米国経済不安による円高ドル安

投稿者 曽我純, 3月25日 午後9:11, 2018年

2016年11月以来1年4ヵ月ぶりの円高ドル安により、日経平均株価は前週比1,000円超下落した。今年1月23日の高値から14.5%も値下がりし、NYダウの下落率よりも大きい。今年1月頃までは円高ドル安傾向だったにもかかわらず株価は上昇していたが、過去2ヵ月の急速な円高には抗しがたく、調整は本格化してきた。3月第2週も外人は日本株を売り越し、これで10週連続である。

好調とみられていた欧州経済が3月の指標によれば、いずれの景況感も大幅に悪化し、欧州経済の雲行きが怪しくなってきた。2月の日本の輸出(数量)は前年比-2.1%と昨年1月以来1年1ヵ月ぶりのマイナスである。前年に比べて3.7%円高ドル安になったため金額でも1.8%と大幅に鈍化した。3月の円ドル相場はさらに円高に振れているため、金額でも輸出は前年割れとなるだろう。

世界経済の拡大による輸出増で利益を稼いできた日本企業にとって、世界経済の低迷は致命的となる。貿易摩擦や足元景況悪化の欧州経済の動向などから円高に進みやすい地合いにあることも収益不安を一層掻き立てる。今、日本企業は世界経済と為替という2重の不安要因を抱えている。

米主要閣僚の相次ぐ更迭、鉄鋼・アルミ製品への関税措置発動、対中関税に署名するなどトランプ大統領は政治と経済を掻き回している。世界の貿易によって各国の経済は成り立っているが、関税を課すことによって、いままでのモノやサービスの流れが損なわれ、経済はうまくいかなくなる。道路が少しのことで渋滞するのと同じように、世界的なモノの流れが悪くなり、さらに生産の中断、消費の減少等が世界的規模で起こるのではないだろうか。

米国の関税措置は米国経済にも悪影響すると予想されることから、米株も大幅に値下がりし、すでに今年1月の最高値からNYダウは11.6%落ち込んだ。米株の下落は世界規模で波及しているが、その影響をもっとも受けているのが日本株なのである。

トランプ大統領は600億ドル規模の中国製品に関税を課す覚書に署名したが、中国も対抗措置を準備していると通告している。互いに輸入に制限を加える貿易戦争になりかねない。米国経済は中国からの輸入に大いに依存しているため、米国はラストベルトを救済するよりもはるかに大きな損失を被ることになる。

米国の関税措置が米国自身に跳ね返り、米国経済を悪化させることになる。そうした懸念が高まっているからこそ、ドルは売られ、円は買われているのだ。予想通りとはいえFRBは政策金利を引き上げ、さらに来年には3%前後までの上昇シナリオを描いている。こうした先行きの金利上昇は円安ドル高要因だが、円ドル相場は米金融政策にまったく反応しない。円ドル相場への影響力は米国の政治経済が圧倒的に強力である。米国経済の不安は直ちに円高ドル安となってあらわれる。

円高ドル安は日本株の売りに結びつき、日本株の下落に拍車を掛ける。貿易問題が拡大することになれば、米国経済の悪化観測から円高ドル安は加速し、それにつれて日本株は値を崩していくだろう。1ドル=100円の壁は厚くはない。

中国の対抗措置が貿易だけでなく、米国債売却にまで言及されることになれば、米国債価格は急落、利回りは急騰という事態になり、世界的に株価は急落することになるだろう。トランプ大統領が強硬な貿易政策を取り続けることになれば、米国債の最大の保有者である中国は米国債売却のカードをちらつかせるのではないだろうか。

2017年の米国のモノの輸出は1.55兆ドル、輸入は2.36兆ドルであり、モノの貿易赤字額は8,112億ドルであった。そのうち対中輸出は1,303億ドル、輸入は5,055億ドル、差し引き赤字額は3,752億ドルであり、対中赤字が米貿易赤字の46.3%を占めている。因みに、米国の対日赤字額(モノ)は昨年、688億ドルであり、5年前と比べると9.9%減少しているが、対中赤字額は5年で19.1%増加しており、総赤字額の9.4%を上回る拡大を示している。

2017年、米国の中国からのモノの輸入額は5,055億ドルだが、最大の品目はスマホ等の703億ドル、以下、コンピューター455億ドル、通信機器334億ドル、コンピューター付属品316億ドル、玩具類267億ドル、アパレル241億ドルと続いている。スマホ等からコンピューター付属品までを加えると中国からの総輸入額の35.8%を占める。米国産業の中枢といえる製品の多くは中国で製造されており、もし本気で貿易戦争を始めることになれば、米主要企業のダメージは計り知れない。

世界経済は貿易で密接に結びついている。世界の輸出に占める中国の比率は13.2%(2016年)でトップ、2位は米国9.1%。輸入のトップは米国13.9%であり、2位は中国9.8%と輸出の順位と入れ替わっている。世界経済1位、2位の巨大国が貿易でも世界の20%超を占めており、それだけに、米中の貿易戦争の勃発は世界経済の波乱要因になる。

PDFファイル
180326).pdf (392.78 KB)
Author(s)