賭博を推進する安倍政権

投稿者 曽我純, 1月27日 午前9:23, 2020年

前週比、NYダウは7週間ぶりに下落した。新型コロナウイルスの拡散によるなどと言われているが、要は上がりすぎなのだ。株式参加者は上昇の波に付いていっているだけで、売買の確たる根拠などはない。だから、少しの不安材料に反応してしまう。主要国中央銀行による超金融緩和策による株高演出も限界にきているようだ。

株高が長期化しても、資産格差が生まれるだけで、実体経済にはほとんど株高の影響をみることはできない。株式売買金額が膨れ、証券会社や資産運用会社などが儲かるだけなのだ。株式の資金配分機能を期待しているが、株式による資金調達額はたかが知れている。東証1部の売買代金は昨年、598兆円、1日当たり2.4兆円もの金が飛び交っているけれども、株式調達額は1.4兆円に過ぎない。

株式本来の役割は脇に置かれ、博打場としての機能しか果たしていないと言っても過言ではない。博打場がいかに賑々しく開設されたとしても社会が豊かさを感じられないことと同じように、株式の出来高が増加し、市場が活況になったとしても、豊かな社会になったとは言えないのである。

安倍政権の特徴のひとつは賭場に力を入れていることだ。株式の賭博化に注力し、さらに統合型リゾート(IR)が汚職まみれになっていても、なお推進するというのだから、賭博には相当熱を入れている内閣だと言わざるを得ない。賭博内閣という名称が相応しい内閣なのだ。

昨年の東証1部の売買代金(1日当たり)は2.4兆円と2018年よりは減少したが、2013年以降7年連続の2兆円超なのである。2018年は3.0兆円と11年ぶりに過去最高を更新した。バブル絶頂期の1989年でさえ1.3兆円しかなかったことに鑑みれば、3兆円のすごさがわかる。バブル崩壊に伴い、売買代金は急激に縮小していき、1992年には0.23兆円、その後も0.3兆円程度で低空飛行していた。

ITバブルにより、2000年の売買代金は1兆円弱にまで回復、さらに金利が下げられたことから、売買代金は増加し、2004年には1.3兆円と過去最大の1989年を15年ぶりに更新した。さらに売買は拡大を続け2007年には3兆円を突破したが、米発の金融恐慌や東北大震災によって、売買はすぼみ、2012年には1.2兆円まで縮小した。

2012年末、第2次安倍内閣が発足し、政府と日銀の合作である国債の大規模購入を柱とする超金融緩和策を手掛かりに、株式買い意欲は高まり、2013年の売買代金は2.6兆円に跳ね上がった。そして、2018年の売買代金は過去最高を更新したのである。

1955年以降の東証1部売買代金(年)・名目GDP比をみると、1985年までの最低は2.4%(1955年)、最高は36.3%(1960年)であった。1985年に45.3%と過去最高を更新、1986年以降1989年(78.6%)まで連続して最高を更新した。が、バブル崩壊によって10%台まで低落したが、超金融緩和策によって、2005年には87.6%と16年ぶりに最高を更新、さらに2007年は138.3%へと記録を伸ばす。2008年からは低迷していたが、2013年は127.2%に上昇、以降100%超が持続している。

時価総額(東証1部)・名目GDP比は1989年の142.5%が過去最高で今も破られていない。2019年は116.6%と5年連続の100%超であり、1989年に次ぐのが2017年の128.8%だ。当比率が1989年よりも低いのは、バブル以降の株価が過去最高値を大幅に下回っているからである。実体経済に比べて売買代金は異常に膨らんでいるが、株価の上昇力は弱く、そのことが時価総額を抑制しているのだ。

日本の株式は流通市場だけが異常に活況な賭博の色合いが濃い市場なのである。日銀も公的年金も博打にのめり込んでおり、先が思いやられる。もともと株式などに縁がない主体が主要プレーヤーとなり、それが普通になってしまっている。慣れれば怖くないのだろうか。昔であれば、株式は怖いものであり、だれでも無暗に近づいてはいけないと教えられたものだ。だが、いまではスマホで容易く取引できる。国内の個人でも相当頻繁に取引をしているのだろう。気持ちはスマホだけに向けられ、気もそぞろな精神状態に陥っている人も多いのではないだろうか。いまや、株式投機も極限まで推し進められていると言ってよいだろう。

株式取引に関わっている人たちは、落ち着きなく何かそわそわした感じを漂わせている。刻々、激しく変動する株価に一喜一憂するなど博打以外のなにものでもない。普通の人が博打に手を出せばやられるに決まっている。最後はすってんてんになるのだ。このような博打に現を抜かせば、本当にやるべき仕事は疎かになり、生活はみだれ、破綻に至るケースも出てくるだろう。

株式に賭ける人が増えれば増えるほど、依存症などの精神的疾患を患う人も増えるだろう。社会全体からみれば、株式賭博に伴う損失は決して無視できるものではないと思う。株式だけでなく為替取引も同じか、株式以上にストレスを溜め込むことになる。24時間気の休まるときはない。

いまでもこのような株式や為替の賭博が自由にできるのだが、政府はより本格的な博打場を開設したいという。IRのさまざまな経済効果を列挙しても、賭博の嫌なイメージは拭えない。世界に類を見ないパチンコをはじめ競輪、競馬等掛け事の機会はすでに十分すぎるほどある。これ以上賭博の機会を増やせば、日本はますます落ちぶれていくことになるだろう。

昨年の出生数は86.4万人と過去最少を記録し、自然減は51.2万人だという。これほど出生数が減少し、人口減が急速に進む中で、賭博者が増加していけば、日本社会はどうなるのだろうか。賭博などしている余裕などないはずなのだが。

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曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数