米株高と高関税の行方

投稿者 曽我純, 9月24日 午前8:22, 2018年

米株式は過去最高値を更新した。米株高に日本株も連れ高し、日経平均株価は2週間で1,500円強値上がりした。米10年債利回りは3.0%を超えているが、NYダウは過去2週間で3.2%上昇し、株高債券安となっている。10年前のリーマン・ブラザーズの破綻など歯牙にもかけないといったところか。株式関係者は過去を顧みるようなことはしない。常に、これから先に起こること、しかも株式にプラスに作用することだけに注目し、株式に不都合なことは考えないのである。株式関係者は超楽観主義者の集団だといえる。
FRBの『Financial Accounts of the United States』によれば、今年6月末の米株式価額は前年比11.9%増の48.41兆ドル(1ドル=112円で5,421兆円)と巨額である。現時点ではさらに増加しており、50兆ドルを超えている。2015年末比では31.9%も拡大しているのだ。米株式はとんでもない規模に膨れているが、それでも市場関係者の強欲さは衰えることなく、なお物足りない、もっと増価すべきだというのである。
どこまで舞い上がればもう十分だというのだろうか。落ちることによってのみ異常な高値だったのかがわかるのだろう。みんな株式という宇宙船の乗っているのだから、いくら舞い上がったところで怖くはない、とみなで赤信号を渡るような心理状態なのか。
それでも株式を実体経済との関係でみれば、高所恐怖症でなくても、なにかぞくっとする感じが湧いてきはしないか。今年4-6月期の米名目GDPは20.41兆ドルである。株式価額は48.41兆ドルだから、株式は名目GDPの2.37倍の規模であり、しかもこの比率は過去最高なのである。株式は実体経済を反映したものであるはずだが、すでに長期間、株式は実体経済をはるかに上回る速度で成長してきた。だから、名目GDPの規模をはるかに超え、大幅に乖離してしまった。これがバブルではないというのであれば、なにがバブルなのだろうか。
米株式価額48.41兆ドルを所有者別にみると、最大の保有者は家計等の18.1兆ドルである。生命保険、年金、投資信託等の間接保有分(17兆ドル)を加えると、7割強は家計等に帰属する。これだけの株式を家計等が保有していながら、資産効果はほとんどあらわれていない。家計等の直接保有分だけでも2015年末比、4.7兆ドルも増価しているが、個人消費支出にはその影響を認めることはできない。
家計保有比率は高いが、全米の家計が隈なく保有しているのではなく、ほんの一握りの富裕者に集中しているため、資産効果がさっぱりでてこないのである。富裕者の消費は株式の増加などには影響を受けないからだ。巨万の富を築いている富裕者にとってみれば消費は満たされており、株式が増えたからといって、さらなる支出拡大などしないのである。
先週の17日、トランプ大統領は対中高関税の第3弾を発表した。24日から輸入2,000億ドル分に年内10%、来年からは25%の関税を上乗せする。こうした保護貿易でさえ株式は好感するのだ。株式は市場に委ねられており、保護主義とは相容れないはずだが、第3弾の制裁は米国や世界経済に影響がないというのだろうか。不思議でならない。
来年には2,500億ドルの中国からの輸入が、同じものを輸入するとすれば、3,125億ドルへと625億ドル高くなるのだ。個人消費支出に比べれば僅かだが、大半は家計の負担になる。家計負担は増すけれども、中国からの輸入が減少するかは疑問だ。おそらく中国からの輸入に大きな変化はないだろう。米国ではもはや中国で生産しているようなものは作れないからだ。結局、関税引き上げはマイナス効果だけで、狙っている赤字削減というプラス効果はほとんどあらわれないのではないか。対中貿易赤字を削減するために導入した高関税は、赤字の減少ではなく拡大に繋がるかもしれない。
人件費の安さと巨大市場を目当てに猫も杓子も中国に雪崩を打って進出した無節操さを、米国をはじめ日欧はどう考えているのであろうか。資本主義の掟に従ったまでだ、と嘯くのだろうか。いずれにしても、資本主義の「浅ましさ」が露呈した現象であることは間違いない。時代が変わってもこの資本主義の「浅ましさ」だけはかわらないのである。
中国に進出した米系企業が作ったものを米国に輸出する。自らの判断で中国に進出し、製造した製品を米国に輸出する。それによって対中貿易赤字が増える。米国での生産を打ち切り、中国に移管したのだから、いまさら米国で作ろうにも作れない。中国から輸入せざるを得ない仕組みを構築したのは、ほかならぬ米国なのだ。赤字が気に食わないのであれば、即刻、米国から進出した企業は撤収し、米国に戻ればよい。トランプ大統領のご裁断を仰ぐ。
高関税ではなにも解決しないのだ。米国経済の矛盾が噴き出すだけである。トランプ大統領の気まぐれな性分が世界経済や政治を振り舞わしているが、彼が大統領である限り、何が起こるかわからない超不確実な世界が続くのである。
そういうトランプ大統領の掌のうちにある安部首相もなにを突きつけられるかわからない。トランプ大統領の一言で、日本は右往左往することになるかもしれない。安倍首相のうわべだけの政治に加えてトランプ大統領の一撃のリスクもある。今こそ、日本の立場を主張できる粘り強い交渉能力を備えた優れたトップが必要なのだと思う。そのような首相が選出されなければ、日本はますます米国の従属国のような扱いを受けることになる。

Author(s)