説明がつかない現状の株価水準

投稿者 曽我純, 6月12日 午後9:43, 2011年

日経平均株価は9,500円前後で膠着している。週末の比較では5週ぶりの値上りとなったが、前週末比22円の微増にとどまり、先行きは決して楽観できない。今の株価水準が予想利益からみて割安ではなく、市場心理の変化によっては株価は一気に下げるだろう。

米国経済が減速していることが株価低迷の最大の要因である。米国経済の見通し悪化が米株の下落を引き起こし、NYダウは6週連続安となり、3月18日以来の1万2,000ドル割れとなった。米債は買われ、欧州の債務問題によりドル高ユーロ安となり、原油は売られた。

世界最大の米株式市場が下落傾向にあれば、欧州をはじめアジアなどの株式市場もその影響を受ける。特に、日本株は外人に完全に支配されており、外人の買いの手が引っ込むと途端に足取りがおかしくなる。6月第1週の外人買い越し額は86億円にとどまったが、第2週も同じように様子見姿勢をとったのだろう。米国経済の先行き不安が払拭される兆しが見えるまでは、本格的な外人買いは期待できず、米国市場が一層悲観に傾けば、日本株が9,000円台を維持するのは難しい。

米国経済が減速していることは、日本経済は米国以上に減速しているとみて間違いはなく、日本の場合、減速ではなく後退が強まっているといったほうが正しい。1-3月期まで2四半期連続の前期比マイナスとなり、景気は後退しているため、米国経済が減速すれば、輸出の減少により、後退は一層強まる。6月上中旬の輸出は前年比9.3%減だ。輸出が悪化すれば、景気や企業収益も当然落ち込むことになる。企業利益の悪化見通しにより、外人買いは細り、株式は低迷している。

日経が発表している日経平均株価の予想株価収益率は週末、14.3倍と前期基準よりも2.43ポイント低い。これは2011年度の当期純利益は前年度比16.9%増加すると予想されているからだ。景気後退下で企業利益が増益になるという想定はあまりにも楽観的すぎる。たとえば、10%の減益を予想し、現時点の株価を基に予想株価収益率を計算すると、18.6倍となる。10%減益で予想株価収益率を今と同じ14.3倍と仮定して株価を求めると約7,200円となり、現状を2,000円以上下回る。10%以上の減益になれば株価はもっと低くなるし、予想株価収益率が14倍よりも低い水準が妥当になれば株価は6,000円程度に下ぶれしてしまう。いずれにしても、現状の株価水準は利益の見通しからはなかなか説明がつかない。

 日本の代表的企業30社である東証のコア30から東電、関電、金融を除いた23社の営業利益は昨年10-12月期に前年比-3.8%の減益となり、1-3月期には21.4%も前年を下回った。昨年10-12月期の名目GDPは前年比0.5%と前期の2.8%から大幅に減速し、今年1-3月期は2.9%前年を下回り、代表的企業の収益と同じ傾向を示している。減益になっていながら、昨年9月以降、日本の株式は米国の金融緩和に囃し立てられ上昇し、実体経済から離れていった。

 『法人企業統計』によると、大企業営業利益は1-3月期、前年比15.8%増加しており、増益を維持しているが、伸び率は3四半期連続で低下している。営業利益の伸び率鈍化は売上高が前年比1.7%に低迷しているからだ。それでも営業利益の伸び率が売上高を上回ったのは、売上原価の伸び率を0.8%に抑えることが出来たからだ。

大企業営業利益は1-3月期、前期比23.5%も減少し、売上高営業利益率は昨年4-6月期をピークに低下している。これらはいずれも株価の決定要因であり、利益や利益率が低下しているときは、株価の下落は不可避である。

日本経済の動向を左右する米国経済の減速は、根本的には米住宅問題が解決に向わず、再び家計のバランスシートを蝕み、家計消費が依然のような力強さを取り戻すにはほど遠い状態にあるからだ。

FRBの『Flow of Funds Accounts』によると、3月末の家計資産は71.9兆ドルと3四半期連続で増加した。株式やミューチュアルファンドの増価により金融資産が増加したからだ。他方、不動産は16.1兆ドルと減少し続けており、06年末比では6.6兆ドルも目減りしている。負債の大半を占める住宅モーゲージは9.9兆ドルと減少額はわずかであり、家計の負債は改善されていない。これで株式が減価することになれば、家計支出は絞られることになり、そうなれば米国経済は減速から後退へと悪化することになる。

 

モーゲージの総額は3月末、13.7兆ドルと緩やかに減少し、08年末比では0.8兆ドル減にとどまっている。住宅価格が大幅に下落しているにもかかわらず、モーゲージが依然高水準を保っていることは、住宅関連の不良資産が処理されていないことをあらわす。モーゲージ資産の保有者は、多くがファニーメイ、フレディマックといった政府管理下の公的企業(6.2兆ドル)であり、次が商業銀行(3.5兆ドル)である。住宅価格がずるずると下落しているため、公的企業が保有する住宅関連資産は著しく劣化しているはずだ。不良資産は処理されず、民間から国へ飛ばされただけで、米住宅バブル崩壊による資産価値下落問題は、ほとんど手付かずの状態にあると考えられる。これでは米国経済は立ち直ることはできない。米家計消費は低空飛行を余儀なくされるだけでなく、世界的に需要不足の状況をつくるが、なかでも大震災と原発の経済活動への打撃が大きい日本経済は、米国の影響を大きく受け、米国を上回る需要不足に直面するだろう。 

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