1月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比25.7万人増と予想を上回り、しかも昨年11月、12月分が上方修正された。ただ、週平均労働時間と週平均賃金は前年比0.6%、2.2%の伸びにとどまり、雇用は改善しているが、肝心な賃金は伸び悩むという状態が続いている。賃金の低い伸びにより、個人消費支出は昨年12月、前月比0.3%減と昨年1月以来のマイナスとなった。個人消費支出の低迷により、昨年12月の非軍事・航空を除く資本財受注は前月比0.1%減と4ヵ月連続のマイナスだ。前年比でも昨年10月の10.1%から12月は3.6%まで鈍化してきている。
好調な米雇用統計を映じてドルは上昇したが、米国経済のエンジンである個人消費が冴えないことから、ドルの上昇にも限りがあり、例えば円ドル相場が1ドル=120円を大きく上回ることにはならないだろう。円安ドル高は頭打ちの傾向にあり、そうであれば、日本株の上昇もこれ以上は望めないことになる。
金融政策による株高は金融政策の効果に疑念が生じたり、金融政策の転換が感じられるようになれば、反作用を起こすことになる。今の株式関係者は日銀の国債買いの増額に期待しているなど、実体経済にはさほど注意が払われていない。さらにもし株価が急落することになれば、年金資金の介入が期待できるなどまさに株式は本末転倒を地で行く期待頼みの相場だといえる。
先週末の米国債利回りは1.96%と週間で31ベイシスポイント上昇し、1ヵ月前の水準に戻った。雇用統計やそれに基づく早期利上げ観測が利回りを上昇させた。だが、この急騰は一過性のものであり、長続きしないだろう。米国債利回りがこのまま上昇していくことになれば、米国の期待収益率の好転を予想させ、米国に資金は流入するだろう。当然、円安ドル高が強まる。
2013年12月には3%を超えていた米債利回りは、その後、低下していったが、ドル高円安傾向を変えることはなく、一段のドル高円安に突き進んでいった。それまでの10年以上にわたって、円ドル相場は米債利回りにほぼ沿った動きをしていた。それが、日銀の国債買いによって、連動性が断たれたのである。
円ドル相場、株価、国債相場は微妙な関係にあり、いずれが反転しても3者のいままでのような関係は維持できない。たとえば、円安ドル高が円高ドル安に向かえば、日本株は売られ、国債も益だし売りが優勢となるだろう。そもそも利回りの低下余地はなく、その意味でも3者の均衡関係を維持することは難しくなっている。
中央銀行のゼロ金利と国債購入によって主要国の国債利回りは過去にない異常な低水準にあるが、こうした金融政策が実体経済を刺激したかといえば、そのような効果を見出すことは難しい。米国のFFレートは2008年12月にゼロに引き下げられ、すでに6年以上もゼロ金利を続けていることになる。米実質GDPは2008年、2009年と2年連続のマイナスとなった。特に、2009年はマイナス2.8%と1946年以来63年ぶりの大きな落ち込みとなった。名目でも2009年は実に60年ぶりのマイナスである。2010年の実質GDPは2.5%伸びたが、2014年(2.4%)まではいずれの年も2010年の伸びを超えていない。民間設備投資は2013年に金融危機以前の2007年の過去最高をやっと更新するというたどたどしい足取りである。
FRBは政策金利をゼロまで下げ、さらに巨額の債券を購入したが、実体経済の進行速度はほぼ横ばいであり、金融政策の効果を認めることはできない。米国経済、なかでも主要企業はもはや金利の影響など受けなくなっているのだ。だから、政策金利をゼロまで下げても実体経済の動きは緩慢なままなのである。
昨年9月末の米非金融企業の金融資産は16.67兆ドルと名目GDP(17.42兆ドル)に近い規模である。2014年までの20年間の名目GDPと非金融企業の金融資産の伸びを比較すると、前者の2.4倍に対して後者は3.7倍拡大しており、金融資産の伸びが圧倒している。これだけ潤沢な金融資産を抱えていれば、非金融企業は金融機関や債券に世話にならないで、保有資金で設備投資等をまかなうことができる。皮肉にも、金融政策で潤うのは金融危機で破綻した金融部門なのである。