貿易赤字が日本経済を窮地に追い込む

投稿者 曽我純, 2月26日 午後9:28, 2012年

日経平均株価は3週連続高となり、昨年7月第4週末以来約7ヵ月ぶりの高い水準に回復した。昨年3月末値には100円強に迫り、株式保有者は損失が解消されつつある。円ドル相場も週末、1ド=81円台まで円安ドル高が進み、昨年度末の83円15銭まであと2円ほどとなり、為替差損で苦しむこともなくなりそうだ。国債利回りは引き続き1%を下回っており、昨年度末より0.28%も低く、国債保有者には多額の評価益が発生している。

NYダウは21日、一時1万3,000ドルを突破したことにより、上値が重くなってきた。経済指標の改善が株高を支えているといわれているが、雇用関係を除けば、著しく改善している指標は少ない。米国経済のファンダメンタルズは好調な株式ほど改善しておらず、今の株高は出来過ぎといえる。米国経済が正常な状態を取り戻しているならば、FRBがゼロ金利政策の長期化を公表しても、債券利回りが2%を下回る水準に張り付き、短期金利が低下するようなことは起こらないだろう。

前週でも指摘したが、米株式の反発はFRBのゼロ金利の長期継続政策によるところが大きい。米株式の反発局面ではことごとくFRBの金融政策が顔を出している。米株式が楽観から悲観へと揺れても、FRBが再び多額の買いオペ等で支援してくれるだろうという期待が支えているともいえる。だが、いつまでも金融政策に頼ることができないことは、日本株をみればあきらかである。

金融部門だけが利益を出し続けることは不可能である。実体経済あっての金融だからだ。今の米国経済はゼロ金利で負債を積み上げることが容易くなっており、金融資産と負債の利鞘拡大によって金融機関の利益は拡大している。金融機関の負債の拡大は2008年のような金融危機のリスクが再び増していることでもある。突然の金利上昇により国債の価格は急落し、金融機関は多額の損失を被り、立ち行かなくなることもあり得る。

 ユーロドル相場は週末、1ユーロ=1.3446ドルと1月初め以来のユーロ高ドル安である。20日のユーロ圏財務相会合でギリシャへの2次支援合意や23日発表の2月の独Ifo景況指数の改善などがユーロの買戻しを誘った。だが、売りの買戻しが一巡すれば、ユーロ高の勢いは弱まるだろう。

欧州委員会は23日、2012年のユーロ圏GDPを前年比0.3%減と昨秋の予想よりも0.8ポイント下方修正した。ドイツは0.6%とプラスを維持するが、イタリア、スペインがマイナスになり、ギリシャは5年連続、ポルトガルは2年連続のマイナスを見込んでいる。

今年、ギリシャの成長率はマイナス4.4%と昨年よりも2.4ポイント改善すると予想されているが、一層の緊縮財政を求められているなかで、多少とも良くなるのだろうか。まだまだ行方には幾多の障害が立ち塞がっており、一筋縄ではいかないように思う。ギリシャだけでなく、南欧3ヵ国が挙ってマイナスに陥る経済状況では、ユーロの価値がさらに上昇するとは考えにくい。

 円ドル相場は週間で1円66銭円の円安ドル高が進行し、昨年7月以来約7ヵ月ぶりの円安水準に振れた。ひさしぶりに大きく動いた。GDPのマイナス成長、日銀の金融緩和策、野田政権の増税大綱閣議決定、1月の貿易赤字の拡大等円売り要因が次々に現れた。特別な理由もなく、円はいつか下落すると思いながら、円高が続いていたが、貿易赤字がこれほど拡大すると、実需はドル売りからドル買いに転じ、従来の為替相場の見方を変えなければならなくなる。

 1月の輸出(数量)は前年比9.3%減とマイナス幅は4ヵ月連続で拡大した。対米は横ばいだが、対欧州が10.1%減と3ヵ月連続の2桁減、対アジアは14.9%減と11ヵ月連続で減少しており、しかもマイナス幅は拡大している。

日本の輸出から世界経済をみても欧州とアジアの需要は減少しており、心もとない欧州経済の現状を示している。対米輸出は昨年4月の21.2%減が最悪であり、その後は持ち直している。ただ1月も前年並みの水準にとどまっており、米国経済も本格的に良くなっているとはいえない。

 1月の数量ベースの輸入は前年比3.1%と3ヵ月ぶりのプラスになった。が、価格の上昇により金額ベースでは9.8%も伸び、赤字が1兆4,750億円に拡大した。赤字の2分の3に当たる約1兆円の赤字は中東からの入超による。米国と欧州からの輸入は円高から金額の伸びは数量を下回っているが、アジアからの輸入は価格の上昇により、輸入金額は9.6%増加した。輸入総額に占めるアジアの比率は45.3%と高いことが赤字拡大の主因である。中東からの輸入は19.1%を占め、地域別では第2位、アメリカは8.2%を占めているにすぎない。商品別では原油等の鉱物性燃料の比率が34.7%とトップである。ただ、原油及び粗油は12.7%伸びているが、数量では-2.1%と前年を下回っている。液化天然ガスは74.3%と急増しているが、数量では28.2%と価格上昇の影響が大きい。米国や欧州に比べて日本の液化天然ガスの輸入価格が高いことが、赤字拡大の原因のひとつに挙げることができる。

 欧米の経済がぐらつき、新興国の輸出が伸びなければ、日本の輸出もなかなか回復していかない。内需は縮小しつつあるため、外需依存は強まり、輸出の不振は景気を直撃することになる。昨年の輸出は前年比2.7%減の65.5兆円、金融危機が勃発した08年の81兆円と比べて15.5兆円も少ない。

貿易赤字は昨年4-6月期以降3四半期連続である。1月が巨額の赤字を計上したことから今年1-3月期も赤字になるだろう。世界経済の足取りは弱く、今年の輸出もマイナスになる見通しである。輸入が10%程度伸びると想定すれば、2012年の貿易赤字は10兆円前後に拡大するかもしれない。こうした貿易赤字拡大見通しが円ドル相場に拍車を掛けるように思う。

輸出(季節調整値)は1月、前月比0.4%減と昨年4月以来9ヵ月ぶりの低い水準だ。金融危機の変動期を除けば05年当時の水準である。大震災と原発による製造業の生産能力の低下も加わり、昨年4月以降、輸入が輸出を上回る状態が続いている。鉱工業生産指数と輸出の相関性は強く、輸出動向から予測すれば生産水準は現状から大幅に伸びることは難しい。

製造業の利益の多くは輸出で稼いでいたが、世界経済が回復しなければ望むことはできない。設備投資も需要の先行きを見通すことができないのでつつましいものになるだろう。だが、将来に対する不安が強まっているため、家計の貯蓄意欲は高まっている。この貯蓄は民間部門では吸収しきれず、最終的には公的部門の拡大によって等しくなる。もし公的部門の支出が伴わなければ、GDPは減少することになるだろう。輸出の減少による赤字の発生は、内需が頼りないだけに、日本経済をますます袋小路に追い込むことになる。 

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