米GDPに目もくれない市場

投稿者 曽我純, 7月29日 午後4:58, 2012年

NYダウは5月第1週以来の1万3千ドル台乗せだ。バブル崩壊後の戻り高値まであとわずかである。4-6月期の実質GDPが前期比0.4%と2四半期連続で低下しても、ユーロ圏の金融不安を和らげるような発言が飛び出せば、実体経済の低迷など目もくれず、とりあえずその場の雰囲気を大事にし、市場参加者の考えを忖度した行動を取るのである。その時々、参加者が市場をどのように予想しているかが最大の関心事であるから、今週の市場の雰囲気はまたがらりと変わるかもしれない。

予想のさらにその先の予想をしているとはいえ、株式が実体経済から離れていけば、当てにならない予想など見向きもされなくなり、一方方向に株式が激しくぶれることは、歴史が証明している。ドラギECB総裁は株式取引の決めてになる信用にどれほどの力を与えることになるだろうか。

雇用の改善が遅々として進まず、個人消費支出が低い伸びにとどまっている状態では、米国経済は決して高い成長を実現することはできない。2010年の実質GDPは2.4%と3年ぶりのプラスになったが、2011年の伸び率は1.8%に低下し、今年の4-6月期は年率1.5%と昨年の成長率を下回ってしまった。6月、FRBは今年10-12月期の実質経済成長率を前年比1.9%~2.4%へと下方修正したが、その下限でさえも不確かになってきた。

4-6月期の個人消費支出は耐久財のマイナスで年率1.5%と2四半期連続で低下したほか民間設備投資も5.3%と昨年第3四半期の19.0%から3四半期連続で一桁台に鈍化した。しかも、在庫の寄与度が0.32%と高く、これを除けば実質成長率は前期比0.3%ときわめて低い伸びとなり、米国経済の現状は停滞しているといった表現がぴったりしている。

2010年の実質GDPが2.4%に回復したとはいえ、在庫の寄与度が1.52%あり、これを除けば0.88%にすぎない。同様の操作をした2011年は1.94%成長となり、前年に比べれば高くなったが、それでも2%に満たない。こうした低成長によって、実質GDPがバブル前の最高(2007年第4四半期)をはじめて超えたのは昨年第4四半期であり、今年4-6月期の実質GDP(13.55兆ドル)でさえもバブル前の最高を1.7%しか上回っていないのだ。こうした米国経済の伸び悩みを目の当たりにすれば、米株式の上昇はあきらかに行き過ぎである。

 先週、スペイン国債の利回り急騰、それに伴うユーロ安に危機感を強めたドラギECB総裁は「ECBはユーロを守るためにあらゆる手段を講じる用意がある」(26日)と発言し、株式は一斉に上昇した。だが、米国をはじめ欧州の経済が不振では、株式の反発は一時的で長続きはしない。米国の低成長、イギリスの4-6月期GDPは前期比-0.7%と3四半期連続減の景気後退、来月14日発表の4-6月期のユーロ圏GDPもマイナスになるだろう。

ドラギ総裁は「私を信じてほしい」というが、政策金利の引き下げや国債買取などで経済を浮上させることができるのだろうか。1回の利下げで0.75%をゼロまで下げても、金融部門を利するだけとなるのは、これまでの日本や米国を見ればあきらかである。国債の買取も単なる移転に過ぎず、ましてや暴落している国の国債買取であれば金融機関の救済にとどまる。だが、ECBの国債買取は金融機関の損失を確定することができるだけであり、それでバランスシートを健全にすることはできない。金融政策の出動をいくらちらつかせても、財政の引き締めでは、ユーロ経済は回復しない。

4-6月期の米名目GDPは前年比3.9%、GDP物価指数は前年比1.7%上昇したが、米10年債利回りは週末、1.55%である。利回りが成長率を大幅に下回り、実質利回りがマイナスになっているが、FRBは第3弾の国債買取などを実行する用意があるようだ。そうしたFRBの行動を株式や債券関係者は期待し待ち望んでいる。

1930年代の大恐慌のときでさえ経験しなかった超低利回り現象は、米国経済の内部に不良債権という残滓が溜まっていることを表している。いくら金融政策を弄くっても滓はなくならない。FRBの行動は、単に金融部門から中央銀行へ国債等の移動を起こすだけであり、実体経済になにの効果も及ぼすことはない。実体経済をあたかも引き上げるかのような期待を持たせたFRBの罪は重い。FRBは金融関係者と危うい関係を築き上げてしまった。

 

日本経済も弱い方向に進んでいる。商業販売動向によると、6月の小売業売上高は前年比0.3%と3月の10.3%をピークに大幅に低下してきた。自動車販売を除けばどの分野も良くないからだ。小売業の伸び率鈍化に連れて、消費者物価指数(生鮮食品を除く)も前年比-0.2%と2ヵ月連続のマイナスである。

6月の輸出(季節調整値)は前月比-1.4%と3ヵ月連続のマイナスとなり、輸入は6.5%も前月を下回り、昨年5月以来の低い水準に落ち込んだ。輸出の前月比減は日本の製造業の生産も同じような傾向を辿っているということである。5月の鉱工業生産指数は前月比3.4%減少したが、6月は2.7%増加すると予測されている。30日に「鉱工業生産」は公表されるが、おそらくこのような高い伸びにはならないはずだ。

前年比でも輸出は2.3%減少したが、対米の伸びの低下と対欧州のマイナス幅拡大などによる。特に欧州への輸出は前年比21.3%減と09年10月以来32ヵ月ぶりの大幅なマイナスとなり、ユーロ経済がさらに悪化していることを窺わせる。対アジアも-4.3%と2ヵ月ぶりのマイナス、特に対中国は-7.4%となり、中国経済も弱含みであることは間違いない。

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