週間、NYダウは12.4%も急落した。これは2008年10月第2週以来である。米株式が崩れれば、世界の株式を始めとするあらゆる相場が動揺する。米株式が相場の中心に位置しており、世界の相場を牛耳っているからである。米株式価額は49.5兆ドル(昨年9月末)という途轍もない規模であり、たったの1週間で約5兆ドルもが失われてしまった。原油も米株式の最高値更新を拠り所に値を保っていたが、米株の暴落によって、週間で16.1%も下落した。金は上昇していたが、ここまで株式が打撃をうけると、換金売りせざるを得なくなった。米株の値崩れによって、前週比3円50銭もの円高ドル安となった。
株式が急落すると、先物や信用取引に追証が発生し、株式を手放すことを余儀なくされる。また、これほどの値下がりに見舞われれば、損切の売りも相当発生しており、そうした売りで株価の下落が加速され、さらなる追証、損切と悪循環の連鎖が起こっている。
米株式暴落の主因は新型コロナウイルスではなく、米株式が実体経済から掛け離れた高水準に上昇していたからである。そこへ、景況指数の悪化、それをさらに冷やす新型コロナウイルスの拡大が加わった。あくまでも、下落の主因はバブル化していた株式そのものにあるのだ。
米株式価額・名目GDP比率は昨年末2.46倍(予想)へと過去最高を更新したようだ。米金融恐慌の2009年3月末に0.92倍と約14年ぶりに1.0倍を下回ってから、上昇に転じ、2014年6月末には過去最高を更新した。その後も上昇を続け、2016年9月末以降は2.0倍超を持続している。米株式価額・名目GDP比率(4半期ベース)が2.0倍を超えたのは1952年以降で20回に過ぎないが、2000年3月末を除けば、19回は2014年以降である。2014年以降、株式がGDPを上回る速度で上昇したことを裏付けている。
長期の米名目GDPの成長率は明らかに減速しているにもかかわらず、株式は勢いを増しているのだ。実体経済の伸びが鈍化していても企業利益はより拡大しているのだろうか。あるいは分配に大きな変化が現れたことによって、株式に有利な状況が生まれたのだろうか。そのようなことは起こっていない。2019年までの10年間の賃金と利益の伸びは両者共に1.5倍程度であり、分配の変化は見られないのである。
米株式を実体経済から掛け離れた高水準に押し上げたのは、FRBのゼロ金利政策なのだ。実体経済が回復しても長期間ゼロに据え置き、引き上げても2.25%~2.50%という名目成長率を下回る低水準にとどめたことが、債券利回りを引き下げ、株式価値を引き上げたからである。
米国内非金融部門の総金融資産は昨年9月末、123.7兆ドル、名目GDPの5.7倍の規模である。10年前は4.95倍であり、実体経済に比較して金融資産がより豊かになっているかがわかる。これには株式をはじめ預金、生命保険、年金等あらゆる金融資産が含まれており、その時々、適切だと思われる金融商品に資産は配分されている。
経済が成熟するにつれて、実物経済の成長率は低下していき、設備投資も緩やかになる。設備投資資金はそれほど必要ではなくなり、余剰資金は金融資産で運用されるようになる。金利は低く、魅力に欠けるので、資金は株式に雪崩れ込んでくる。債券利回りの低下と余剰資金の拡大によって、米株式は異常に値上がりし、バブル化したのである。
先週は株式が暴落する半面、国債は急騰、週末の10年債利回りは1.15%と週間で31ベイシスポイントも急低下、過去最低を更新した。1930年代の米大恐慌期でもこれほど国債利回りは下がらなかった。30年債でさえ1.67%に低下しており、米国の長期期待成長率は見る影もない。
株式が下落するにつれて、FRBの利下げが現実味を増し、それを裏付けるように、パウエル議長は「景気の下支えに向け、あらゆる手段を活用しながら適切に対応する」(2月28日)との声明を出した。早ければ今週にも0.5%の利下げに踏み切るだろう。トランプ大統領にせかされる前に自主的な行動を示したいはずだ。米株式がこのまま釣瓶落としのようになれば、大統領選に暗雲が漂うことになる。トランプ大統領にとっては、こうした事態を早急に終息させたいのだ。
米株の急落を受け、週間、日本株も10%弱落ち込んだ。米国よりも日本の経済が悪く、特に、消費関連は不振であり、小売業は前年割れが続いている。1月の鉱工業生産出荷指数は96.9(2015年=100)、前月比0.2%と2ヵ月連続のプラスだが、足取りはたどたどしく2月、3月は落ち込むだろう。
1月の有効求人倍率は1.49倍と前月から0.08ポイントも低下し、2017年5月以来2年8ヵ月ぶりの低い水準だ。有効求人数が前月比-3.9%と昨年6月以降8ヵ月連続のマイナスとなり、企業は雇用拡大に慎重になってきていることが窺える。新規求人倍率は2.04倍、前月比0.4ポイントの大幅な低下となった。
住宅着工件数は1月、前年比-10.1%と昨年7月以降7ヵ月連続の前年割れだ。持家や分譲が2桁減となり、季節調整値では81.3万戸と昨年3月のピークから18.6%も落ち込み、年度でみれば2010年度レベルまで後退してしまった。非居住(床面積)も1月、前年比-27.2%も落ち込み、全建築物では17.8%減となった。
安倍首相は、日本経済が変調をきたしていることなど見向きもせず、新型ウイルスの拡散阻止に注力している。安倍首相は2月27日、突如、全国の小中高に3月2日からの休校を要請した。が、新型コロナウイルスの感染力や致死率(湖北省武漢は5.8%だが、湖北省を除く中国国内は0.7%、出所『Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus』2020)はインフルエンザ並みであり、インフルエンザと同様の対応でよいのではないか。
2018年、インフルエンザと肺炎の死亡者数は3,325人、94,661人である。これほどの死者が出ても全国の学校が一斉休校になったことはない。インフルエンザに神経質になると毎日、満員電車で通勤通学することなどできなくなるのではないか。
安倍首相の意図はほかにあるのだ。オリンピックの開催が危ぶまれるといった事態を避けることを優先した措置のように思える。それほど子供たちの安全と健康を心配するのであれば、年20ミリシーベルトもの「放射線管理区域」に当たる福島になぜ居住させるのだろうか。いまだに「原子力緊急事態宣言」下にありながら、オリンピックを開催するという本末転倒の政治が憎い。