過去最低を更新した米労働分配率

投稿者 曽我純, 12月21日 午前10:19, 2014年

FRBは、なぜ異常なゼロ金利の解除を「忍耐強く待つ」必要があるのだろうか。米国経済は緩やかではあるが成長しており、消費者物価の前年比上昇率は11月、1.3%にとどまり、失業率も5.8%まで低下するなど、ゼロ金利を維持する理由などどこにもない。FRBはなにを恐れて今までとそれほど考えは変わっていないのだとくどくど説明するのだろう。さらにイエレンFRB議長はFOMC後の記者会見で「現時点では、少なくとも向こう2回」のFOMCでは引き上げは行われないだろうと念を入れる。

FOMC声明発表後、米株式は急騰、19日までの3日間で、NYダウは736ドルも値上りした。米株式が金融政策に過敏になっていることが窺える。FRBも市場関係者が抱いている不安を共有しているのだ。過去最高値近辺にあるNYダウが金利の引き上げにより、崩落するようなことにでもなれば、いままでの政策が水泡に帰すと思っているからだろう。

資本主義経済でありながら、株式・金融市場はFRBや政府に依存し切っている。FRBと株式・金融部門は一心同体、つまり金融村を形成しており、実体経済とは完全に切り離された部門になってしまった。金融危機で倒産してもFRBが救助してくれ、痛みは最小限に抑えられる。嵐が過ぎ去れば、もとのように、我が物顔で伸し歩く。これが、資本主義の中枢などと嘯くウオール街なのである。経済学者などもウオール街と深く結びつき、金融機関を支えている。

しかし、FRBがいくら株式の急落を回避しようとしても、実体経済から株式が離れてしまったところまで舞い上がってしまえば、手のほどこしようがない。実体経済と釣り合う水準まで株価は下がらなければならないのだ。

米国では家計が株式を直接保有だけで、36.7%、間接分の投資信託を20.4%保有している。その他、年金等を入れれば、家計の株式保有比率はさらに上昇する。今年9月末の米株式価額は35.1兆ドル、2010年末比11.5兆ドルも増加している。家計が株式の半分を保有していると仮定すれば、3年9ヵ月の間に、家計の株式保有額は約6兆ドル増えたことになる。今の為替レートを適用すれば、日本円では700兆円を超える。年間名目GDPが500兆円に満たない日本経済に比べると、3年9ヵ月間とはいえ700兆円もの含み益が米家計に発生したことは、消費マインドにかなりのプラス効果を及ぼしたと考えられる。2009年3月末を底に、米株式価額はほぼ増大しつづけているのだから。

だが、株式含み益がこれほど巨額になっても、米国の消費支出は盛り上がっていない。2008年、2009年は実質2年連続のマイナスになった。2010年以降はプラスを維持しているものの、最高でも2013年の2.4%である。耐久財は2010年以降、6%を超える高い伸びをみせているが、非耐久財とサービスへの支出は弱い状態が続いている。

2013年の実質個人消費支出10.6兆ドルのうち耐久財は1.3兆ドルにすぎず、非耐久財2.3兆ドルとサービス7.0兆ドルが回復しなければ、個人消費は強くならないのである。個人消費が強くならなければ、米国経済も力強さを取り戻すことができない。

株価が過去最高値を更新し、株式価額も増価しているにもかかわらず、なぜ米消費支出は弱いのだろうか。基本的には可処分所得の伸びが冴えないからだ。2010年はプラスとなったが、2.7%にとどまり、2011年、2012年は伸びたものの、2013年は1.0%に低下した(実質ではマイナス)。1人当たりでみると、伸びはさらに低下しており、可処分所得の低迷が消費意欲を削いでいるといえる。

米国民所得の分配をみると、報酬の割合は2009年以降5年連続で低下し、2013年は52.1%と1941年(51.3%)以来72年ぶりの報酬比率の低下だ。報酬の大半を占める賃金・給与の国民所得に占める割合は42.0%と統計の利用可能な1929年以降では最低を更新した。他方、業績が急低下した2008年には6.0%まで低下した国民所得に占める企業利益比率はその後、持ち直し、2013年には10.0%と1968年(10.2%)以来45年ぶりの高い比率に上昇した。 

The world top income databaseによると、米国の所得不平等は1980年代から際立ってきた。上位1%の所得占有率は1973年の7.74%を底に上昇を続け、2012年には19.34%と1928年の大恐慌直前に記録した19.60%以来84年ぶりであり、上位10%でみると2012年が48.16%と過去最高だ。富(住宅、株式、債券等)については2012年、上位1%が41.8%、上位10%が77.2%を所有しており、所得よりもさらに格差が拡大している。

 米国の消費支出が伸び悩んでいるのは、可処分所得の低い伸びに加えて、所得や富の分配の過去にないような著しい格差が、この現代社会において作られたからである。資本主義経済に国やFRBが巧みに関与し、格差を是正するのではなく、逆に、格差拡大に手を染めるという国民を欺く政策を遂行している。所得・富の格差拡大によって、国とFRBが資本主義経済を危機に陥れようとしているように思う。

PDFファイル
141222).pdf (390.45 KB)
Author(s)