米国の抱える真の経済問題

投稿者 曽我純, 10月13日 午後7:57, 2013年

債務の法定上限引上げが決まらないことへの不安からNYダウは週央、1万5,000ドルを下回ったが、不安が回避されそうなことから反発し、週末値は先月27日以来の高い水準で引けた。それほど米債務上限が問題であるならば、米債が売られてもおかしくないが、不思議なほど米債相場は安定していた。ウォール街やマスコミが騒ぐほどの問題ではなく、債務上限引上げや政府機関の一部閉鎖は、単なる政治的な駆け引きであり、米国経済の本質的な問題ではないからである。政治的な駆け引きであるから、野党共和党もいつまでも強引に押し通すことはない。そのようなことをすれば、国民にそっぽを向かれてしまい、墓穴を掘ることになる。国民皆保険に反対しているとはいえ、債務の上限引上げを認めないという強硬姿勢を貫くことはできないだろう。

またデフォルトなどと仰々しい言葉が紙面を飾っているが、米国がデフォルトすることなどない。米国がデフォルトになるならほとんどの国がデフォルトになる。日本などは真っ先にそうなるはずだ。

米債相場が安定していることは、当たり前のことだが、大きな売りが出なかったからだ。元利金の支払いができなくなるデフォルトの可能性があれば、米債は売られるだろう。だが、売られなかったし、これからもデマのようなデフォルト騒ぎでは売られることはないとみてよい。

米財務省証券の6月末残高は11.8兆ドル、そのうちの半分の5.6兆ドルを外人が保有している。2008年末の3.2兆ドルから大幅に保有額は増加した。5.6兆ドルのうち4.0兆ドルが公的部門、残りの1.59兆ドルが民間部門で保有されており、公的部門が積極的に購入してきたことがわかる。なかでも中国(1.27兆ドル)の保有が最大であり、次が日本(1.13兆ドル)である。

保有額で2位に登場するのはFRB(1.93兆ドル)であり、2008年末は4,759億ドルであったが、資産買取の拡大によって4倍に急増した。外国の公的部門とFRBの持分が多いため値が下がりにくいといえるのだろうか。もし相場が下落してもFRBの買い支えが期待できることなどが、売りの発生を抑えているのだろうか。が、本当にデフォルトが起こりそうになれば、民間部門からの売りが強まり、値下がりしたはずだ。

 デフォルトは起こらないと読んでいるので、米債は値崩れすることなく、安定しているのだ。もし、多額の米債を売却してドルを入手しても、ドル資産として他に運用する術がないので、売却を諦めているのかもしれない。それではドルを他の通貨に換えてドル以外の資産を購入しようとしても、小額ならともかく、巨額の運用ということになると、なかなか適当な資産は見当たらない。詰まるところ、米債での運用を減らし非ドル建ての運用を増やすことは、規模の観点だけを考慮しても適わないことがわかる。

米債務上限の引上げ問題で円ドル相場も96円台まで円高が進んだが、週末には98円台へと約2週間ぶりの円安ドル高で終わった。為替相場もホワイトハウスと共和党との協議はいずれ近いうちにまとまるという前提に立っている。

5月には1ドル=103円台まで円安が進行したが、その後、円安の勢いは弱まり、ほぼ100円割れの状態が続いている。米金融緩和縮小が円高を阻止する一方、金融緩和縮小の米株式・債券相場、さらには世界の金融・資本市場への不安が円安の歯止めとして作用している。

米国の問題は債務上限の引上げなどではなく、2008年に吹き出たモーゲージ問題が依然解決されず、癌として米国経済を蝕んでいる。6月末のモーゲージ残高は13.1兆ドル、2008年末比1.5兆ドル減少した。対名目GDP比78.7%とピークよりは低下しつつあるが、上昇を始めた1997年よりは18ポイントも高い。モーゲージ資産の最大の保有者は公的機関であり6.31兆ドル保有している。総額が減少しているなかで、金融機関等から肩代わりしているためか、公的機関の保有額だけが増加している。塩漬けになったモーゲージ資産の多くは公的機関が保有したままなのであろう。不良債権を移し変えるだけでは問題の解決にはならず、先送りでしかない。時間稼ぎをしているつもりだが、結局は莫大な時間と金の浪費になる。数兆ドルの資産が紙屑になっているはずだが、公的所有で表面化していないだけだ。膿を出し切れば、借り手の家計が破綻してしまうので、不良資産を公的部門が抱え、国で支えているのである。

住宅価格は持ち直しているとはいえ、7月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)はピーク(2006年4月)を23%も下回っている。昨年2月を底に上向いているのは、FRBの金融緩和によるモーゲージ金利低下が寄与しているのだと思う。金融緩和縮小に踏み切りそうになるだけで金利は上昇したが、本格緩和縮小になれば、金利上昇は一層強まるはずだ。住宅価格の回復も頓挫するだろう。

米国経済が健康体ではないことは、金融機関の預貸金動向をみればわかる。金融機関の貸出は昨年6月の前年比5.5%をピークに今年9月には2.4%に低下している。貸出の低迷は不動産向けが-0.3%と2ヵ月連続の前年割れとなったからだ。預金の伸びも低下しているが、それでも7.4%と貸出の伸びを大幅に上回っている。

一般的に、景気が拡大しているときは貸出が預金の伸びを上回り、逆に、景気が悪いときは貸出が預金の伸びを下回る。9月の貸出から預金の伸び率を引いた値はマイナス4.9%である。2008年12月以降、4年9ヵ月連続のマイナスである。一時、大幅に縮小したが再び拡大し、昨年末以降、マイナス幅は5%前後で推移している。

家計の貯蓄を吸収できるほど企業の設備投資が盛り上がっていないことを預貸金動向は物語っている。結局、預貸金の差額は政府支出の形で調整されることになる。米政府と議会は、債務の上限などで無駄な時間を費やすのではなく、米国経済の根本的問題を解決するための協議を始めるべきである。

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