昨年10-12月期の米GDP速報値が27日に公表された。実質GDPは前期比年率2.8%と1-3月期の0.4%を底に3四半期連続で伸び率は高くなった。だが、成長率は予想よりも低く、内容も良くなかった。そのためドルや株式は売られた反面、債券は買われ、10年債の利回りは1.89%に低下した。だが、名目GDPは前年比3.7%伸びており、債券利回りを大幅に上回っている。過去10年間の年平均名目成長率は3.9%であり、長期の期待収益率が概ねこの水準にあると考えれば、いまの資金コストはいかにも割安である。資金調達費は割安だが、これを修正する動きは出てこず、資金調達費が期待収益率以下の異常な状態が長期化している。
米商業銀行の昨年12月の貸出は不動産向けの不振から前年比2.1%と低い。米商業銀行の総資産に占める貸付等の比率は昨年12月、55.5%と同8月を底に上昇しているが、それでも金融危機以前に比べると7ポイント以上低く、また貸付等に占める不動産貸付の比率も50.3%と04年レベルの低下にとどまり、正常化したとはとてもいえない。こうした貸付構造が、期待収益率が資金調達費よりも高いにもかかわらず、資金需要の伸びを阻害している。
2011年の米名目GDPが前年比3.9%も伸びていることなど考慮することなく、FRBはFOMCで2014年後半までゼロ金利を維持する方針を打ち出した。昨年10-12月期のGDP物価指数が前年比2.0%上昇しているため、実質利回りはマイナスである。政策金利は実質2%のマイナス、短期金利もマイナス、そして長期もマイナスという異例の事態であり、この異例の金融政策が経済の攪乱要因になりつつある。
資金需要が伸びない原因を放置したまま、FRBは政策金利だけを長期間ゼロに据え置き、その間に経済を回復させたい考えである。病根を放置した状態で健康を取り戻すことができないことと同じように、ゼロ金利をいくらつづけても、このままでは米国経済は健康体に回復することはない。
ゼロ金利で利益を得るのは金の貸付や運用などに携わる金融機関だけであり、一般家計にはほとんど影響がない。ゼロ金利は実体経済ではなく、マネー経済を刺激し、マネーゲームを煽るだけである。事実、株式は回復し、債券はバブル化し、商品先物も活発である。金の卸売業者は超低コストで金を調達し、株式等の博打場に資金投入しているのだ。これでは、2008年後半に経験した金融破綻を再び繰り返すことになる。FRBは金融恐慌の種を自ら蒔いているのだ。こうしたFRBの金融政策に注文を付ける学者やマスコミがほとんど登場しないことが、米国社会の現状打破を阻んでいる。
消費が伸びないことには米国経済は立ち行かないが、その実質個人消費支出が10-12月期、前期比年率2.0%と実質GDP(2.8%)を下回った。これで3四半期連続して消費がGDPの伸びを下回っており、GDPの約7割を占める消費の勢いは衰えている。個人消費支出の64.3%を占めるサービスが0.2%の微増にとどまり、財の伸び(5.7%)を大幅に下回っていることが不振の背景。財が伸びたとはいえ、自動車に偏っており、全体的に物の需要が増加しているわけではない。消費が伸びないのは、実質可処分所得が前期比0.2%、前年比-0.1%とほぼ横ばいの状態にあるからだ。
もうひとつの民間部門の柱である実質民間設備投資は前期比年率1.7%と前期から大幅に減速した。政府部門は同-4.6%と2010年10-12月期以降5四半期連続のマイナスとなり、純輸出も前期比減となった。結局、成長を支えたのは在庫であり、実質前期比年率2.8%成長のうち1.94%は在庫の寄与であった。これがなければ1%に満たない微増にとどまる。昨年7-9月期まで2四半期連続、在庫は減少していたが、10-12月期は大幅に増加した。消費や設備投資の不振が意図せざる在庫増となってあらわれたのだろう。GDP統計によって、米国経済の足取りの重さが確認された。
米国経済が伸び悩んでいることは、日本の貿易統計からも窺うことができる。昨年12月の対米輸出(数量)は前年比2.3%と4ヵ月ぶりのプラスになったが、10-12月期でみれば前年割れとなり、米国の需要が回復していないことがわかる。
対米輸出よりも対欧州やアジアはさらに深刻であり、12月は前年比13.1%、11.0%それぞれ減少した。対欧州は昨年10月から前年割れとなり、しかもマイナス幅は拡大している。債務危機により財政を絞っていることや、そうした政府の行動が家計にも連鎖しているように思う。ユーロ圏のESI(Economic Sentiment Indicator、sa)は12月、前月比0.9%減と7ヵ月連続のマイナスとなり、OECDの景気先行指数もユーロ圏は前年比5.5%減と大幅に落ち込んでいる。米国の景気先行指数は前年比0.0%と伸び率は縮小しているが、ユーロ圏に比べて悪化の程度は緩やかである。
日本の対アジア輸出の前年割れは昨年3月以降10ヵ月連続であり、しかもマイナス幅は4ヵ月連続の拡大だ。米国経済の消費の伸び悩みや欧州の景気悪化の影響を大きく受けている。輸出品目をみてもほぼすべての分野で減少しており、アジア経済の欧米への依存度が依然高いことがわかる。
昨年12月のアジア輸出(金額)は前年比11.7%減少したが、アジアの約3分の1を占める対中国は16.2%も減少した。特に、機械や自動車などの減少幅が大きく、中国の設備投資や消費の不振が窺える。対中国輸出の前年比伸び率は2010年1月をピークに下降を辿り、昨年4月以降はほぼマイナスだ。昨年12月の減少率は08年後半の金融危機を除けば、アジア危機で落ち込んだ1998年12月以来の大きさである。
不確かな米国経済、景気後退下の欧州、アジアの顕著な減速といずれの地域の経済状態も良くない。世界経済を牽引するところがどこにも見当たらないことが、日本の輸出が12月までの3ヵ月間、前年割れとなった最大の要因である。OECD景気先行指数と日本の輸出の前年比伸び率は前者が幾分先行しながら後者が従うという相関性が認められる。世界経済が良くならなければ、当たり前のことだが、日本の輸出は伸びないのだ。
31年ぶりの貿易赤字をことさら強調する報道が多いが、戦後最大の景気後退を経験し、その痛手が治癒していないのであれば、致し方あるまい。2011年の輸出は減少したが、金額で2.7%にすぎない。輸出の担い手である自動車は10.6%減少したが、それでも536万台も輸出しているのである。一方、2011年の輸入金額は前年比12.0%増加したが、数量では3.1%と小幅であり、8.9%は価格の高騰分である。例えば、原油・粗油は数量では前年比2.1%減だが、金額では21.3%増、電力で約6割消費されている液化天然ガスは数量12.2%増、金額37.5%増という具合だ。液化天然ガスの前年比増加額は約1.3兆円であり、輸入の増加額7.3兆円の17.8%であり、液化天然ガスの影響力は大きいけれども、これが赤字の主因と語るのは間違いである。
ゼロ金利とドル安によって資源価格は高騰しているが、景気悪化を無視していつまでも高値を維持することができないことは過去のデータが証明している。08年後半に急落したような場面が遠からずやってくるだろう。液化天然ガスの価格が2010年と同じと仮定すれば、2011年の輸入額は前年を4,200億円上回るだけだ。たとえ昨年のように液化天然ガスの輸入額が増加しても電力会社の負担増は7,000億円程度だろう。東電の負担はその半分ほどであり、原発の廃炉から除染に関する費用に比べれば物の数ではない。燃料費の高騰が、あたかも東電の資金不足の原因のように報道されているが、問題のすり替えだ。騙されてはならない。