財務省の掌中にある野田首相

投稿者 曽我純, 12月25日 午後6:34, 2011年

2012年度の政府の一般会計予算案が決まった。総額90.3兆円のうち44.2兆円が国債発行による借金である。これだけ借金に依存しても、公務員の人員、給与、年金等は変わらず、公共事業も推し進める。予算はすべて財務官僚の掌のなかで決まり、官僚による官僚のための予算であり、野田首相以下閣僚はお飾りでしかすぎない。予算の削減には踏み込めず、足りなければ国債発行、さらに増税と安易な方法に進もうとしている。このような予算案なら政治家がいなくても作れる。

今年度の名目GDPは467兆円と1990年度(451兆円)以来21年ぶりの低水準に戻ることになる。政府の経済見通しでは来年度の名目GDP成長率は2%増になっているが、とてもそんなに伸びないだろう。縮小するかもしれず20年以上前の経済状態が続きそうだ。

今年度の一般会計予算は補正後107.5兆円と当初の94.7兆円から12.8兆円も増加した。名目GDPの23.0%を占めたが、それでも今年度の成長率はマイナスになる。来年度の一般会計予算は大幅に減少するため、プラス成長は難しい。

一般会計のGDPに占める比率が上昇しているが、これを経済規模に見合った水準に引き下げなければならない。今の経済規模は1990年度に近いが、1990年度の一般会計歳出は69兆円であり、来年度予算案よりも21兆円も少なく、対名目GDP比は15.3%である。来年度の一般会計予算を基準に、毎年予算の5%の削減を実行しても69兆円に達するには5年以上かかる。

今年度末の国債発行残高は676兆円に膨れ、来年度の利払いや償還に要する国債費は21.9兆円と歳出の24.3%を占めるため、実際に使うことができるのは68.4兆円にすぎない。国債発行による調達の半分ほどが国債費として消えていくのである。

5%の歳出削減を実行すれば、設備投資や輸出超過額が変わらないとすれば、貯蓄超過が起こる。そして所得が減少し、貯蓄超過が解消されるかたちでGDPは減少するだろう。デフレは一層激しくなるが、消費税の引き上げでも、同じことが起こりうる。GDPに比較して一般会計が膨らみ過ぎているので、経済規模に相応しい水準に一般会計を切り詰め、なおかつ特別会計と地方財政にもメスを入れなくてはならない。

借金が歳出の半分にもおよぶというのに公務員にボーナスを支給するという非常識なことが罷り通っている。このようなことが是正されないようでは、国民の多くは消費税の引き上げなど容認しないだろう。

 欧州委員会によれば、ユーロ圏の実質GDPは来年、前年比0.5%と今年の見通しよりも1ポイント低下する。FRBの予想によれば、米国は2%台の成長だ。日本は年度だが、2.2%伸びると政府は予想している。欧州経済が緊縮財政により、失速しつつあり、アジアも減速するなかで、米国や日本が2%台の成長を達成することができるだろうか。

 足元の経済状態でさえ米国経済は依然不安である。11月の住宅着工件数は前月比9.3%も伸びたが、賃貸住宅が急増したためであり、一戸建てについては2.3%の伸びにとどまっている。個人消費支出は11月、前月比0.1%と前月と同じで低調である。可処分所得が横ばいとなり、消費意欲を削いでいる。鉱工業生産指数も11月、前月比0.2%減と今年4月以来7ヵ月ぶりのマイナスになった。特に、消費財は2ヵ月ぶりのマイナスとなり、生産財よりも悪い。ハイテク産業は不振であり、11月まで3ヵ月連続の前月比減である。なかでも半導体は前年比でもマイナスに落ち込んだ。

日本の対米輸出(数量)をみても、4月以降ほぼ前年割れであり、米国経済は復調している状態ではない。対EUは11月、前年比11.2%減と前月(2.1%減)からマイナス幅は拡大した。アジアへの輸出は3月以降、9ヵ月連続の前年割れとなり、アジア経済がもっとも深刻になっている。自動車を除けばアジア輸出はほぼマイナスであり、建設用機械などの需要は相当冷え込んでいる。

輸出(季節調整値)は9月をピークに2ヵ月連続の前月比減となり、トレンドは変わってきている。鉱工業生産指数は10月、前月比2.2%増加したが、輸出の低迷により11月は減少するだろう。機械受注の外需も10月、前年比15.6%減と2ヵ月連続の2桁減と失速している。日本の欧州への輸出は厳しくなり、それがアジア向けをさらに悪化させ、日本経済は外需に頼ることができない状況に陥っている。

復旧・復興需要は生産効率や付加価値に結びつくようなものではなく、国中を汚染した放射能物質の除染や検査関連などである。資産やものの価値は放射能汚染により、巨額のマイナスの価値を持つ。しかもマイナスは一寸やそっとではなくすことができない。金融機関の不良債権はゼロにはなってもマイナスにはならない。だが、放射能で汚れた工場、機械、家屋はマイナスの価値が付く。半減期30年のセシウム137で汚染されていれば、90年経過しても12.5%の放射能が残っており、資産の除染を完全に行ったとしても、核廃物の保管保存は永遠に続くことになる。資産の価値がゼロになっても、まだコストは想像できないほどかかるし、人間は近寄ることもできない。資産価値がゼロでも廃炉や除染等100兆円単位のコストを要する原発に日本は食い潰されてしまう。来年度の成長率や予算云々といったこととは次元が違う危機に直面しているのである。 

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