FOMCの声明やドラギECB総裁の表明は、市場参加者に気を持たせる内容であった。期待を繋いだことにより、週末の7月米雇用の改善が、株式買い意欲に火をつけた。NYダウは4週連続高となり、4月のバブル後高値まで168ドルの水準に上昇した。英独の株価指数も3ヵ月前の水準を上回っているが、日本の株価指数は下値を窺っている。なぜ日本株がこれほど弱いのだろうか。
6月の鉱工業生産指数が前月比-0.1%と3ヵ月連続で低下したが、在庫水準は依然高く、生産が回復する状態ではない。7月の新車販売が前年比36.1%と伸び率は縮小しており、それに連動して輸送機械の生産の伸びも急激に低下している。政策効果により引き上げられた反動減に陥ることや、欧州の景気悪化による輸出減が鉱工業生産を低下させるだろう。4-6月期の鉱工業生産が前期比-2.2%(情報通信は-19.1%)と4四半期ぶりに低下したことから予想される企業収益の悪化が、株式離れを促している。
日経平均株価を1989年末のバブル期以前に遡れば、今の水準は1983年3月、4月に当たる。単純に考えれば、29年以上前に買っていなければ値上がり益は出ていないことになる。90年代以降に買い増ししている人は、巨額の損失を抱えているはずだ。株式を買えば買うほど損失が発生しており、株式の購入は金をどぶに捨てるようなものになっている。29年も前の株価水準に舞い戻ってしまった原因はなにだろうか。
1989年末をピークに23年も下落し続けていることは、四半期決算や通期決算の短期の企業業績を反映しているだけでなく、業績を作り上げている企業の総体がおかしくなっているからだ。株価が短期業績だけに応じて動いていれば、これほど長期間下がり続けることはない。もっと根本的な部分が崩れてきているために、これほど長期間下落しているのだ。
証券市場の担い手である証券会社自身が何度過ちを繰り返しても、改まらない体質なども証券市場瓦解に繋がっている。国有化された東電がいまだに上場されていることがいかに市場に反することかも東証はわかっていない。東証が市場を自ら否定しているといってよい。利益を原価に上乗せできる総括原価主義を採用している市場原理とは掛け離れた企業など上場させるべきではないのだ。
財務相の『法人企業統計』(大企業、年度)によれば、営業利益を総資産で除した利益率は長期的な低下基調を示している。83年度、84年度は5%台を維持していたが、バブル絶頂期の89年度は4.5%に低下した。バブル崩壊後はさらに低下し、2%台、3%台を行き来する。ITバブル後、欧米の不動産バブル景気に伴い、利益率は改善し、06年度には4.6%と1988年度以来の高利益率に回復した。が、それも束の間、09年度には2.2%と2年連続で戦後最低を更新した。
利益率の長期低下の原因は過大な資産を保有しているからである。売上高を総資産で除した比率は1980年度の140.1%を最高に低下し続け、09年度には73.9%と過去最低を更新した。総資産1で1.4の売上高を稼いだが、いまでは総資産1で0.74の売上にとどまっている。資産を保有してもそれに見合う売上を確保できていないのである。売上に結びつく資産ではなく、売上に結びつかない資産を保有しているのだ。資産を保有すれば当然コストが掛かる。資産が産み出す利益よりも資産の保有コストのほうが大きい資産を抱えているのである。
総資産は流動資産と固定資産からなるが、固定資産の増加が顕著である。2010年度の大企業固定資産は447兆円、そのうち「有形固定資産」は197兆円だが、「投資その他の資産」が239兆円と「有形固定資産」を上回っている。そして「投資その他の資産」の7割は「株式」だ。総資産に占める「投資その他の資産」の比率は2010年度、33.7%と過去最高を更新した。「総資産」・「投資その他の資産」比率は1960年度から一貫して上昇しており、日本企業の「投資その他の資産」保有は世界に例を見ない規模に膨らんでいる。固定資産のなかでは「土地」が60兆円含まれており、これに「投資その他の資産」を加えれば300兆円になる。これは総資産の実に42.2%を占める。本来、企業活動に必要としない巨額の資産を保有していることが日本企業を弱体化させ、長期利益率を低下させている。
いま、政府は原発の聴聞会を開いている。福島原発にお手上げの政府だが、まだ原発を使いたいがために、無駄な金と時間を使って聴聞会を開き、一応反対意見も聴いたことにするつもりなのだろう。国民が決めてもらいたいことは決めず、決めてもらいたくないことは決める野田首相。自分のやりたいことはなんとかこじつけてでも遣り遂げる。
原発を動かさなくても電力は足りるし、発電コストも安い。足りなければ化石燃料の発電所を建設すればよい。コスト高の自然エネルギーなどそれこそ必要ないのだ。原発を動かさなければ使用済み核燃料も発生しない。いままでの核廃物は保管しなければならないが、これ以上核廃物は増えない。再処理のような恐ろしくて、ばかげた工場など即刻廃止すべきだ。原発・再処理廃止はまさに良いことずくめだが、原発に群がっている経団連などのハイエナが猛然と脱原発に抵抗している。経団連など六ヶ所村にある再処理工場の隣に移すべきだ。
政府が原発を廃止するといえば、ことはそれでおしまいになるのに、ぐずぐずといつまでも原発比率などの議論を進めている。民意は脱原発が大勢だが、野田政権は結論を引き延ばしている。それだけでも放射能を撒き散らし危険この上ない原発を地震の巣に建設することなど、正気の沙汰とは思えない。こうしたきわめて重要な問題の方向を決めることができない野田首相が、だめな日本を象徴している。
分かりきっていることをだらだら話し合うことは企業でもよく見かけることだ。一部の人できめればよいことを大勢で議論する。結論はきまっているのに会議をする、このような機会はよくあることだ。会社の低能率と長時間労働の原因になり、こうした日本の企業体質が利益率を長期的に低下させているのである。
年金積立金管理運用(GPIF)が113.6兆円(2012年3月末)もの年金積立金を運用しているが、国内株式の資産比率は12.5%の14.1兆円、外国株式は11.46%の13.0兆円保有している。国内株式が底なし沼にあるなかで、株式を購入することは貴重な年金を失ってしまうことになる。日本企業の肥満がいまだに進行し、利益率が低下しているにもかかわらず、国内株式に手を出すとはどういうことだろうか。日銀もETFに手を染めている。外国株式は中身が分からないだけでなく、為替が絡むことで、まさに博打といってよい。運用などしなくてよいのだ。年金を増やす運用などできないのである。現金で保有すれば一番安全で運用費用もかからなく、保有するだけで価値が増すのである。長期デフレ経済で年金を増やすことなどできるはずかない。運用業者を潤すだけだ。年1%の運用コストを払っているとすれば、年1兆円以上の金が運用業者の懐に入ることになる。10年では10兆円を超える金を運用業者はリスクなしで稼ぐ。なんともおいしい仕事ではないか。税金や電気料金が原子力村の餌食となっているように、年金は年金村の餌食にされている。