3月の米非農業部門雇用者数が前月比12万増と前月の増加数の半分にとどまり、米国経済の回復が順調に進んでいないことを裏付けた。特に、サービス部門が9万人増と前月の20.4万人を大幅に下回り、全体の約7割を雇用している部門が不安定になっている。小売業は2ヵ月連続の前月比減、情報部門は2ヵ月ぶりのマイナスになったほか、雇用情勢に敏感な派遣関連は8ヵ月ぶりに減少したことが、雇用の不透明感に拍車を掛けた。
週平均労働時間は前月比0.3%減、前年比でも0.6%増にとどまっており、労働時間からみても米国経済はあきらかに横ばいで推移していると言える。週平均賃金は前月比0.2%とわずかな増加となり、消費意欲が強まるような伸びではない。失業率は8.2%と0.1ポイント低下したが、仕事探しを諦め非労働力人口に分類される人が前月比33.3万人も増加しているからだ。
雇用統計が予想を下回り、米国経済の足取りが依然重いことから、米債券相場は急騰し、対円でドルは売られ、3月5日以来の81円台を付けた。ドルユーロ相場はユーロ圏の債務不安が、再び心配事になっていることから大きな変化はなかった。6日の米株式市場は休場であったが、先物は売られた。
金融株が異常に上げるという歪な相場がこれで是正されればよいが、またぞろFRBの買いオペ期待が強まり、実行されるようなことになれば、相場は是正されるどころか、ますますおかしくなっていくだろう。株式市場は市場主義の権化のように捕らえられているが、実は相場が良くなるなら、当局の介入は大歓迎なのである。また、FRBもこれに応えることが当然のように振舞っている。こうした市場とFRBの馴れ合いが株式を実体経済からますます遠ざけているのである。
日経平均株価は4日連続安となり、1万円を割り込み、週間では3.9%減と昨年8月第1週以来の大幅安となった。2日、日銀『短観』が公表されたが、内容が予想よりも良くなかったにもかかわらず、当日、株価は上昇した。一方、債券相場は下落し、景況感とは反対に動いた。3月の大企業製造業景況判断は-4%と昨年12月とおなじであり、先行きもほぼ横ばいを見込む。中堅・中小企業の景況判断は先行き悪化するとみており、日本経済の低迷状態は続きそうだ。いま景況が良いのはエコカー補助金で新車販売が急増している自動車だけであり、自動車の景況は大企業から中小企業までくまなく好調である。だが、自動車の先行きの景況判断は悪化、なかでも中小企業の景況判断は3月期比26ポイント減のマイナス8%なる見通しである。
株式市場の参加者が特に注目しなければならないのは企業業績だ。が、参加者は企業業績を直視しない。『短観』によると、2011年度の売上高、経常利益、当期純利益のすべてが3ヵ月前に比べて大幅に下方修正された。それでも株価は上昇するという摩訶不思議な営みを見せる。赤信号でも平気で渡る、信号などないかのようなそぶりを示している。これでも市場はオールマイティーで正しいのだろうか。実態はまったく逆であり、情報でさえも織り込めない不完全市場なのである。
1月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は前月比0.0%と昨年7月以来の横ばいとなった。ただ、微減しており、ピーク以降の最低を更新した。膨大な差し押さえ物件がまだまだ米住宅市場を圧迫しており、正常な姿に戻る時期を予想することはできない。こうした住宅市場が泥沼から抜け出せないことが、米国経済の回復を阻んでいるのだ。住宅というストックが毀損したままだが、超金融緩和を拠り所に米株価は上昇してきた危うい相場なのである。
日本株も企業業績といった最重要要因を蔑ろに上昇しただけに、一旦、楽観ムードが崩れれば、実態を伴っていないだけに値崩れは速い。『短観』によれば、2011年度の大企業経常利益は上期の前年比-8.5%から下期は-22.8%へと悪化すると予想されている。3ヵ月前の下期の予想は8.8%減であるから予想は大きく狂ってしまったことになる。特に予想が甘かったのは大企業製造業であり、昨年12月の-3.9%から3月は-28.1%へと見直された。なぜ3ヵ月でこれほどの減益になったのだろうか。主因は電気機械が昨年12月の前年比-16.7%から今回は-82.6%へと信じられないほどの下方修正を行ったからだ。前回の計画がいかに杜撰であったかが問われなければならない。
景況判断でも自動車は改善していたが、下期の経常利益は自動車の大幅増益によりこれだけの落ち込みで済みそうである。経常利益の下方修正により、2011年度の設備投資計画は大企業で2.9%に下方修正され、2012年度も計画では1.6%である。
設備投資を尻込みするような低期待収益では、経済は決して良くはならない。他方、所得はふえないけれども、家計貯蓄は依然生まれている。勤労者世帯では年120万円ほどの貯蓄だ。年30~40兆円の規模だと思うが、設備投資が伸びないのでは超過貯蓄になってしまう。結局、設備投資不足を政府と輸出の増加によって埋める形で貯蓄が消化される。設備投資の低迷は、債券利回りが1%程度の超低金利だが、期待収益率は1%にも達していないことを暗示している。名目GDPが長期的にマイナスであることは、期待収益率もマイナスであり、長期的に設備投資がプラスを持続することはあり得ない。マイナス成長によって家計が貯蓄できない水準に所得が減少するまでは、日本経済は政府支出や輸出に頼らざるを得ないのである。
野田政権は、消費税率を引き上げる前に成すべきことをなにもやらず、引き上げに血眼になっている。消費増税すれば消費税は増加するけれども、1997年以降の推移をみれば、税収の落ち込みは火を見るよりも明らかだ。
日本経済は20年前の規模に縮小しており、当時の税制に戻さなければ、税収を増やすことはできない。クロヨンをなくし、欠損法人からも徴収し、累進課税を強化、法人税も引き上げ、有価証券取引税を復活させなければならない。そうすれば税収は増えるし、経済も少しはまともな内容になるのではないか。累進課税を緩め、法人税を下げ、消費税を導入、有価証券取引税を廃止したことで、日本経済は衰退したが、またその轍を踏もうとしている。
危険極まりない福島第1原発周辺地域への帰宅を促し、再稼動に猛進する野田政権。数々の原発事故を経験してきたが、その反省の欠片も見えない人たちだ。過去の経験がいかされないのは原発も消費税も同じである。歴史に学ぼうとしない政権の傲慢さによって、国力は落ち、国民は苦境に立たされている。