緊縮財政ではユーロ経済の低迷続く

投稿者 曽我純, 7月12日 午後5:10, 2015年

インチキ賭博と言っても可笑しくない中国株式に翻弄され、日経平均株価は週末値では5月第2週以来2ヵ月ぶりの20,000万円割れとなった。昨年10月以降の日本株の値上りは円安ドル高に加えて、中国株急騰の影響も大きかった。いくらインチキをしてもバブルとなればそれなりの反動減は避けられまい。日本の株式もそれなりに国家と日銀が関与した相場になっていることから、対岸の火事と見過ごすわけにはいかない。

7月第1週の東証1部の部門別売買動向によれば、外人と自己が2,393億円、1,725億円それぞれ売りこしている半面、信託銀行や投資信託などが買い越している。ギリシャの不安などで先週も外人が大幅に売り越し、年金マネーの信託銀行などが買い手になったようだ。右肩上がりが続くのであれば、買いがもっとも優れた投資方法なのだが、先行きはだれもわからず、株式に投下した年金マネーのリスクは高い。相場はすでにピークを打ち、右肩下がりに転じたのかもしれない。

 日本の株式の最大の問題は、資金調達機能という株式の本来の役割がまったく機能せず、流通市場だけが重んじられ、売買の過多が株式を象徴していると受け取られていることだ。株式会社は株式を発行して資金調達することができるのだが、昨年の全国上場会社資金調達額は2.2兆円にすぎない。他方、昨年の東証1部の売買代金は576兆円、1日当たりでは2.3兆円もの金が株式に入り込んでいる。名目GDPを上回る金が株式流通市場で活発に動き回っているのだ。

 株式の値付けの機能しか果たしていないのが、今の日本の株式市場なのである。本来の機能が失われ、流通市場だけが活況を呈するという博打場の様相が濃くあらわれている。博打場が繁盛していることは、社会が荒んでいることをあらわしており、決して良い社会とはいえない。発行市場(プライマリーマーケット)が機能せず、セカンダリーの流通市場だけが勢いづくことは異常なことである。ゼロ金利や国の関与によるセカンダリーマーケットの隆盛はいずれ水泡に帰すだろう。

 賭博場に国民の目が集中しているときに、安倍政権は「戦争法案」の衆議院通過を果そうとしている。「戦争法案」だけでなく、大学や教師へも凄む。戦前を髣髴させるような自民党「憲法改正草案」に近づけようとしている。基本的人権や言論の自由についても本音は奪いたいのだろう。

昨年度の年金運用は15兆円もの運用益を上げたというが、これは帳簿上の話であり、実際に15兆円の現金が口座に積み上がったことではない。昨年の株価や債券価格等で評価すれば紙の上で15兆円増えたということでしかない。もし、株式を現金化するために売却すれば、売ることで株価は下落するだろう。しかも何兆円の株式の売却であれば、相当なインパクトを市場に与えるはずだ。運用益がたくさんでたといっても本当にいつでも使える金がふえたのではなく、評価額が増大しただけなのであり、いつまた減少するかもしれない。運用は水物なのである。

ギリシャの問題はEU加盟国の意見の相違はあるものの、本日のEU首脳会議では、ギリシャの提案を受け入れ、資金援助を続けるという従来の方針とそれほど違わないところに落ち着くのではないか。ギリシャは緊縮策に反対しても結局、ユーロから抜け出すほどの気概もなく、緊縮策を受け入れざるを得ないのだ。なにのために国民投票をしたのだろうか。

eurostatによれば、ギリシャ政府の債務・GDP比は2014年、177.1%とユーロ圏では最も高い。2番目がイタリアの132.1%、ポルトガルの130.2%と続く。100%以上は5ヵ国だが、スペインやフランスも97.7%、95.0%と100%に近い。しかも、ギリシャの債務はピークから減少しているが、2014年までの5年間で、スペインとフランスの債務は135.3%、50.0%それぞれ増加しており、対GDP比100%突破も時間の問題である。

ギリシャの名目GDPはユーロ圏の1.8%に過ぎず、債務残高(3,170億ユーロ)もユーロ圏全体の3.4%と低い。ところが、スペイン(1.03兆ユーロ)やフランス(2.03兆ユーロ)の政府債務が問題になると、債務は桁違いに巨額でギリシャどころではない。

ユーロ圏経済がうまくいくかどうかはドイツに掛かっている。いつまでも緊縮財政を唱えていれば、ユーロ圏経済の成長は望めないだろう。2014年のユーロ圏名目GDPは1兆113億ユーロ、2009年比829億ユーロ増加した。この増加額の半分強の446億ユーロをドイツだけで付加した。フランスは203億ユーロ、イタリアは42億ユーロ、スペインやポルトガルにいたってはマイナス21億ユーロ、マイナス2億ユーロとユーロ圏の足を引っ張った。ドイツが図抜けていることがよくわかる。

2010年以降、ドイツの実質経済成長率はユーロ圏を上回り、ドイツ経済のユーロ圏での割合は高くなっている。ドイツ経済はうまくいっているけれども、ドイツを除くユーロ圏は低迷状態から抜け出せないのだ。ドイツが財政規律を貫くことは頷けるが、ドイツ以外の国に緊縮財政を押し付けることは間違っている。ドイツがユーロ圏の低迷国にも財政政策を認めなければ、ドイツとユーロ圏の他の国との経済格差はますます拡大することになるだろう。

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