなる。持ちこたえることができなければ、安値で売らなければならなくなり、損失が発生する。
株価が値下がりすれば、年金積立金管理運用(GPIF)が国内株式運用比率の引き上げを仄めかす。安倍政権はこのような姑息な手段で株価を維持しようとしているのだが、過去の国による株価維持政策はことごとく失敗に終わっている。つまり、日本経済の中身が良くならなければ、国がいくら株式に金を注ぎ込んでも、株価の維持はできないのである。国が株式を購入する過程で外人は売り抜け、国は巨額の損失を被ることになる。いままでそのような歴史を繰り返してきたが、国はまったく懲りない。GPIFの責任者たちがすべての財産を没収されるような厳しい責任を追及されないからである。
GPIFは厚生年金や国民年金の金を株式で運用しているが、株式運用比率をより高くするという。だが、日本経済がマイナス成長をしながら、株式は上昇していくというのだろうか。ゼロ金利と国債購入でこれだけ株式を煽っても、この程度が関の山なのだ。しかも、こうした金融政策では実体経済を成長径路に乗せることができないことが、国民にもわかりかけてきた。百兆単位で金融機関から日銀が国債を購入したところで、非金融部門に金が回らないことが。
偏在しているが、金は家計と企業に山ほどあるので、資金需要は湧いてこない。所得格差や資金の偏在を改善することができれば、少しは金も回るようになるけれども、基本的には成長しない経済では新規資金需要は生まれてこない。
巨額の資金を抱え、貸出が伸びないのは、腹いっぱいのところへ、さらに食わせることができないのと同じである。無理に食わせれば、体調を壊すことになり、成人病を患うことになる。日銀の金融政策は日本経済を治すのではなくより悪くする薬なのだ。どのような薬も副作用があるので、できる限り薬は飲まないほうがよいのだが、日銀は劇薬に手を染めてしまった。
一時的に舞い上がった株式によって、GPIFの運用益は拡大したけれども、プラスの運用益が続くという保証はまったくないのである。まさに、株式運用は博打の世界なのである。上手く行くときもあるが、まったく酷いときもある。株式運用でコンスタントに儲けを出すなどということはできないのだ。誰が株式運用してもうまくいかないし、うまくいったためしがない。博打の世界に年金の金を注ぎ込むなど狂気の沙汰ではないか。巨額の損失が発生しても、あまりに巨額だから、だれも責任など取れない。責任が取れないことなど、すべきではない。
福島原発の大事故が起きてもだれも刑務所に収監されていない。逮捕されないばかりか、東電は国家管理となり、すでに5兆円を超える資金を手に入れている。この先、廃炉等にどれほどの資金が必要なのかわからないが、3年で5兆円だから、30年では50兆円もの金が倒産企業に投入される可能性がある。核燃料や放射能塗れの核廃物の処理にとてつもない金が消えていくのである。これだけの金を投入すれば、待機児童など直ちに解消するであろう。嘆かわしいことだ。
だれがこの金を払うのかと言えば、国民なのである。政治家や官僚はもとより東電も金銭的には痛くも痒くもないのである。金融危機のときもそうだが、大きすぎて潰すに潰せない。巨大企業は遣りたい放題遣ったほうが得だということになってしまった。いままでの経験がすこしも活かされず、何度も悪事が繰り返され、日本は衰退していくのだろう。
GPIFが株式運用比率を引き上げるならば、国民の年金を株式で失う可能性が一層高まる。GPIFは年金を運用しなければというが、運用などしなくてよいのだ。10年物国債利回りが0.5%まで低下しているが、名目経済成長率は2014年度以降、3%台の高い伸びが持続するというお伽噺のような前提で運用計画を立てている。2000年度から2010年度までの名目経済成長率は年率-0.6%のマイナス成長であり、2020年度までの成長率はさらに悪化するだろう。日本経済のデフレは続き、現金で保有しているだけで、金の価値は増価していく。運用するだけで多額の運用費用が掛かり、おまけに損失が発生する。国民は損失を被る半面、損失が発生しても運用金融機関は運用報酬を懐に入れる。このような年金を食い物するような野放図なことが放置されてよいはずがない。