原油価格は下落し続けているけれども、米株式は過去最高値を更新するという対照的な動きをみせている。これまでの経験では原油価格と米株式の相関性は強く、原油価格の大幅な下落時には、株式も落ち込んでいる。原油の需要は世界経済に深く関与しており、世界経済が良くなければ、原油需要も弱くなり、価格は低下する。今、世界経済の成長率は低下しており、伸びが高くなる状況ではない。当然、原油をはじめ資源価格は軟弱にならざるを得ない。
IMFによると、2013年の世界経済は実質3.3%増を見込んでいる。3年連続の伸び率低下である。2008年の金融危機以前の2007年の5.7%を大幅に下回り、1996年から2006年の平均(3.9%)にくらべても低い。2013年の先進国は1.4%と1996年~2006年の半分になり、成長率の下方屈折がみられる。金融危機の後遺症によるものなのか、経済内部の構造的な要因なのか詳しく調べる必要があるが、需要が元のように戻らないことが低成長にしていることは確かである。
特に、欧州のように失業率が11.5%と高ければ、消費を伸ばすことは難しい。高失業率でありながら、財政政策を拡大させるわけでなく、金融政策だけに頼り続けている。これでは、いつまで経っても欧州経済の低迷は続き、来年、プラス成長なることも容易ではない。来年の世界経済は3.3%と予想しているが、いまの資源価格の下落や国債利回りの異常な低下をみていると、達成できるかどうか疑問である。
世界経済成長率の低下は企業利益の伸び率低下でもある。企業利益が伸び悩むなかで、株式が高値を付けることは異常なできごとである。株価は利益ではなくほかの要因で動いていることになる。株式を強気にさせているのは中央銀行の行動である。ゼロ金利の長期化と株式の動向によっては、追加金融支援があり得るという期待が、株式の強気相場を形成しているのだ。FRBは株価急落の事態になれば、異常なゼロ金利の解除を封印し、懸命に株価を支える姿勢を強調すると市場参加者は読んでいるのだと思う。
NYダウの年間上昇率は今年もプラスになることは確実であり、2009年以降6年連続のプラス、日経平均株価も今年を入れれば3年連続のプラスになる。日本も株式が変調を来たせば、日銀がさらに金融支援をすると期待しているのだろう。だが、実体経済の足取りが重く、実体経済に効果がない金融政策の期待だけで株式をつなぎとめることは不可能である。いつか期待は剥がれ、株式は制御不能になるだろう。
金融政策は実体経済だけでなく金融経済も視野にいれて運用すべきだが、いつのまにか金融経済の支援政策となり、中央銀行は金融支援機関に堕落してしまった。本来、株式バブルにならないような政策を採るべきところをバブル拡大政策に宗旨変えしてしまった。しかも、日銀などは政府の成すがまま、政治の奴隷に堕落してしまい、独立性など空語となってしまった。
日銀のホームページの表紙に「日本銀行は、物価の安定と金融システムの安定を目的とする、日本の中央銀行です」と書かれている。その下に「2%の物価安定の目標」と掲げてあるが、2%が物価安定なのだろうか。1983年度以降の30年間で消費者物価(総合指数)が年度で2%を超えたのは1984、1989、1990、1991、1997年度の5回である(生鮮食品を除くでも2%超は6回)。このうち2回は消費税導入と引き上げによる上昇である。
バブル以前を含む長期間をみても、消費者物価の2%上昇などきわめてめずらしい経済現象であることがわかる。2013年度までの30年間の平均物価上昇率は0.56%(生鮮食品を除く0.53%)なのだ。直近の10年では総合で0.19%、食品・エネルギーを除けば-0.21%とマイナスである。日本経済の物価はゼロ%前後が相応しく、それが物価安定なのだが、日銀は2%に引き上げなければならないという。2%に上昇することで、国民生活が良くなるのだろうか。ゼロ近くに物価が安定していることが、国民の生活の安定に繋がるはずだ。
日銀の物価2%目標は実体経済を無視する乱暴な議論なのだ。日銀が目標にし、金融政策を駆使したところで、経済はそのようなことで動くものではない。そのように無理強いすればするほど、金融経済が膨れるだけで、経済のバランスが崩れる。金融は黒子に徹すべきだ。
為替相場も金融でできることは高が知れている。1ドル=120円の円安になったが、消費者物価の前年比伸び率がピークアウトしたことから、物価上昇による円安ドル高も頭打ちになる。商品市況の急落や需要低迷により、消費者物価指数は低下していき、消費税率引上げが剥落する来年4月の前年比伸び率はマイナスになるだろう。その前から円高ドル安への動きが顕著になると思う。