経済不安が増すなかでの利上げ

投稿者 曽我純, 12月20日 午後3:38, 2015年

先週、FRBは2008年12月以降続けていたゼロ金利を17日から0.25%引き上げることを決めた。ウォール街に伺いを立てながらやっと利上げに踏み切った。たったの0.25%の引き上げになぜこうも手間取るのだろうか。手間取ったために、商品バブルを招き、今はその崩壊に直面することになった。セントラルバンカーはあまりにも現実離れしているとしか言いようがない人たちだ。世間では金融のプロとみられているが、実際はまったく経済認識の甘い人なのである。FRBに輪をかけてひどいのは日本のセントラルバンカーであり、4月以降、上場投信をいままでの購入規模に3,000億円追加するという。日銀は政府のロボットに体たらくしてしまった。経済の常識を常識として素直に受け入れられない観点から判断すれば、このような人をセントラルバンカーに据える制度は破綻しているといえる。金融村は原子力村に匹敵する日本のがん細胞のひとつである。金融緩和という念仏を唱えながら、日本経済を蝕んでいくのである。

米国の名目GDPは2009年、前年比-2.0%と1949年以来60年ぶりのマイナスになったが、その翌年以降はプラスに転じ、最低でも3.1%(2013年)拡大しており、実質でも2010年以降はプラスである。このように米国経済は成長していながら、政策金利を7年間もゼロに据え置き、巨額の国債等も購入した。

実体経済が拡大しているにもかかわらず、ゼロ金利を続けることは、「もの」よりも「マネー」が相対的に安くなり、金融経済が実体経済よりも活発になる。資金の卸売業者である金融機関はサブプライムローン等で破綻あるいは破綻の瀬戸際まで追い込まれたが、ゼロ金利政策により瞬く間に復活した。米株式は過去最高値を更新、商品相場も舞い上がった。「もの」よりも「マネー」のコストが安くなったことが、株式や商品といった架空・虚業の分野を勢い図かせたのだ。

7年間もの長期間ゼロ金利を維持したことのFRBの責任は重大である。米国だけでなく世界経済にも、ゼロ金利、ドル安を通して資金の流れを変えたからである。ドル安であればドルを調達しやすく、安易にドルを借り入れることになる。世界的に安価なドルの借り入れは巨額になり、ドル借りのリスクは高まっていた。

利上げの下地を作っていたとはいえ、ドル安からドル高への基調の変化に加えて、そのことと同時に起こった商品相場の崩落に見舞われた新興国(資源国)は、ドル高と商品バブル崩壊という二重の苦しみに襲われることになった。ドル安・資源高とドル高・資源安は予想できることであり、FRBがゼロ金利政策を2年、3年で終えていれば、ここまで深刻なドル高・資源安にはならなかっただろう。 

FRBが利上げの声明を出した16日、FRBは11月の米鉱工業生産指数を発表した。それによると、11月の生産指数は前月比0.6%減と3ヵ月連続のマイナスである。前年比でも1.2%減少し、2009年12月以来約6年ぶりの前年割れだ。鉱工業生産が前年割れになった近くに景気のピークがあることが経験からわかっている。設備稼働率も今年1月をピークに低下しており、米国経済の足取りは明らかに怪しくなっている。

資源価格の急落は資源国だけでなく米国経済にも悪影響しているのである。特に、シェールオイル・ガス関係は深刻であり、鉱工業生産によれば、オイル・ガス掘削は前年比-59.0%と急低下している。エネルギー全体(鉱工業生産のウエイト27.5%)でも前年比7.2%減だ。こうしたエネルギーの不振が他産業にも波及しており、非エネルギー(ウエイト72.5%)も前年比0.8%にとどまっている。

 原油安による米エネルギー産業の悪化は非エネルギー部門の低迷を招き、さらには非製造業にも悪影響を及ぼしつつある。皮肉にも、FRBが利上げに踏み切ったときの米国経済は、後退に陥るかもしれないリスクに直面していたのである。

 FRBの経済予測によれば、2016年の実質GDPは2.3%~2.5%伸びると予想している。今年の2.1%予想とそれほどの違いはない。だが、物価は今年の0.4%から来年は1.2%~1.7%へと1ポイント前後高くなるという。FRBも物価2%という目標を設けているため高目の予測を打ち出しているのだと思う。だが、商品相場が暴落している状況下、しかも期待経済成長率が低下しているなかで、物価だけが、大幅に上昇することはありえない。あまりにも物価の見通しはずれている。

2010年の実質2.5%成長が金融危機後の最高の伸びである。米国経済が低成長になっている理由のひとつは政府支出が2011年以降、4年連続のマイナスになっている点を挙げることができる。金融緩和を長期間続けているが、財政政策は2010年から引き締めに転じてしまった。金融緩和・財政引き締めというちぐはぐな経済政策を採ったため、米国経済は足取りの重い状態から抜け出せないでいる。抜け出せないどころか、減速から下降に向かうかもしれない不安定な状態下にあるといえる。

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