1月31日のトランプ大統領の発言により、再び、円高ドル安が進行した。何が飛び出すかわからない状況では為替、株式などの取引は怖くてできない。これほど大統領の発言で相場が変動することは過去にはなかった。あまりにもストレートな物言いである。わかりやすいことは確かだが、大統領が全面に現れて言うべきことではない。各国の首脳がそれぞれ、自国優先の発言を露骨に表すことになれば、紛争を引き起こしかねない。経済摩擦、経済戦争というべき状況に陥り、世界経済は混乱することになるだろう。
なんといっても米国は世界最大の経済パワーを持っているので、そこが紛争の発火点となり、燎原の火のように広がっていくことになれば、世界経済は大変なことになっていくことは容易に予想できる。
米国は世界1の経済大国に相応しい振る舞いをすべきなのである。そうした行動ができないことになれば、世界からそっぽを向かれ、米国は孤立することになるだろう。おそらくその前に米国内でも、今でも低いトランプ大統領の支持率はさらに低下し、政権を維持できなくなるだろう。
安倍首相はこうしたトランプ大統領に擦り寄っている。急遽、作り上げた経済協力策を持参し、ご機嫌を取ろうという寸法である。米国の大統領であれば、だれでも寄り添うような分別のない姿勢を示せば、日本の主体性が疑われることになるだろう。すでに日本を名指しで非難している人に対して、そのようなことはまったくなかったかのように、振る舞うことは、欧州の政治家に奇異な感じを与えているのではないか。
プーチン、習近平たちのような独裁政治家を志向しているトランプ大統領にお伺いをたてる安倍首相の行動は、自ら独裁的な政治を首肯しているともいえる。特定秘密保護法、武器輸出の解禁、安全保障関連法、さらに共謀罪の制定に向けた動き等いずれも戦争関連の法律であり、最終的には憲法9条を葬りたいのだが、トランプ大統領であれば、これに賛成してくれるだろうという思惑もあるのではないか。王道ではなく覇道を地で行くトランプ大統領に近づくことのリスクはきわめて高いのだが。
先週末、トランプ大統領はドット・フランク法(金融規制法)を抜本的に見直す大統領令に署名した。サブプライム問題により米金融恐慌を引き起こし、世界経済を麻痺させ、それから9年も経過していないが、金融危機など起こらなかったかのように、金融機関は自由な投機活動に走りだすことになるだろう。
FRBの実体経済から乖離したゼロ金利の長期化などで、いまだに金融経済の肥大化は修正されていない。また、2016年の実質GDPは1.6%へと前年から1ポイントも低下し、金融危機以前と比較して実体経済も低空飛行を余儀なくされている。米国経済は改善されつつあるとはいえ、いまだに金融危機の痛手から完全に立ち直ったとはいえず、後遺症を引きずっているのである。
そのような病がいまだに癒されていないときに、ウォール街の規制を取り払い、自由に行動させるというのである。金融経済は金融経済だけでは成り立たず、あくまでも実体経済の脇役なのだ。脇役から主役になどあり得ないのだが、投機が蔓延ることになれば、あたかも主役であるかのように表舞台に登場するのである。
米株式はいまでもバブル化しているのだ。実体経済と株式を比較すれば株式は名目GDPの2倍超(昨年末)であり、国債利回りは名目GDPの前年比伸び率を下回っているなど、金融経済は実体経済と不釣り合いの状態にある。こうした不均衡な状態がいつまでも続くことはなく、いずれ釣り合うところまで金融経済が修正されることになるだろう。
トランプ大統領の自国第1主義のトップバターは輸出拡大である。そのためにはドル安が重要な戦略となる。FRBは昨年12月、約1年ぶりに政策金利を0.25%引き上げた。先週開催のFOMCでは据え置き、先行きについても言及しなかった。トランプ大統領を気遣っているのだろう。トランプ大統領にとって利上げはドル高に繋がることから、利上げは決して容認しないだろう。FRBと火花を散らす時期はそう遠いことではない。トランプ大統領とFRBの対立、低金利政策への期待などでドル安円高に向かう可能性は高い。円高に対抗できるような政策を安倍内閣や日銀が打ち出す気概は持ち合わせていない。1ドル=100円程度は覚悟しておくべきか。