金融支援の枠を広げ不良資産を移転させた欧州債務包括策

投稿者 曽我純, 10月30日 午後9:53, 2011年

先週も対ドルで円は過去最高値を更新し、週末としては初の75円台で引けた。FRBは2013年央までゼロ金利を継続することを決めているが、さらなる緩和策に踏み切るかもしれず、緊縮財政を強める欧州は利下げで景気を支えざるを得なくなる。こうした欧米の金融緩和強化への期待も円高の背景をなしていると考えられる。

米国は巨額の経常赤字によるドル散布を、財政赤字を埋める国債発行で吸収している。09年度以降の財政赤字は毎年1兆ドルをはるかに越えており、経常赤字の約3倍もの規模に膨らんでいる。問題になるのは国債よりもMBS等の証券化商品である。海外勢の米公的機関債保有額は6月末、1.02兆ドルとピーク(07年末1.58兆ドル)から5,600億ドルも減少した。が、米住宅市場が底なし状態に陥っているにもかかわらず、いまだに外人はMBS等を1兆ドルも保有している。外人の公的機関債の売却姿勢は強く、こうした公的機関債の売り切りがドル安に結びついているように思う。

欧州圏は単一通貨のため金融政策はECBが決定し、域内の国ではその国の通貨が存在しないため、通貨を売買することができない。経済体質、財政、経常収支等が通貨に反映されなくてはならないが、通貨での調整ができなければ、それに近いもので評価せざるを得ない。だから経済や財政の強い国の国債は買われ、弱い国の国債は売られることになる。そのように国債の売買という形で通貨の調整が行われているのである。

 週末の10年物国債の利回りをみると、ギリシャは24.24%、次に高いのがポルトガルで11.95%とこの2ヵ国が飛びぬけて高い。債務危機包括策がまとまったことから、これら2ヵ国の利回りは1ヵ月前よりも幾分低下したが、その他の国債利回りはいずれも上昇した。フランスが0.5%上昇したほか、スペイン、イタリアもそれぞれ0.44%、0.42%上昇し、イタリアは6%を超えた。フランスは3.18%だが、ドイツとの格差は拡大しており、週末時点では0.99%の開きがある。1年前の0.31%に比べると格差は3倍以上になり、フランスが焦るのも頷ける。イタリアは3.84%もドイツを上回り、新たなユーロ圏の火種になりそうだ。

 27日、EU首脳会議はやっと声明をまとめることができたが、金融機関を存続させるための策であり、抜本的な経済の立て直し策ではない。一時的につじつまを合わせる代物であり、早晩、問題が噴出することになるだろう。

金融機関が保有しているギリシャ国債の元本を50%カットし、市場価格に近い水準に減価させることによって1,000億ユーロの損失が発生する。が、同額の資本を注入することにより中核的自己資本比率を5%から9%に引き上げる。投資家が新発債を購入する場合、EFSF(欧州金融安定化基金)が信用付与し、買いやすくし、レバレッジを高める。中国等から資金提供を受けることによりEFSFは拡充(1兆ユーロ)を図り、国債購入や金融機関への資本注入機能を充実させる。

債務危機包括策はこのような内容であり、痛んだ金融機関をてこ入れし、国債購入を促し、資本の強化策も整えたと内外に発した。だが、これからユーロ圏の景気が悪化し、歳入が落ち込むことは必至だ。歳入が減少すれば、歳出も同額減らせばよいが、それでは、経済はますます悪くなり、歳入はさらに減少することになるので、歳入不足国は国債を発行せざるをえなくなるが、いまのままでは買い手が現れず窮地に追い込まれることになる。そのようなときでも今回のような措置を講じておけば、国債は消化できるという。要するに、いままでは金融機関やECBが被っていたリスクをEFSFに移し変えただけであり、出資したとすれば新興国にまでリスクは広がっていくことになる。すでにIMFも加わっているため、国際社会も関与させられているが、今回さらに関与の拡大を図り、ユーロ圏だけではなく、グローバルなユーロ圏救済体制を築く企てのようにもみえる。

国債に過度に依存しない経済や財政を構築しなければならないわけだが、消費や設備投資などの国内需要は、経済が成熟するにつれて伸びは鈍化していくことになる。消費性向が低下していけば、民間設備投資も抑えられ、公的支出を増やさなければ需給ギャップは拡大する。国内に潤沢な貯蓄があれば、国内で国債を消化することができるが、国内貯蓄が乏しければ、資金調達を国外に求めなければならない。

IMFの予測によれば先進国の政府債務(対GDP比)は2006年の74.3%から2011年102.9%、2016年には109.4%に上昇する。金融危機による世界的景気後退が2011年までの5年間に政府債務比率を28.6ポイントも引き上げた。向こう5年間では6.5%ポイントの上昇にとどまると予想しているが、今の経済状態では予測を大幅に上回るだろう。財政赤字の改善ははかどらず、国債に依存した経済運営は続く見通しである。

成長率が低下していくと通常金利も低下していく。だが、ギリシャのように5%を超えるマイナス成長の国でも国債利回りが24%にもなるのはひとえに信用がないからだ。ユーロの政策金利は1.5%だから、長短金利差は異常に開いている。経済は深刻な不況に陥っているが、たとえ調達できたとしても、24%では採算に合うような事業はないだろう。国債利回り急騰が経済活動の息の根を止めたといえる。国債利回り上昇は信用不安をあらわすだけでなく、設備投資意欲を冷やし、実体経済を収縮させる力を持っている。

EFSFの信用付与等があるとはいえ、民間金融機関はハイリスクの貸出や国債には手を出さなくなるだろう。民間金融機関が財政収支の悪化した国の国債を購入しなければ、税金を返済財源とする公的機関が購入せざるを得なくなる。結局、国が保証する形で国債を消化する方法を採らざるを得ないのではないか。それと、すでに巨額の国債を保有している日銀やFRBのように、中央銀行に引き受けさせる方法がある。

杜撰な金融機関を放置していたことが、ユーロ圏の国債問題の傷口を大きくした。四半期決算制度でありながら、発生した不良債権をその都度計上させず、放漫経営を見過ごしていたことが最大の反省事項ではないか。ディスクロージャーも掛け声ばかりで、内容はまったく言葉とは掛け離れていた。普通のことを普通にすれば、EUの首脳も後ろ向きの問題に膨大な時間を費やすことなく、より重要で建設的な問題に取り組むことができるのだが。日本の気の遠くなるような原発・放射能処理の取り組みに比べれば、ユーロ圏の問題はまだましに思う。 

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