繰り返されるバブル

投稿者 曽我純, 12月14日 午前9:07, 2020年

国内の新型コロナ感染者数も過去最多を更新しているが、菅首相はGo Toに固執し、対応は後手になってきている。処置が遅れれば遅れるほど傷口は大きくなり、最悪、手の施しようがなくなる。宿泊、飲食店を支援する必要はあるけれども、感染者が急増すれば、規制しなくても人出は遠のくだろう。これまでの2度のピークを越え、厳しい季節に入りつつあることを考慮するならば、わざわざ日本中にウイルスをばら撒くようなGo Toは止めるべきだ。いつものことだが、決断が遅い。

新型コロナが人に宿主してから1年しか経過しておらず、これまでのウイルスを思い出しても、先はまだ長く、収束までには数年を要するだろう。来年も再来年も新型コロナに脅かされることになりそうだ。その間、生活は慎み深く営むほかない。今までの経済成長一点張りの生き方は通用しないのである。経済拡大至上主義を標榜してきたが、実際にはほとんど成長できなかった事を噛みしめ、新たな生き方を模索する必要がある。

税制の誤りが分配を歪めてしまい、公平性が著しく損なわれてしまった。経済は拡大しなくても分配の是正だけでより豊かさを実感できるはずである。政府の税制が所得格差と資産格差を作り出してきたのである。一度原点に戻って分配構造にメスを入れ、分配を再構築しなければ、より良い経済社会にはならない。

12月10日の与党税制改正大綱によれば、菅内閣の目先の人気取り政策の羅列であり、日本経済の構造を見すえた視点は少しもなく、選挙目当ての作文と言える。企業の側に寄り添った税制改正なのである。デジタル関連などはほっておいてよいのだ。これを税制で支援する必要などまったくない。脱炭素化も製品の陳腐化を狙ったもので新製品を作り出しそれを消費者に買わせるまさに無駄な投資を促す政策である。今まで使用しているものを長く使用した方がエネルギーの使用を少なくするのだ。新製品を次から次へと矢継ぎ早に出し、あたかも飛躍的な性能を備えているかのような宣伝で、消費者心理を掻き立たせるような販売は止めるべきだ。このような生産と消費の繰り返しではエネルギー多消費型から抜け出すことはできない。電気や水素自動車などのエネルギーを利用する車もけっしてエネルギー節約的とはならない。エネルギー消費をより迂回的にすればするほどエネルギー効率は落ち、エネルギー多消費になるのである。

住宅ローン減税やエコカー減税をするくらいなら低所得者の減税を実施すべきだ。すでに長期間ゼロ金利を続けており、耐久財の購入に減税措置はいらない。住宅価格や土地の価格を不当に引き上げるだけである。

日本不動産研究所の『市街地価格指数』(3月、9月調査)によると、今年9月末の六大都市商業地は3月末比1.5%下落した。前期比マイナスになるのは2012年3月末以来8年半ぶりである。新型コロナによるオフィス需要の減少や外人観光客の激減で飲食店の廃業などによる影響があらわれている。これから数年、商業地地価は下落することになるだろう。

六大都市商業地が7年半も値上がりしていたのは、偏にゼロ金利の賜物と言える。株式と

まったく同じある。地価や住宅・マンション価格が高くても、金利が異常に低いので支払利息が少なく、高額でも支払が可能となる。さらに不動産投信の投機的な買いが商業地価格を引き上げてきたのだ。

今年9月の六大都市住宅地価格は前期比-0.2%、前年比0.0%と落ち着いており、2010年3月と比較しても4.5%の伸びにとどまっている一方、商業地価格は38.7%も上昇している。 消費者物価指数の過去10年の伸び(5.7%)に比べても商業地地価が異常に上昇していたことが分かる。

日経平均株価は過去10年で2.58倍と商業地地価とは比べものにならないほどの急騰である。ゼロ金利の威力は株式に最もよくあらわれている。1980年代後半の地価バブルは1990年9月にピークを付けたが、それまでの10年間の伸びは6.0倍であり、1989年末に至る日経平均株価の10年間の伸び5.9倍とほぼ並んでいる。1989年と1979年の消費者物価指数を比較すると28.1%伸びているだけで、地価と株式が暴騰していたのとは対照的である。実物経済に過熱感はなく、不動産と株式だけが異常な熱狂に晒されていたのだ。この時も、実体経済の成長率をはるかに下回る水準に政策金利を引き下げたことが、土地と株式の二重のバブルを招いた。1990年までの5年間の名目GDPは年率6.1%の高い伸びを示していたが、日銀は公定歩合を1983年10月に5.0%に引き下げてから1985年末まで維持していたが、1986年1月に4.5%への引き下げを契機に約1年後の1987年2月には2.5%まで急激に利下げした。しかも、実体にそぐわぬ低金利を1989年4月まで続けたのである。いくらプラザ合意後の円高ドル安対策とはいえ、土地と株式のバブルを煽る利下げは完全に失敗であった。1990年代以降のバブル破裂による日本経済の長期に及ぶ惨憺たる状況を顧みれば、円高ドル安の影響など採るに足らなかったと言える。

1980年代の金融政策の失敗を日銀が真剣に反省しなかったことが、再びバブルを引き起こしているのだ。しかも、当時の水準に輪をかけて低いゼロ金利を延々と続けている。ゼロ金利だけでなく、大規模な国債買いにより、国債もバブル化しているのだ。さらに、諸外国では手を出していない、禁じ手とされている株式購入にのめり込んでいる。このように何でもありの政策によって、株式だけでなく国債や商業地などもバブル化しているのである。

新型コロナがこれからも経済活動にじわじわ効いてくるはずだ。実体経済は収縮していくだろう。今までの家計を始めとする外部化が、所得の減少に伴い縮小を余儀なくされることが、正常化への第一歩といえるだろう。外部化を推し進めることが、経済の拡大には貢献するけれども、本来自分ですべきことを他人に委ねていただけで、これを再び自分の成すべきこととして取り戻すことなのだ。あまりにも他人任せにしてしまい、自らの手を使うことが少なくなってしまったのではないか。外部化を内部化することによる経済水準の低下であれば、経済社会にそれほどの不安をもたらすことはないだろう。

幸い、欧米に比べれば、日本は新型コロナ感染者や死亡は少ない。渡邊昌(『日本の新型コロナ感染者・死者の少ない理由』、2020年6月)によれば、米の消費と新型コロナ感染者数とには強い負の相関あるという。米離れが続いているが、この際、新型コロナに強い米の良さを見直し、米回帰に取り組むべきではないか。和食がやはり日本人には合っており、米中心の食事を心掛けたいものだ。

三木成夫は「玄米の味覚は‥‥系統的に遠い植物界の蛋白質を材料に選び、おのれに近い動物門のそれはできるだけ避けるということだ。地球の生態系から眺めると、これこそ動物本来の食の形態というものであろう」(『胎児の世界』、中公新書、1983年)。玄米は究極の食べ物なのである。

 

■次号は休みます。

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