NYダウは昨年9月の安値から20%も上昇したが、米10年債利回りは2%を下回ったままである。昨年10-12月期のGDPはやや上方修正され、名目前年比3.8%伸びた。経済は3.8%成長しているが、長期期待収益率は2%と低い。実際には3.8%の収益が上がっており、資金調達コストが低いので、借入が旺盛となり、金利は上昇していくことになる。が、そうはならず資金調達コストは低い水準に止まっている。FRBが2014年末までゼロ金利を続けると宣言したことで、金利の調整機能は完全に失われてしまったことが、こうした低利回りの異常な状態を作り出しているのである。マネタリストのバーナンキFRB議長は市場主義者だが、彼のしていることは市場主義とは掛け離れている。金融社会主義者とでも呼称するに相応しい。マネーの供給やコントロールだけで経済がすべてうまくゆくと考えているが、それほど単純であればとっくの昔に経済は正常な姿になっているはずである。マネーの流れや需要に問題があるからいくらマネーを操作しようとしても、操作できないのだ。米国はマネー経済だけが膨らむという金融危機の教訓を教訓ともしない歪な経済へと進んでいる。
米国の実体経済で好調な部門は自動車産業だ。2月の国内新車販売は年率1,510万台と2008年2月以来の高水準である。1月の米鉱工業生産指数は前月比横ばいだったが、自動車・部品は6.8%も伸びている。市場別にみると、消費財は前月比-0.1%と2ヵ月ぶりのマイナスだが、自動車は5.8%、前年比では16.9%と好調である。自動車がこれだけ好調であれば、消費も期待できるのだが、鉱工業生産を見る限り、原油高の影響もあり非耐久消費財が振るわず、生産の側面からは消費財全体ではマイナスになった。
需要の側面からみても米消費が弱いことがわかる。1月の米個人消費支出は前月比0.2%の低い伸びであり、実質では3ヵ月連続の横ばいとまったく回復とはいえない足取りである。好調な耐久財の拡大により財は0.6%伸びたが、個人消費支出の66%を占めるサービスが前月比横ばいと不振なことが消費の足を引っ張っている。サービスは昨年12月まで5ヵ月連続前月比0.2%と低調であり、消費低迷が一時的ではなく長期化していることが米国経済不調の原因なのである。
1月の雇用者報酬は前年比4.6%増加したが、税金が8.8%増加したため、可処分所得は2.0%の増加にとどまる。1月の消費者物価指数は前年比2.9%上昇したため、実質可処分所得はマイナス0.9%だ。これでは個人消費は伸びることはなく、延いては米国経済の回復も望めないことになる。
個人消費支出(6ヵ月比)と株価の関係をみると、はっきりとした相関関係を読み取ることができる。個人消費支出は昨年3月の3.1%をピークに1月は1.4%と2010年2月以来の低い伸びとなった。それでも米株は上昇し続けており、個人消費支出の伸びとは逆相関を示しているが、07年の過去最高を付けたときを彷彿させるような動きである。株価が個人消費支出に反する動きを強めれば強めるほど、反動は大きくなることは過去の事例が証明している。NYダウは一気に1万ドル近辺まで下落することも想定しておくべきではないか。
米個人消費支出がはかばかしくないのは、根底には住宅問題がいまだ道半ばにあるからだ。昨年12月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は前月比0.5%下落し、8ヵ月連続のマイナスになり、03年1月以来約9年ぶりの低水準に戻った。住宅価格は09年、一時底打ちしそうであったが、2010年の半ば頃から再び下落し、バブルのピーク後の最低を更新している。ピークからすでに5年8ヵ月も経過し、その間の下落率は33.9%に達したが、依然底値はみえない。03年以降に住宅を購入した人たちは、時価が購入価格を下回っており、売却すれば損がでる。差し押さえを免れるためにやりくりしている家計の消費抑制行動、多数の差し押さえ物件の売却による需給悪化等住宅問題から発生する経済圧迫は強く、住宅価格が下落しているときには、米経済の本格的な回復は期待できない。