金融緩和というデマ

投稿者 曽我純, 5月26日 午後4:04, 2013年

23日、日経平均株価は1,000円を超える急落となったが、24日の戻りは弱く、外人の強気姿勢は弱気に変わってきている。下落の理由がなにであれ、これまでの異常な急騰に対する恐怖が根底にあったことは間違いなく、ちょっとした心理的変化が一斉に売りに走らせたのだ。月次でみても昨年8月以降9ヵ月連続の続伸であり、5月22日までの値上り幅は7,000円弱に達し、それも安倍政権と日銀の煽りによるものあったからである。安倍政権・日銀の煽動は、理論的にも幼稚なマネタリズムを地で行くものであり、かれらがどう足掻いたところで、マネタリズムで実体経済を変えることなどできないのである。

金融緩和という念仏を唱えることで株が上がると市場参加者が思っていることを利用して、外人が日本株を買い上げてきたが、念仏が通用しなくなれば売るしかない。1日で7%を超えて下落すれば、損切りの売りが自動的に次々と発生し、相場は売り一色に染まっていく。23日の東証1部の売買代金は5.8兆円、出来高は76.5億株というとてつもない大商いであった。このような虚構の世界に現を抜かしているから、いつまでたっても日本は立ち直れないのだ。

株式が上がれば経済が良くなると思いこんでいるが、博打が盛んになれば、経済が良くなるかといわれれば、ほとんどの人は否定するはずだ。今の株式流通市場をみれば、株式は博打と変わらない。発行市場は閑古鳥が鳴いている。株式の本来の目的は限りなく脇に追い遣られ、目的から外れた流通市場だけが際立っている。政府・日銀が流通市場の活況を主導している異常さがわからないのだろうか。もはや、市場ではないのである。このようなバブル相場では、結局は胴元が儲かるだけで、博打打ちの大半はすっからかんになってしまい、失望と虚しさが残るだけなのだ。

 日銀の総資産は4月、174.6兆円、3月から10.3兆円も増加している。資産の8割弱は買いオペで入手した国債だ。負債では日銀券等(87.6兆円)と当座預金(61.9兆円)が主な項目だが、これらを加えたマネタリーベース(MB)は149.5兆円、前年比23.1%も増加している。日銀券は前年比3%増だが、当座預金は70.6%と急増しており、MB増加の大半は当座預金によるものだ。

当座預金は民間金融機関が日銀に預けている金である。日銀が民間金融機関からどんどん国債を買い上げるので、民間金融機関は現金化した金を日銀にそのまま預けているのである。その金で日銀は国債を買い増すという仕組みであり、MBが増加したからといって、民間非金融部門に金が直接流れるようなことは起こらない。

日銀が民間金融機関から国債をいくら購入し、当座預金を増やしたところで、日銀の国債購入が増えるだけで、民間経済への影響はほとんどなく、財政赤字が膨らむだけである。まさに日銀は政府にとって打出の小槌であり、財政支援機関となる。すでにそうなっているのだが。

民間金融機関の資産をみると、日銀が民間金融機関から国債を購入しても国債から当座預金に資産がシフトしているだけなのだ。日銀からみれば当座預金は負債であり、これを元手に国債を買うのである。このようなことを繰り返し、2014年末の日銀の当座預金は175兆円といまよりも113兆円増やし、国債は昨年末から約100兆円多い190兆円まで買い増すという。

MBが増えれば市中に金が増えるということではない。いくらMBが増加しても日銀の国債購買力が増すだけであり、家計や企業に金が流れることはないのだ。現・預金通貨、準通貨、CDを合計した貨幣量M3は4月、前年比2.6%と5ヵ月連続で伸び率は上昇しているが、日銀資産のようには伸びていない。家計は所得が伸びない中でも貯蓄を増やしており、その結果預金が増加しているのだ。4月の預金通貨と準通貨は前年比4.3%、1.1%それぞれ増加しており、伸び率は高くなっている。安倍政権になっても、家計は消費を控え、貯蓄に力を入れているのである。金を使うのではなくより大事にしている家計の姿勢が浮かんでくる。消費税率の引き上げが控えているが、駆け込み需要はそれほど多くはないのではないだろうか。

昨年末、家計の金融資産は1,547兆円と前年を上回り、企業も200兆円を超える巨額の現・預金を溜め込み、資金的には余裕がある。企業はこれだけ現・預金を保有しているので、設備投資資金を金融機関から借りる必要もない。資金不足で汲々としているのは政府部門だけなのだ。

 政府に金を供給する手段として日銀は民間金融機関から国債を購入し、民間金融機関が臆することなく新発国債を購入できる環境を整えている。金融緩和という言葉にごまかされてはいけない。日銀の国債購入、当座預金増は経済に金を供給するのではなく、政府に金を供給することなのである。

 政府への資金供給を金融緩和などといって、あたかも社会に金が出回るように吹聴している。第2次大戦中の大本営発表と同じようなデマであり、政府・日銀の政策を信じ、それに肖りたいなどと思ってはならない。政府・日銀などに頼らず、自らの考えによって相場を見極めることが大事なのである。

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