東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言に端を発して、沸き起こった男性中心社会や男女不平等の問題は、日本社会に深く根を下ろし、日本経済の停滞要因のひとつに挙げることができるだろう。女性を補助労働と位置付けて、軽視し、職場での教育などもおざなりしてきた付けが回ってきているのだ。対等に処遇するというごく当たり前のことが、今もって、一部にとどまっているのである。極端に言えば、女性労働は奴隷制度の延長線上にある。
女性の下位に外国人労働者が控えるという労働の階層が作られている。こうした階層的な労働・賃金体系によって企業は利益を捻出しているのだ。今でも、企業は搾取できるところからは徹底的に搾取するという仕組みを内部に組み入れているのだ。
密室で大事な人事は決めてしまうというのが日本のやり方なのである。菅首相のときも一部の権力者が擁立し、選挙も簡便な方法を採るなど、不透明な選出であった。候補者は3名いたけれども、活発な討論はほとんど行われず、首相の資質を見極めることなどできない選挙であった。政治の場でも、極めて曖昧である日本的な選出方法が続いているのである
東京五輪・パラリンピック組織委員会も一部の男性が牛耳っているのだろう。委員会といっても大半は聞き役であり、議論が活発に行われていたとは思えない。議論のない、腐っているような組織で新たに会長を選出するといっても、とても会長に相応しい人物が選ばれるとは考えられない。
優柔不断で蒙昧な組織で何ができよう。新型コロナの収束を前提にし、開催一辺倒の姿勢は特攻隊の精神を彷彿させる。世界中から選手を受け入れるだけでも感染リスクは高まる。感染を抑えると言いながら、感染を拡大する大会など御免被りたい。本質を掴めない思考の幼稚性が、重要事項の決断を阻んでいる。
企業でも社長が後任を決めるという独裁制が多くの企業で敷かれている。だから、イエスマンばかりが社長の周りを取り囲み、都合の良い情報しか伝わらないことが往々にして起こる。正確な情報が伝わるときには、会社はすでに傾き、成すすべがないほど悪くなっている場合もある。
株主総会が最終的な人事の権限を握っているが、株主総会は形式的で形骸化しており、そこで覆されることはほとんどない。大企業でさえも株主総会が機能しないのだから、中小企業の社長はまさに王様なのである。絶対的な権力を持っており、男女平等など歯牙にもかけない。女性はあくまでも下働きなのである。
だが、基本的人権が遵守されないようでは日本社会の将来は期待できない。経済に限っても、女性が半数占めているわけだから、女性が働きやすく、能力を発揮できるような社会にしていくことによってのみ豊かな経済を構築していくことができるのである。すでに男性中心の社会は能力の限界に達しており、男性社会では新たな地平を切り開いていくことはできないのではないか。
今回、スポンサー企業も森発言は「あってはならない」というが、男女の役職や賃金について格差はないと胸を張っていえるのだろうか。
国税庁の『民間給与実態統計』によれば、2019年の給与所得者数は5,255万人、男は3,032万人、女は2,222万人と全体の42.3%を占める。男の非正規給与所得者数は370万人、男総数の12.2%だが、女の非正規は844万人、38.0%を占める。給与総額は229.3兆円、そのうち男は163.6兆円、総額の71.4%、女は65.6兆円の28.6%しか受け取っていない。女の給与所得者数は全体の42.3%を占めていながら、給与は28.6%で我慢させられているのだ。非正規の女の給与は12.8兆円、総額の5.6%と極端に少額であり、総給与所得者数の16.1%が非正規の女給与所得者でありながら、給与はその三分の一の分配になっているのだ。
平均給与では正規の男は561万円だが、女は388万円であり、女の水準は男の69.3%である。男の非正規は225万円と正規の男の40.2%である。女の非正規は152万円と正規の女の4割にも満たず、正規の男比では27.1%という低水準なのだ。
事業所規模別平均給与(10人未満A、10~29人未満B、30~99人未満C、100~499人未満D、500~999人未満E、1,000人~4,999人未満F、5,000人以上Gの7規模)によれば、男は規模が大きくなるに従い平均給与も上昇しているが、女はEまでは高くなるが、Eをピークに低下している。A・G比率は男の61.7%に対して女は85.0%と規模による格差は男より女が小さい。規模別の女・男比率はDが60.1%最も高く、規模が大きくなるほど男女格差の拡大がみられ、Fは51.1%、Gは42.3%である。5,000人以上のGでは男の平均給与は686万円だが、女は290万円であり、大企業ほど女性蔑視は深刻だと言える。スポンサー企業は、森会長の発言は容認できないというが、経営者として女性を蔑ろにする処遇をしていないのだろうか。これだけ男女の給与格差が現にあることは、取りも直さず女性を差別していることになるのだが。
OECDの統計によれば、2019年のパートタイム・フルタイム労働者の割合はG7(米国を除く)のなかで日本が最も高く、33.6%、次がイギリスの30.0%であり、最低はフランスの15.5%である。男女の賃金格差も日本が23.5%と最大であり、米国が18.5%と第2位で、カナダの17.6%と続く。男女格差だけでなく、賃金水準(2019年のドルベース)もG7で最低は日本であり、トップは米国。日本はその米国の58.7%の水準でしかない。パートタイム労働者が多く、しかも、ジェンダー格差が大きいことが、賃金水準にも影響しているように思う。
女性差別と男女格差の存在によって、男の居心地の良さを保つことができることから、解消されることなく、綿々と続けられてきた。だが、こうした男中心社会が、いつの間にか、経済の中心を占める賃金やその分配の仕組みを歪め、そのことが経済活動にマイナスの影響を及ぼしてきた。男女の賃金の不平等な分配は消費支出を低下させ、政府部門の肥大化に繋がる。消費の低迷は、延いては賃金にも悪影響し、日本経済の地位は相対的に落ちていく。
労働時間は、それなりに改善しつつあるが、日本は年1,644時間とドイツよりも258時間も多い。逆にいえば、日本はドイツよりも余暇時間が短いのだ。育児休暇や休暇の日数も少なく、その上取得率も低い。男中心社会が作り上げてきた制度は破綻したと言える。いかにジェンダー格差をなくすことができるかどうかで、これからの日本は大きく変わるのではないか。