金融経済の膨張を煽るFRBのゼロ金利

投稿者 曽我純, 2月5日 午後7:58, 2012年

1月の米雇用統計が予想以上に改善したことからNYダウは週末値としては2008年5月第3週以来の高値を付けた。つまり、リーマン・ショック以前の水準に戻り、過去最高値までも100ドル強の射程内に入った。ハイテク株の割合が高いナスダックに至っては11年2ヵ月ぶりの高水準だ。一方、日本株は過去最高値の4分の1にも満たない超低空を飛行しており、米株式とは著しく対照的である。なぜこれほどまでに米株式は強いのだろうか。

1月の非農業部門雇用者が前月比24.3万人増と3ヵ月連続して拡大し、失業率も8.3%と5ヵ月連続で改善、09年2月以来、約3年ぶりの低い水準だ。雇用の改善が消費支出増に繋がり、米国経済の主力エンジンが点火するシナリオが現実味を増したからだろうか。だが、最近の消費支出は失速気味であり、本格回復にはほど遠い状況にある。雇用統計によると、時間当たりの賃金も1月、前月比0.2%、前年比でも1.9%の伸びに止まっており、消費を刺激するような勢いではない。

失業率の改善は、雇用を諦め失業者から非労働力人口にシフトしたことが影響している。1月の非労働力人口は887.8万人、前年比261万人もの増加だ。261万人が失業者だとすれば、失業率は10%近くまで上昇することになる。雇用関連の数値は改善しているけれども、内容は必ずしも伴っていない。

 米株式を堅調にしている最大の要因はゼロ金利だ。実体経済を無視した野放図なFRBの金融政策が米株式を援護しているのである。09年の初めにゼロに引き下げてから3年経過したが、さらに向こう3年間もゼロ金利を続けると前回のFOMCで表明した。すでに異常な金融環境を作り出している上にさらに輪を掛けることになり、米国だけでなく世界的に金融市場だけが膨張することになるだろう。それで実体経済が好転すればよいが、内部に抱えた膿はなかなか取り除かれず、金融経済だけが肥大化し、バブル化するという歪な経済に突き進んでいくと考えられる。

昨年11月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は前月比0.7%減と7ヵ月連続のマイナスとなり、バブル崩壊後の最低を更新し、03年2月以来の水準に低下した。過去約7年間に住宅を購入した人は購入価格を下回っており、含み損が発生している。家計のバランスシートの毀損は甚だしく、それに伴い金融機関の不良債権も増加しているはずだ。ゼロ金利政策を長期間続けることによって、金融機関に利益を供給し、株高によって不動産の損失を補う方針である。だが、実体経済に比較して、株式だけがいつまでも高値を維持できるはずがない。実体経済から遊離してしまった株式は、早晩、激しい調整に直面することになるだろう。

米株式時価総額・名目GDP比率をみると、昨年9月末は134%であった。9月末よりも株価が上昇しているため、現状では150%を超えている。1950年代以降1990年代の半ば頃まで同比率は、40%弱から100%強の範囲に収まっていたが、1990年代後半からは急上昇し、ITバブルのピークである2000年3月末には200%を超えた。その後の急低下、住宅バブルによる急上昇と激しく変動しながらも依然長期の趨勢からは上方に乖離しており、米株式が実体経済に比べて過大評価されていることがわかる。

国民所得に占める金融部門の割合も2010年、18.5%と過去最高と並ぶまでに回復している。金融危機が起こった2008年には17%にまで低下したが、FRBの手厚い保護の下で2年連続の上昇となりし、金融部門は完全に復活した。ゼロ金利の継続により、これからも米国経済は金融部門主導で回復を図る方針だが、金融部門に偏った経済は脆さと背中合わせであることを忘れてはならない。 

曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数