米政府支出の3年連続減による景気低迷

投稿者 曽我純, 3月31日 午後1:13, 2014年

米株式は高止まりの状態にあるが、企業収益の伸びは低く、現状水準からの大幅な上昇はないだろう。米GDP統計によると、昨年10-12月期の税引き後利益は前年比6.0%と前期並みにとどまり、2013年でも5.1%増である。この程度の利益の低い伸びで株価が過去最高値の水準にあることは、先行きの利益拡大が期待できると予想しているからだ。だが、足元の米国経済をみるとそのような兆候を窺うことはできない。19日に公表されたFRBの経済見通しも2014年の実質GDPは2.8%~3.0%と昨年12月から上限は下方修正されている。2013年の1.9%よりは高くなると予測しているが、ゲタが1.1%と昨年よりも0.7ポイントも高いため、前期比の伸び率は0.7%で達成できる。

GDPの伸びがそれほど期待できないことは、企業収益の伸びもたいしたことはないということだ。1959年末から2013年末の54年間の名目GDPとNYダウの伸び率を比較してみると、名目GDP(32.3倍)がダウ(24.4倍)よりも伸びているのである。長期をとれば株式が実体経済を上回ることは難しい。統計が利用できる1929年末と2013年末の比較ではさらに名目GDPの伸びが大きくなり、名目GDPの160倍に対してダウは66倍と開く。

株式の変動は大きく基準の取り方で様変わりし、実体経済との比較も容易ではない。が、株価が実体経済から離れてしまえば、おかしな動きをしているのだと警戒すべきなのだ。著しく離れてしまえば、バブルということであり、早晩、株式は崩落することになる。

 利益の低い伸びにもかかわらず、米株価が過去最高値近辺にあるもうひとつの理由はFRBの金融政策である。資産買入を今秋には終了させ、来春にはゼロ金利に終止符を打つとイエレン議長は言うが、米株式はそれほど気にも留めない。3月26日時点のFRBの総資産は4.22兆ドルと過去最大だ。1年前に比べれば1兆ドル超増加している。資産買入を終えてもFRBの総資産は高水準を維持するだろう。今の実体経済を無視したゼロ金利は引き上げられるが、消費者物価の安定などから1%や2%の低金利が長期間続くだろう。それでも利上げは金融部門に打撃を与えることになる。だが、ゼロ金利によって過去最高の利益を生み出している金融部門を利上げで正常な姿に戻す必要がある。金融部門に偏った米経済構造を変えなければ、個人消費という米国経済の主力エンジンはなかなか調子よく動かないからだ。

 2013年の米名目GDPは前年比3.4%と前年を1.2ポイント下回った。伸び率低下の最大の要因は個人消費支出の低迷、特に、サービス不振の影響が大きい。さらに消費の伸び悩みによって民間設備投資の寄与度も低く、2010年をピークとする政府支出減も響いた。

個人消費支出が弱いのは、税が前年比10.7%も増加し、可処分所得が1.9%とGDPよりも1.5ポイントも低くなったからである。2012年の可処分所得はGDPより低いとはいえ3.9%増であった。それが2013年には2ポイントも低下したのである、これでは個人消費支出は伸びるはずがない。

政府支出は2010年までは伸びたが、伸び率は前年比2.8%増に低下した。金融危機の2008年は7.2%拡大したが、その後は尻すぼみとなり、2011年は前年割れとなった。金融危機の最中である2009年の政府支出は2.9%と前年から4.3ポイントも低下した。経済の悪化で税収が落ち込み、政府支出の拡大に踏み切れなかった。2009年の財政赤字は1.4兆ドルと前年よりも1兆ドル超も増加し、2012年まで赤字は1兆ドルを超えた。2009年の赤字は歳出の4割に達し、2012年は3割、2013年は2割に低下している。

 実体経済が復調していないにもかかわらず、政府支出を削減したことが、米国経済の立ち直りを遅くしている要因なのである。市場経済だけに委ねていれば、米国経済の成長はいつまでも低い状態から抜け出すことは難しい。政府は金融政策に過度に期待したが、ゼロ金利や債券購入では個人消費支出を回復させることができず、経済成長率を引き上げることはできなかった。

名目経済成長率が1949年以来60年ぶりのマイナスになるという金融危機から脱することはできたけれども、2009年以降の財政の緊縮が米国経済をいまだに回復とは言えない不安定な状態にとどめている。2月の失業率は6.7%、個人消費支出と可処分所得はいずれも前年比3.0%、消費者物価上昇率は前年比1.1%、資本財(航空・国防を除く)受注は前年比2.4%といった具合に米国経済は決して強くはない。今後、金融政策は徐々に経済にマイナスに作用するだろう。成長基盤が整っていない状況下で、金融引き締めは成長率を低下させるが、これを食い止めることができるのは政府支出しかない。資本主義経済といいながら結局、政府が需要を作り出さなければ、経済成長力を回復することは難しいのである。2008年の米金融危機後の経済の足取りをながめることから改めて政府の役割の重要性が浮き彫りになった。

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