追加緩和を振りかざす黒田総裁

投稿者 曽我純, 1月24日 午後3:37, 2016年

21日、ECBのドラギ総裁が追加緩和策を示唆したことからユーロ安ドル高が進行、それにつれてドル建ての商品相場も持ち直した。原油価格も30ドル台に回復し、株式も買い戻された。ただ、商品相場の下降基調は変化しておらず、したがって、株式の戻しも一時的なものにとどまるだろう。商品相場が底入れできないのは、実体経済が弱いからだ。世界経済が底堅く推移する見通しが強くなれば、商品相場はきっと反発することになる。実体経済の確かさを感じ取ることができないあいだは、商品需要の弱い状態が続き、軟調な市況を脱することはできないだろう。

追加金融緩和策に為替や商品等がなぜこうも反応するのだろうか。追加緩和によって、実体経済が改善することを見込んで為替や株式は敏感に動くのだろうが、これまでの、金融政策と実体経済の関係をみると、両者の関連性は弱いのである。金融政策を実施すると実体経済は良くなるという触れ込みだが、あくまでも触れ込みであり、実現はできていないのである。実現できないどころか、金融経済をバブル化するマイナス面が強くあらわれ、金融政策の弊害が目立つばかりである。

こうした経済を歪にする金融政策が市場に効果を発揮するのは、市場がケインズのいう美人投票で動いているからだ。経済が良くなろうが、悪くなろうが、そんなことには御構いなく,目先のキャピタルゲインを求めて、一歩先んじることが市場参加者の最大の唯一の関心なのである。金融政策が実施されそうだということが材料になり、市場は動意づくのである。金融政策によって実体経済がどうなるのかといったことについてはどうでもよいのだ。金融政策は投機家の恰好の餌食なのである。だから、相場がおかしくなれば、博打場は金融政策を求めるのである。

中央銀行は市場ばかりに気を取られ、市場に翻弄されることになる。中央銀行が蒔いた種なので、自業自得ともいえるが。それにしても、相手を出し抜くことだけを考えている投機家に中央銀行はお伺いを立てる、そのようなひ弱な立場であれば、中央銀行の存在意味はなくなる。

 ゼロ金利政策で多数の投機家を生み出し、博打場を活況にした付けが中央銀行に回ってきているのである。日銀のように政府主導でなされた金融政策は、相場が崩れてくると、日銀は梯子を外されることになりかねない。黒田総裁の過去2回の緩和策が実体経済になにの効果をもたらさなかったことが自明となり、追加策を講じても、株式、為替相場を思い通りに操作することはできないだろう。黒田総裁の誤魔化しはもう通用しないのである。

 米株式下落の主因は米国経済の後退懸念とそれに伴う企業業績不安の台頭である。商品市況の総崩れは景気後退を示唆しており、景気の悪化が起きているから、米株は安いのである。低経済成長にもかかわらず、NYダウは昨年7月、1万8,000ドル台まで上昇し、過去最高値を更新した。低経済成長、低増益下で株価が過去最高値を更新したことは、偏に、ゼロ金利に依存していたということである。ゼロ金利を約7年間も続け、長期金利も1%台にまで低下していたが、それでも経済の伸びは金融危機前を下回っている。今でも長期金利は2%だが、これでも資金需要は強くないのである。金融をいくら緩和しても実体経済を刺激することができないのである。問題はゼロ金利などでは解決できないところにあるのだ。

日本などは米国がゼロ金利を始めるずっと前からゼロだが、ゼロによって経済が改善してはいない。それでも黒田総裁は23日、「物価目標の達成に必要になれば、ちゅうちょなく金融政策を調整する。追加緩和だろうと何だろうと、用意はある」と言う。商品市況が全面的に下落している環境で2%の物価上昇などありえない。捨て台詞のようで、もうやけくそになっているとしかいいようがない。このような人物を日銀総裁に充てているならば、日本経済はますますあらぬ方向に進んでいくことになるだろう。

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