米株高と円安によって日経平均株価は5日連続高となり、週末には9月25日以来の9,000円台乗せとなった。だが、株高要因のひとつである米株は週末、200ドルを越える大幅安となり、日経平均株価の9,000円台回復も一過性となりそうだ。米株が崩れれば、それにつれて日本株も下落するのは避けられない。米株急落はGEやマクドナルドなどの企業業績が予想を下回り、収益に不安が生じたからだ。米企業業績の悪化は取りも直さず、日本企業の業績も良くないとみなされ、日本株も売られることになる。
週初、9月の米小売売上高が公表されたが、前月比1.1%増と高い伸びとなり、米国経済の主力である消費の回復を市場参加者に植え付けた。しかし、小売売上高を吟味すると、数字ほど強くないことがわかる。小売売上高を引き上げたのは、自動車販売、ガソリン販売、それにスマホであり、全体にものが売れているわけではない。だから10月に反動減がでてもおかしくはない。それに小売売上高の前年比伸び率は9月、3.0%と2010年8月以来約2年ぶりの低い伸びとなり、今年2月の10.6%をピークに鈍化していることはあきらかだからだ。9月の消費者物価指数は前年比2.0%上昇したので、実質では1.0%の低い伸びになり、とても小売売上高が堅調などとはいえない。
16日発表の9月の米鉱工業生産指数は前月比0.4%と2ヵ月ぶりのプラスだ。8月が1.4%減少したわりには伸び率は低く、頭打ちと取れる。製造業に限れば、前月比0.2%とさらに低く、足取りは重くなってきている。7-9月期でみると、製造業は前期比0.2%減と09年4-6月期以来約3年ぶりのマイナスになった。前年比でも4-6月期の5.4%から7-9月期には3.9%に低下し、製造業は勢いを失ってきている。
製造業の伸び率が落ちているのは、自動車等の生産が減少していることにハイテク関連の不振が加わっているからである。ハイテク産業生産指数は9月まで3ヵ月連続の前月比マイナスとなり、2010年10月以来の低水準に落ち込んだ。前年比では6.9%減と4ヵ月連続のマイナスとなり、09年10月以来の大幅な減少率となった。ハイテク生産指数はすでに今年の1月、前年比マイナスに転落し、不振の兆しはでていたが、6月以降のマイナス持続は米ハイテク産業が相当深刻な状態にあることを裏付けている。
鉱工業生産指数公表後にハイテクの代表企業であるインテルの7-9月期の業績が明らかになった。売上高と純利益は5.5%、14.3%それぞれ前年を下回り、純利益は3四半期連続の減益だ。インテルの週末の株価は年初来安値を更新し、今年の高値から27.3%の下落である。1-3月期から減益でありながら5月まで上昇していた付けが回ってきているといえる。
ナスダック総合指数は週末急落したが、依然3,000を上回っている。ナスダック総合指数と鉱工業生産のハイテク産業生産指数との相関関係は強かったが、昨年後半以降は逆相関になっており、ハイテク生産指数が横ばいから低下しても、ナスダック総合指数は上昇し、金融危機が起こる前の高値を更新した。実体経済を無視した株価が形成されているのは間違いなく、バブルが進行しているとみている。
9月に過去最高値まで6%強まで迫ったS&P500の株価は、いまも前年を14%上回っている。S&P500の部門別株価上昇率で最高は金融の23.8%である。過去3ヵ月比、1ヵ月比でも金融が最高の値上がり率を示しており、時価総額の15%超を占める金融がS&P500を支えている。7-9月期の金融機関の業績をみても大幅な増益を達成しており、製造業と対照的である。
S&P500と製造業生産指数の関係は1980年まではおおむね同じ比率で拡大していたが、それ以降は株価が生産指数から離れていってしまった。1959年末から1985年3月末までにS&P500は3倍、製造業生産指数は2.5倍とすでに株価が優勢になっているが、1985年3月末から2012年9月末の期間をとると、株価の7.9倍に対して製造業生産指数は1.8倍と両者の伸びは異常に開いている。実体経済の水準から判断すれば、S&P500の今の水準は行き過ぎであり、バブル化している。ゼロ金利と過度な買いオペが株価水準を歪めてしまった。
株価が生産指数の何倍もの勢いで上昇しだしたときと金融機関がレバリッジを効かせてバランスシートの拡大を図った時期とはおおむね一致する。米国経済は、金が金を生み出すという金融主体の経済に変質してしまったのである。ものよりも金の収益率がはるかに高くなったのだ。製造業が苦心して作った物よりも、金を動かしたほうがはるかに儲かる世界になってしまった。金融機関は自己資本の10倍以上の金を動かすことで高収益を手に入れている。特に、日本のようにゼロ金利でデフレであれば、金だけを扱う金融機関は時間が経過するだけでデフレ率だけ自動的に収益を生むのである。
金融機関以上にレバレッジを効かせているのは中央銀行だ。日銀やFRBの自己資本比率は2%に満たずJPモルガンなどの金融機関をはるかに下回っている。信用力を背景に日銀、FRB、ECBなどの中央銀行は資産を次々買い入れていることから、日銀やFRBの資産は自己資本の50倍を超え、バランスシートは過去にない水準に膨らんでいる(直近、日銀151.6兆円、FRB 2.84兆ドルECB 3.05兆ユーロ)。中央銀行がレバレッジの手本をみせ、金融機関にレバレッジの拡大を推奨しているように思える。模範とならなければならない中央銀行がこれでは、民間に強いことは言えない。