過去最高の企業利益と低所得者層の拡大

投稿者 曽我純, 5月15日 午後9:15, 2016年

日本経済が金融政策では良くならないのは、構造的要因が強く働き消費の低迷が続いているからだ。だが、構造的要因によって消費支出が増加しないだけでなく、これには分配が大きく影響している。日本には企業規模別や男女間の賃金格差がもともとあったけれども、労働者派遣法(1986年)が成立してからは、正規・非正規の賃金格差が著しく開き、低賃金労働者の割合が高まった。さらに、分配の本質といえる企業と労働者の分け前も消費不振を深刻にしている。企業と労働者の分配と労働者間の分配という2重の問題が、日本の消費をいつまでも弱い状態にしているのである。

財務省の『法人企業統計』によれば、2014年度の全産業の営業利益は53.3兆円と1990年度を超え、24年ぶりに過去最高を更新した。人件費等の抑制により、2014年度と1989年度の原価の伸びは売上高の伸びを下回っている。

2003年度を底に営業外収益が増加する一方、1991年度をピークに営業外費用は減少していることから、2014年度の経常利益は65.4兆円とバブル期の38.9兆円(1989年度)の1.68倍に拡大した。2014年度の営業外費用は13.16兆円だが、1991年度は44.24兆円だった。これほど営業外費用が改善したのはゼロ金融政策によって支払利息等が1991年度の37.92兆円から2014年度には6.74兆円へと激減したからだ。預金者の立場からいえば30兆円を超える利息が失われたことになる。経常利益は2010年度に1989年度を超え、すでに5年連続で過去最高を更新している。

特別利益は特別損失を下回っているが、法人税等の減少により、当期純利益は41.3兆円と2年連続の過去最高更新だ。バブル期のピーク、1989年度の当期純利益は17.9兆円だったが、2005年度には23.1兆円と16年ぶりに最高益更新、2014年度には1989年度の2.3倍に拡大している。

当期純利益の拡大によって、2014年度の内部留保は24.4兆円と2年連続で20兆円を超えた。バブル期の約2倍であり、内部留保の増大で2014年度の純資産は610.6兆円、1989年度の3倍に拡大し、純資産・総資産比率は38.9%に上昇した。資本金10億円以上の大企業の純資産は2014年度、352.3兆円と全規模の57.7%を占め、純資産・総資産比率は44.6%に上昇し、1989年度比18.4ポイントも高くなった。

純資産・総資産比率が上昇していることは、企業の安全性の向上であるけれども、資金を溜め込むだけでは、経営は務まらない。資金をどれだけ効率的に運用し、収益性を高めることができるかが重要である。2014年度の営業利益・純資産比率は8.7%と2009年度の5.6%よりは改善しているけれども、1989年度の22.8%に比べれば純資産の収益性はあまりにも低い。

企業は内部留保を厚くすることに傾注しているが、経済のバランスの観点からは逸脱している。企業が資金を溜め込めば溜め込むほど、企業が作り出す製品やサービスが売れなくなるからだ。2014年度の従業員給与は148.2兆円だが、当期純利益はその27.9%を占め、1969年度を上回り、当期純利益・従業員給与比率は過去最高である。

内部留保の半分を従業員給与に振り向ければ、一人当たり300,000円ほどを上乗せすることができる。内部留保は十分に積んでいるので、2014の内部留保全額を従業員に分配すれば、一人当たり600,000円になる。2014年度の給与総額を全従業員で割った平均給与は367.1万円だ。一人当たり600,000円はその16.3%に当たる。これだけ給与が増えれば。消費マインドはかなり好転することになるだろう。このような思い切った分配を企てなければ、消費は決して上向かないと思う。

国税庁の『民間給与実態統計調査』によれば、給与階級別にみてもっとも多いのは300万円超~400万円以下の824.1万人、全体の17.3%を占める。次が200万円超~300万円以下の802.9万人、16.9%、3番目が100万円超~200万円以下の721.4万人、15.2%と続く。300万円以下の給与所得者は全給与所得者の40.9%を占め、400万円以下に拡大すれば58.2%だ。400万円以下の給与所得者は2014年、2,766万人、1999年比470万人も増加している。なんとも酷いことになってしまったものだ。企業に甘い政策を推進した結果、給与所得者の6割近くが400万円以下に押し込められてしまった。

企業が潤い、低給与所得者層が拡大しているこの矛盾が消費を暗くしている。が、企業だけが潤うことは長くは続かない。企業が存続したいのであれば、利益と内部留保の拡大政策を転換し、特に、低給与所得者に篤い賃金政策を採らなければならない。要はバランスなのだ。一方に偏りすぎると、船が沈没するように、経済も壊れてしまう。利益の溜め込みをほどほどにしなければ、経済の循環は途切れることになる。今、日本経済はうまく循環していない。うまくまわるように、企業は慎みある行動を採らねばならない。

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