資本主義経済の矛盾拡大

投稿者 曽我純, 6月22日 午後4:25, 2014年

米国経済の伸びは緩やかで、企業利益の前年比伸び率は一桁だが、NYダウは過去最高を更新している。これは偏に、金融政策の御蔭だ。ゼロ金利が長期化すること、それだけで株式は上昇すると市場参加者の多くが思っているからだ。まさに美人投票だけで動くマネーゲームなのである。

1-3月期の米名目GDPは前年比3.4%増加しているが、米10年債利回りは週末、2.61%とGDPの伸びを下回っている。本来であれば、資金需要の増大によって、債券利回りは上昇し、GDPの伸びである3.4%に近づくはずだ。それが長い期間、債券利回りがGDPの伸びを下回ったままで推移していることは、実体経済とマネー経済がかけ離れていることを示している。市場経済が市場経済として機能していないことであり、現在の資本主義経済は内部に大きな矛盾を抱えているともいえる。実体経済とマネー経済の矛盾を作り出したのはいうまでもなくFRBであり日銀なのである。もちろんECBもそうだ。

かつて、何度も金融危機で資本主義経済はマヒしたが、主要国中央銀行は再び金融危機が起こる下地作りに励んでいる有様。実体経済とマネー経済の矛盾が解消されるためには、債券利回りが上昇し、実体経済の伸びに近づくか、実体経済の伸びが低下し、債券利回りの水準に近づくかである。現状はあきらかに、政策金利をゼロにし、債券を大量に購入しているので債券利回りがGDP以下に抑えられている。マネー経済が実体経済に比べて大きくなりすぎており、実体経済に相応しい規模に縮小する必要がある。債券もそうだが、株式も膨らみすぎており、適正な規模に戻らなければならない。

米債券と株式の規模は2008年末の6.3兆ドル、15.6兆ドルから2014年3月末には12.5兆ドル、34.4兆ドルへとそれぞれ急増した。同期間の名目GDPの成長(1.17倍)をはるかに超えるスピードで拡大したのである。このような債券、株式の異常な拡大によって、米国経済は緩やかな成長を維持できているけれども、金融に偏った成長であることは間違いない。これほど偏り歪んだ経済が持続することはなく、いずれ矛盾解消の大きな変化があらわれるだろう。

実体経済とマネー経済の矛盾解消による経済危機を避けるためにFRBは引上げなければならない政策金利を据え置いている。だが、ゼロ金利を維持すればするほど実体経済とマネー経済の矛盾は大きくなり、矛盾解消に伴う経済混乱は激しさを増すだろう。

米金融危機の原因となった住宅価格(20都市)は3月、前年比12.4%と13ヵ月連続の2桁増となり、2008年6月以来約6年ぶりの高い水準に回復した。過去にない低金利が住宅需要を押し上げ、住宅価格を引上げているのだ。金利の低下による資金調達コストの低減が住宅をはじめ耐久消費財の需要を喚起している。ただ、こうした金利に敏感な需要は相当先食いしており、金利が上昇すれば耐久財需要の低迷は長引くだろう。

米国や英国の住宅価格は上昇しているが、昨年10-12月期のユーロ圏の住宅価格は-0.1%とわずかだが前年を下回っている。住宅バブルが大きかったスペインやイタリアは前年比-6.3、-4.8%とまだ下落率は決して小さくない。政策金利がほぼゼロの状態でも住宅価格はプラスにならないのは、まだバブルの膿が十分に出ていないからではないか。だから、ユーロ圏のGDPも浮上はしているものの、足取りはきわめて覚束無い。

 スペインとイタリアの失業率は4月、25.1%、12.6%と依然非常に高く、5月の消費者物価は前年比0.2%、0.4%とゼロに近い。住宅バブル崩壊から6年も経過したが、住宅価格の下落が止まらず、深刻な経済状況が続いている。住宅価格の下落は金融機関の不良債権の増加ともなり、金融面から実体経済へ下方圧力を掛けることになる。これだけ住宅価格が下がっていればデフレ感は強く、消費者物価をさらに下げることになる。消費者物価が下がることになれば、消費は一層悪化し、そうした悪循環に陥りつつあるのではないだろうか。日本の1990年代に酷似してきている。

 日本の株式は米株の過去最高値更新に釣られて買われている。外人が欧米株の上昇により買い余力が生まれ、日本株を4週連続で買い越した。が、駆け込み需要の反動があらわれ日本経済は減速している。5月の輸出(季節調整値)は前月比1.2%減、昨年12月のピークからは5%も減少している。輸入の落ち込み幅は大きく、今年1月をピークに5月はそこから12.7%沈んでしまった。数量では輸出と輸入は前年比3.4%、4.0%それぞれ減少、金額でも円ドル相場が前年レベルに近づいたため2.7%、3.6%それぞれ減少した。

2013年度の輸出数量は前年比プラスに転じたといえ0.6%の増加にとどまった。金額では10.8%増加したが、ほとんど円安ドル高分である。輸入は17.3%も増加し、13.7兆円の貿易赤字となった。経済を悪くするための円安ドル高だったといえる。今年度は為替の輸出嵩上げが限界に達しているため、輸出企業の業績は改善しない。消費税率引上げのマイナス効果がじわじわあらわれ、年度後半の企業利益は減益になるだろう。米株追随の危うい相場である。

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