日産自動車や神戸製鋼所と次々にでてくる杜撰な経営実態、それでも日経平均株価は14営業日連続の値上がりだ。56年9ヵ月ぶりの歴史的な連騰だという。株式参加者はこのような企業の不祥事などより衆議院選で自公体制が強化され、しかも自公補完勢力が加わり、憲法改正や企業寄りの政治が強まることに関心が向いているのだ。米株式が引き続き最高値を更新していることも追い風になっている。
米国では企業減税への期待が高まっているが、そのような政策を推し進めれば、米国の所得・資産格差はますます拡大するだろう。そうなれば、消費は伸び悩み低成長を余儀なくされることになる。そのようなトランプ政策を評価する株式市場は、博打場としての機能しか果たしていないように思う。
イエレンFRB議長は物価が上昇しないのは「驚きだ」といっているが、少しも驚くことではない。4-6月期の名目GDPは前年比3.8%増加しているが、可処分所得は2.8%しか伸びておらず、これでは米国経済の原動力である消費が拡大しないからだ。2016年の名目GDP(前年比2.8%)と可処分所得(同2.6%)を比較しても後者の伸びが低い。可処分所得の伸びが低いから消費が弱く、したがって物価も弱含みなのである。
8月のPCE物価指数(食品・エネルギーを除く)は前年比1.3%と年初の1.9%から0.6ポイントも低下しており、FRBの予想レンジを下回っている。物価上昇率が低下しているときに、金利を引き上げれば、物価はますますゼロに近づいていくだろう。
米株式が過去最高値を更新しているのは、政策金利が依然1.0%と歴史的低水準に据え置かれているからだ。つまり、金融政策が株高を促しているのである。4-6月期の名目GDPが前年比3.8%伸びていながら、政策金利は1.0%、10年債利回りは2.37%といずれも名目GDPの伸びを下回っている。株式は実体経済を反映するはずだから、資金調達コストが実体経済以下であれば、借入を増やし、株式を購入する行動にでるだろう。長期間、政策金利などが実体経済の伸びを下回る状態が続けば、株式に資金は流入し続け、バブルへと突き進んでいくことになる。
FRBが政策金利を7年ほどゼロ、その後もゼロ近辺に据え置いていることの責任は重い。金融政策の目標のひとつに物価の安定を掲げているけれども、米国をはじめ先進国は物価の高騰ではなく、物価低迷あるいはデフレが問題になっている。
物価は2度の石油危機をピークに低下傾向にあり、米国でも過去20年ほど3.0%未満(食品・エネルギーを除く消費者物価指数)に抑えられており、日本などは過去20年以上1.0%以下(消費税率引き上げ後の上昇を除く)であった。金融政策の目標にインフレを入れる必要はなくなってきているのだ。それを金科玉条のように掲げることは時代遅れもはなはだしい。むしろ、経済の拡大に伴って実体経済を上回る速度で拡大し続ける資産の存在が、経済の攪乱要因になっているのだ。
現在では、不動産や株式といった資産価格の激しい変動が、実体経済に悪影響を及ぼすことを抑制するのが金融政策の重要な役割なのである。過去に何度も資産価格の暴騰暴落で痛い目に遭っていながら、再び、超金融緩和策で株式バブルを膨らましてきた。まったく経済問題ではない物価を問題にし、本来の問題である株式はまったく問題にしない、という中央銀行のとんちんかんな政策が、実体経済の混乱を引き起こしている。不可抗力であればあきらめもつくが、中央銀行が古い観念に囚われ、自らバブルの演出を繰り返すのでは、残念というより情けない。
今年6月末の米株式価額・名目GDP比率は2.19倍と過去最高を更新した。ITバブルの2000年3月末にはじめて2倍を超えピークを付けた。2000年3月末までの10年間で名目GDPの増加は1.7倍だったが、株式価額は5.6倍にも拡大したからだ。2008年の金融危機後は一時1倍を下回ったが、超金融緩和によって、2014年6月末には過去最高を更新し、トランプ大統領の登場によって、米株式価額・名目GDP比率はさらに高くなり、実体経済を反映しているとはとてもいえない水準に株式価額は拡大してきたといえる。だが、このように、実体経済と金融経済が激しく乖離した状態がいつまでも続くことはない。株式価額・名目GDP比率が1倍程度まで低下することは十分考えられる。
消費者物価の伸びが低下していながら、金利が引き上げられれば、デフレ懸念が浮上してくる。デフレになれば実物資産は減価するので、株式の魅力はなくなる。今のような消費者物価の上昇率(前年比1%台)は理想的な物価環境なのだ。このような理想的な物価環境で利上げを実施すれば、株式バブルは維持できなくなるだろう。
米株をバブルと気づき、本格的な調整に陥ることになれば、同時に、日本株も激しい売りを浴びることになろう。とても、公的資金や日銀で支えられるものではないことは、過去の事例をみればあきらかである。長期の値上がりで、売り玉は積みあがっており、いったん下落しはじめると、下値の予想はつかなくなる。
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