FRBは金融緩和縮小を見送った。「物価安定下、労働市場の見通しが著しく改善するまで、FOMCは財務省証券とMBCの購入を継続」する。バーナンキFRB議長は、債券を購入し続ければ、いずれ雇用は改善し、経済は拡大すると信じているようだ。だが、債券の購入などにより、FRBの資産は2008年9月10日の9,257億ドルから今年の9月18日には3.72兆ドルに拡大したが、今年1-6月期までの実質経済成長率は年率1.8%である。2012年の2.8%を1ポイントも下回っている。FRBは巨額の債券を購入しているが、実体経済を金融危機以前のような成長軌道に乗せることができないのである。今後、月850億ドルの債券購入を継続してもさしたる効果はないだろう。むしろ、金融緩和による金融の歪みが露になるだけだ。
日銀の資産膨張が日本経済を動かすことができないことが、FRBの金融緩和策の無効を証明している。現実の経済は貨幣数量説のようなお伽噺の世界ではないのだ。金を増やせば経済が動意付く単純な仕組みにはなっていない。また金だけを増やすこともできない。ものやサービスの拡大がなければ、金もついてこないからだ。金だけが社会に溢れ出すことになれば、大変なことになる。不動産や株式がマネーゲームのようになり舞い上がれば、日本や米国のバブル破裂となり、数十年という長い期間、そのつけを払わされる。
日銀やFRBが債券を金融機関から購入し、金を供給しても、金融機関から金がでていかない。家計や企業が金を必要としないからだ。家計や企業はすでに金を保有しており、新たに借り入れる必要がないのだ。金がなくてこまっているのは政府であり、金融機関に溜まった金は必然的に政府に流れていく。金が流れ込む先は政府部門しかないのである。
日本のようにマイナス成長に入っている国では民間部門の新規資金需要は極めて弱い。むしろ借金は返済したいと考えている。企業の自己資本比率(法人企業統計、全産業全規模)は2012年度37.4%と2008年度よりも3.5ポイントも上昇、大企業に限れば42.7%とさらに高い。負債総額は1995年度をピークに減少しており、2012年度はピーク比17.6%減である。企業が負債を減らしていることは、借金を減らし、金融機関に金が還流していることだ。全産業全規模の短期借入金は1995年度の230.2兆円をピークに2012年度は162.3兆円、長期借入金は1998年度の346.4兆円をピークに2012年度は267.4兆円に減少している。長短合計で146.9兆円の借金をへらしているのである。
これだけ企業が借金を減らしているなかで、日銀はゼロ金利でしかも国債を大規模に購入する政策を遂行しているのである。まったくナンセンスと言わざるを得ない。これだけ国債利回りが低下しても、借金をへらしているのである。国債利回りが低下するにつれて、企業は借金を増やすのではなく借金を減らす行動を取っている。普通、金利が低下すれば資金需要は増えてくるはずだが、1990年代のバブル崩壊後では、金利が低下しながら資金需要が減少する事態が生じており、それがいまも続いているのである。
金利が低下しても企業の資金需要が出てこないのは、儲かるような仕事が見つからないからだ。旨い仕事があり、これほど低い金利で金を借ることができれば、だれもが金を借りるはずだ。それが借りないということは、旨い仕事がないということである。すでに成熟した経済では、おいそれと期待収益率の高い仕事などみつからない。ましてや人口減でマイナス成長の経済であればなおさらそうだ。
これからも企業は借金を減らし、需要の減少に応じた企業体質の強化を図るだろう。家計も同じく負債を減らしている。1999年度をピークに減少し続け、2012年度は363.3兆円と1992年度以来20年ぶりの低い水準にある。負債減などにより、家計の純金融資産は2012年度1,205兆円と過去最高を更新した。この金融資産の大半が政府赤字をファイナンスしているのである。
人口減少下で成長率をプラスにすることは難しい。日本があきらかに縮小経済に陥っているにもかかわらず、安倍政権はいまだに成長戦略などといっているが、時代錯誤もはなはだしい。マイナス成長での経済の在り方や生活の仕方を追求していくべきだ。そうせざるを得ないのだから。いつまでも幻想を追うことは、それだけ時間と資金を浪費し、ますます苦境に陥ることになる。政府に加担し、国民に幻想を抱かせるよう吹聴するエコノミストのなんと多いことか。大本営発表がいまも幅を利かせている。