預金>貸出では国債購入策は無力

投稿者 曽我純, 10月19日 午後4:27, 2014年

米株式が下落すれば、日本株はそれに輪を掛けて下落する。米株が売られれば、ドル不安が高じ、円が買われ、円高ドル安となる。円高ドル安になれば、円安ドル高で日本株は買われていたので、日本株は売られることになる。米国経済に比べて日本経済ははるかに見劣りするので、日本株の下落は米株よりも激しくなる。1万6,000円台に上昇していた日経平均株価は1ヵ月も経過しないうちに、1万4,000円台に急落した。

一方、国債相場は上昇し、利回りは今年の最低を更新した。日本株売り・国債買いの姿勢を外人が強めたからだろう。10月第1週、第2週で外人は4,998億円(東証1部)を売り越す半面、個人は6,234億円買い越した。

消費税引き上げによる消費などの減退は一時的で、景気回復基調は崩れていないとする政府・日銀の判断に挑むかのように、日本株は急落し、国債相場は過去最高値近辺まで上昇した。米債利回りも1年4ヵ月ぶりの低い水準だし、ドイツは過去最低を更新している。世界的に株式が売られ、国債が買われているのは、世界経済の足取りがより緩やかになっているからだ。

10月7日、IMFは世界経済の見通しを発表、7月時点の2014年予想を下方修正したが、引き下げ幅が最大であったのは日本(0.9%、0.7ポイント減)であり、次がドイツ(1.4%、0.5ポイント減)であった。14日発表のドイツ経済省の経済成長予測は1.2%とIMFよりもさらに0.2ポイント低い。一方、IMFは米国成長率を2.2%と0.5ポイント上方修正した。3ヵ月ほどで日本の経済成長率が0.7ポイントも下方修正されれば、日本株の保有が怖くなり、売却に走るのは当然のことである。

『鉱工業生産』や『家計調査』をみれば、日本経済の基調は後退下にあることは明らかであり、政府・日銀は景気判断を歪曲している。8月の景気先行指数は104.0と1月のピークから7.8%も低下しているし、一致指数も1月をピークに低下し続けており、7-9月期の経済成長率は前期比マイナスになるかもしれない。なにのために政府は統計を整備し公表しているのだろうか、不思議でならない。

鉱工業生産がピークから8.4%も落ち込んでいるが、これでも景気は「緩やかな回復基調が続いている」という。景気が悪くなっても悪いとは言わない。2008年の米金融危機により、急激な経済の下降でも、政府は2008円12月の「月例経済報告」でやっと、それまでの「景気は弱まっている」から「景気は悪化している」へと判断を変えた。当局が、景気が悪いと言うときは経済指標が急低下し、底入れが近い段階なのだ。それまでは決して悪いとはいわない。証券会社や銀行のエコノミストも大同小異である。顧客に事実を伝えるという最低限の仕事を遂行していない。会社や上役の顔色を窺いながら、当たり障りのない文言を並べるだけという無味乾燥な仕事を続けている。

IMFの日本予測(2014年実質GDP成長率0.9%)を達成するには7-9月期、10-12月期の2四半期、前期比0.7%それぞれ増加しなければならない。今年の後半の2四半期、これほど伸びることはなく、IMFの予測も楽観的だ。4-6月期から僅かな伸びにとどまり、暦年ではマイナスになるだろう。

黒田日銀総裁は昨年4月以降の国債買取政策を正当化するために、出鱈目な景気判断を示している。黒田総裁はまさに「裸の王様」だ。17日の『全国信用組合大会における挨拶』でも「企業・家計の両部門において、所得から支出へという前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けており、わが国経済は基調的には緩やかな回復を続けています」というが、歯が浮くような挨拶ではないか。名目消費支出や生産が7月、8月の2ヵ月連続で前年を下回っているという状況下で、「前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けており」などといえるのだろうか。消費支出の減少などにより、消費者物価指数の前年比伸び率も低下しつつあり、日銀の目標2%などいつまでたっても達成できないだろう。

 10月10日時点の日銀の総資産と国債保有額は279.8兆円、233.1兆円であり、昨年3月末から115.5兆円、107.8兆円それぞれ増加した。これだけ国債を購入し、総資産が膨れても、足元では生産や消費は縮小しているのだ。日銀の国債購入は実体経済にはほとんど効果がないということを証明している。あたかも金が社会全体に広く行き渡り、実体経済に効き目があるように、事あるごとに喧伝するが、実際の効果は金融・為替に及んでいるだけだ。

日銀の国債購入策が効果を発揮するのは、民間企業の設備投資拡大によって、資金需要が旺盛となり、金融機関が貸し出す資金が不足を来たしているようなときである。そのような場合には、日銀から資金を供給されれば金融機関は資金需要に応えることができ、大いに助かるのである。そのような時代はバブル経済までであり、1990年代末以降、金融部門は資金過多に陥ってしまった。

金融機関に金がだぶついているときに、買いオペをして金融機関は喜ぶだろうか。貸出先が少なくなっているので、買いオペで資金を供給されても、預金を持て余している金融機関にとって、資金はさらにだぶつくだけである。

日銀が国債を1年半で107兆円も買い入れたことにより、金融機関の国債購入は減少せざるを得なくなった。そうなれば金融機関の余剰資金はますます増加することになり、だぶついた金は日銀当座預金に積み上がり、その額は10日時点、162.6兆円。なぜ金融機関は日銀に金を預けるのかといえば、法定額を超える準備預金については年率0.1%の利息が付くからだ。ユーロ円3ヵ月物と同じ金利をリスクゼロで手に入れることができる仕組みがあるからだ。法定準備額は8兆円ほどなので、日銀当座預金の大半に利息が付き、金融機関は年間1,540億円の利息を得ている。この162.6兆円を元手に、日銀は国債を購入しているのだ。

金融機関は(預金>貸出)状態なので、余剰資金は国債か日銀当座預金に向かう。金融機関が十分な資金を抱えている(預金>貸出)の状況では、日銀の買いオペは通用しないのである。国債が民間金融機関から日銀に移行するだけで、社会に潤沢に金が出回ることはないのだ。日銀の「量的緩和」という言葉に誤魔化されてはいけない。

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