週間、対ドルで円は上昇したが、ユーロは下落した。米債券利回りの上昇はドル高要因だが、円とユーロではその影響は逆方向にでた。株式との結びつきが強い円ドル相場は振れが大きくなっている。円高ドル安の進行は企業業績の悪化を予想させ、日本株は売られ、日経平均株価の週間下落率は8.1%とNYダウの5.2%を上回った。先月の19日以来のドル高ユーロ安となったため、商品市況は軒並み値を下げた。WTIは昨年12月28日以来のバレル60ドルを下回り、直近ピークから10%超の下落となったほか、銅も約2ヵ月ぶり水準に値を崩した。CRB指数は週末、190を割り込み、昨年12月22日以来の低水準である。
先月26日、NYダウなど米主要株価指数はピークを付けたが、CRBやWTIも同日を境に急激に低下し、株式と商品は連動して動いている。米債券利回りの上昇が資金コストを引き上げ、安易な株式・商品投機で日銭を稼ぐようなことが難しくなったからだろうか。だが、米債券利回りはまだ3%にも達していない。実体経済に則れば、4%超が妥当であろう。そのような水準をまだ相場は織り込んでいない。
もし、2月の雇用統計で賃金の伸びが前年比3%を超えることになれば、一気に米債券利回りは4%に向かって上昇するかもしれない。その時、米株はどうなるのだろうか。シラーの株価収益率は33倍と1929年の大恐慌直前並みである。1月の米賃金上昇率が、株価決定に本当に重要なシグナルであったのであれば、3月3日発表の米雇用統計はさらに関心を集め、それまで相場は落ち着かないはずだ。予想することが大好きな米株式市場であるから、当面は賃金の予想を巡って、米株式は右往左往するのだろう。
米株が下落すれば日本株も下落する。だが、ピークからの下落率は日経平均株価の11.4%に対してNYダウは9.1%と本家を上回っている。米株の影響を日本株がこれだけ受けるのは、日本の金融政策や株式への公的関与があまりにも強いからだ。アヘン中毒と同じように、金融中毒によって株式が異常な状態にされているから、何かの時は、原発がメルトダウンするような激震に見舞われる。
米国のトランプ大統領の経済政策は国民を豊かにするものではないが、日本の経済政策も大同小異だ。政府が描く経済シナリオ達成のために、株式は政府と日銀の玩具にされている。国民の預金や年金を政府の政策を繕うために、博打につぎ込み、悪用しているのだ。
安倍首相の一存で日銀総裁を決めることができるのだから、日銀の独立性など絵に描いた餅でしかない。ひたすら政府の言いなりになり、国債を買い、株式を買う。これからの5年間もまた同じ金融政策が遂行されれば、金融中毒はますます全身を蝕み、日本経済を立ち直らせることができなくなるのではないか。金融はあくまでも実体経済を補助する役割であり、金融が全面に出てくるような経済は早晩破綻することを歴史は証明している。
中国や北朝鮮を非難するけれども、安倍首相の考えは、そうした国々とまったく変わらない。トランプ大統領やプーチン大統領も同類であり、世界的に独裁制が強まっている。こうした政治的独裁色が色濃くなることも、相場の変動をより大きくすることになるのではないか。突飛なことが起こりかねないし、経済政策は家計ではなく企業優先であり、所得・資産格差の拡大政策であるため、消費は低迷し、経済の伸びる芽は摘み取られるからだ。
金融中毒の症状が拡大し、日本経済の歪の拡大が日本株の下落率を大きくしていると考えられる。地震国日本の近海で歪が溜まり、歪を解消するために地震は起こるが、同様に、経済も内部に歪が溜まれば、いつか矛盾が噴出し、激震が起こる。あろうことか、政府や日銀の政策が国民の金を使い、歪を作り出しているのだ。政府と日銀の自作自演による意図的な歪なのである。
金融中毒に加え、実体経済にも不安なシグナルが点灯してきた。昨年12月の「景気動向指数」によれば、一致指数は前月比2.4%増の120.7と1990年10月(120.6)を僅かだが上回り、1985年以降では最高を更新した。ディフュージョン・インデックスも100を付け、景気は経済の隅々まで波及している。一致指数から判断すれば、日本経済は近年にない好調な状態にあるといえる。ただ、ここまで一致指数が伸長してくれば、先はたかが知れているのではないだろうか。昨年12月の先行指数は前月比0.3%減と一致指数に比べて勢いは衰えてきており、一致指数のピークは近いようにも思える。
株価と一致指数は概ね同じ変動を示していることから、一致指数のこれほどの上昇と過去最高更新を目撃すれば、株価もピークの近くにあるのではないかと思うのも自然ではないだろうか。