米国経済急変の衝撃

投稿者 曽我純, 4月6日 午前9:04, 2020年

3月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比70.1万人減少した。これは2009年3月以来11年ぶり減少幅である。普通、これほど急激に雇用が悪化することはなく、2008年の金融崩壊のときでも、最初の減少数は同3月の7.9万人であり、70万人を超えたのは8ヵ月後の11月であった。しかも、前月比増加数が縮小しながらマイナスに転じており、今回のように、2月の27.5万人増から70.1万人減へと100万人近く変動するようなことは経験したことがない。新型コロナウイルスによって、人の流れが途絶えたことが、雇用の即座の解雇を引き起こした。

民間部門の雇用者数は前月比71.3万人減だが、生産部門の5.4万人減に対して、サービス部門は65.9万人減と非製造業の雇用減が深刻である。なかでも観光・接客業が45.9万人減とサービス部門の悪化の7割を占めている。その他、派遣などの一時雇いや小売業も4.9万人、4.6万人それぞれ減少した。

失業率も2月の3.5%から3月は4.4%へと0.9ポイントも悪化した。なかでもアジア系とヒスパニック系は4.1%、6.0%といずれも前月比1.6ポイント上昇した。雇用は前月比298万人減少し、それらは失業者の135万人の増加と労働力人口の163万人減となってあらわれている。雇用の298万人減のうちフルタイムは181万人減、パートタイムは117万人減である。

米国では感染者数が爆発的に増加しており、4月の雇用統計はより悲惨な内容になるだろう。サービス部門の急激な解雇が消費支出を悪化させ、製造業部門にも波及し、米国経済は深刻な景気後退に陥りつつある。これまでに経験したことがない米国経済の落ち込みは世界経済を収縮させることは間違いない。また、新型コロナウイルスは欧州でも猛威を振るっており、経済は麻痺状態にある。特に、米国との経済関係が強い日本は米国の景気後退をもろに受けるだろう。

日本の対米輸出と日本のGDPを比較してみると両者には密接な関係を認めることができる。2008年の米金融崩壊のとき対米輸出は2007年の16.8兆円から2009年には8.7兆円まで大幅に減少し、同期間の日本の実質GDPは1.7%から-5.4%へ急降下した。2009年を底に対米輸出は回復し、2012年から2015年までは4年連続で前年を上回り、それによって日本経済は拡大していったのである。安倍政権の経済政策ではなく、対米輸出の拡大が景気を回復させたのである。

雇用統計によれば、今回の米国経済の後退は2008年以上に深刻になっていることから、2020年の対米輸出も2019年の半分近くまで減少するかもしれない。2019年の対米輸出額は15.2兆円、そのうち主力の輸送用機器は5.6兆円と全体の約三分の一である。2007年の対米輸送機器輸出は6.8兆円だったが、2009年には3.0兆円と半分以下となった。もし今回も自動車などが2009年並みの輸出不振に陥れば、外需依存度が高い経済構造のため、日本の景気後退は米国以上に深刻なものになるだろう。

今年2月の対米輸送機器輸出は前年比7.9%減だが、すでに昨年8月以降7ヵ月連続の前年割れだ。こうした対米自動車輸出の低迷が日本経済に悪影響を与えていたところへ、いきなり新型コロナウイルスの災難が襲いかかってきた。

日本の失業率は2月、2.4%と1月と同じであったが、有効求人倍率は1.45倍と昨年4月の1.63倍をピークに低下しつつある。正規雇用者は前年比44万人増、非正規は2万人増と正規が非正規雇用を上回っており、非正規雇用を抑制しているようにも思える。製造業の雇用が前年比15万人減少したほか運輸・郵便、宿泊・飲食サービスの雇用も減少している。

3月の『短観』が公表されたが、全規模製造業の業況判断は昨年12月のマイナス4から今年3月はマイナス12へと8ポイント悪化した。他方、今年3月の非製造業は1とプラスだが、10ポイント下がり、6月にはマイナス14に悪化する見通しである。非製造業で3月がマイナスの業種は小売、卸売、運輸・郵便などだが、特に、宿泊・飲食サービスはマイナス59に落ち込んだ。宿泊・飲食サービスは、昨年も6月を除けばマイナスであったが、昨年12月はまだマイナス8であり、新型コロナウイルスによって一気に51ポイントも悪くなった。製造業では鉄鋼、非鉄、金属など素材産業の業況悪化が目立つ。

生産・営業用設備の製造業の「過剰―不足」は3月、プラス3と2期連続と過剰超だが、非製造業はマイナス4と不足超である。だが、宿泊・飲食サービスはプラス6と昨年12月のマイナス6から過剰超に転じた。雇用人員の「過剰―不足」についても非製造業は昨年12月のマイナス40から3月にはマイナス37へと3ポイントの変化にとどまっているが、宿泊・飲食サービスはマイナス67からマイナス32へと大幅にマイナス幅は縮小している。

製造業の資金繰りの「楽であるー苦しい」は昨年12月のプラス13から3月プラス11、非製造業は18から15と依然「楽である」が上回っているが、宿泊・飲食サービスだけがマイナス28と「苦しい」が超過している。製造業でマイナスは繊維(マイナス6)だけである。

降って湧いたウイルス禍に翻弄させられているが、「ウイルスがいなければ、我々はヒトになっていない。……我々は親から子へと遺伝子を受け継ぐだけでなく、感染したウイルスからも遺伝子を受け継いでいるのだ。……我々はすでにウイルスと一体化しており、ウイルスがいなければ、我々はヒトではない」(中屋敷均、ウイルスは生きている、講談社現代新書、2016、p.5)のである。

 

  • 1ヵ月ほどレポート休みます。
PDFファイル
200406).pdf (396 KB)

曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数