週末値で円が対ドルで110円台を付けるのは昨年9月第2週以来約4ヵ月ぶりである。円高ドル安にもかかわらず、日経平均株価は上昇し、1991年11月以来約26年ぶりの高値だ。依然、過去最高値を更新している米株に牽引されてはいるが、世界的な株高により出遅れ感からも買われている。ただ、為替相場が円高ドル安に一層進むことになれば、企業利益のマイナスシグナルとなり、売りがでるのは避けられない。それよりも、S&P500の株価収益率が33倍にも上昇しており、米株のバブルがより深刻化していることが心配である。
米株式市場はトランプ大統領を評価しているが、トランプ大統領の方策は長期的には米国経済の歪を大きくし、成長力を削ぐことになる。今の市場は楽観派が大勢を占めているが、これまでのトランプ大統領の言動からはなにが飛び出すかわからない。経済よりも政治の変動のリスクが極めて高く、楽観から悲観へと相場が急展開することもありうる。
1980年以降の米株式は舞い上がっている。1990年末と1980年末のダウを比較すると2.7倍に上昇している。その間、名目GDPは約2倍である。2000年までの10年間ではダウの4倍に対して名目GDPは1.7倍だ。10年間のダウ上昇率では1990年代が最高なのである。
1980年までの30年間でみると、名目GDPは9.5倍だが、ダウは4.0倍にとどまる。だが、1980年から2017年までの37年間では名目GDPは6.8倍と1980までの30年間の伸びを下回っているが、ダウはなんと25.6倍と前の30年間の伸びをはるかに超えている。
1980年頃を境になぜこれほど経済成長率が低下していながら、株式が驚異的なほどに伸びたのだろうか。答えは難しくない。10年債利回りが1981年3月の15%をピークにそれまでの右肩上がりから右肩下がりへと大転換したからである。10年債利回りの低下が36年も続き、ダウの現在価値を大幅に引き上げたのである。新規資金の株式への投入だけでなく、債券で持続的に利益が出ており、それの運用益を株式に配分している。こうして債券高、株高の好循環が途切れることなく続いたことが、米株式を思いもよらないほどの高値に導いたといえる。
米10年債利回りは上昇してきており、先週末の利回りは2014年4月以来3年9ヵ月ぶりの高い水準だ。米政策金利の引き上げや債券購入額の縮小を先取りした動きといえるだろう。減税の穴埋めに国債発行が増加することも相場に影響している。国債相場が先行き下落するのであれば、今のうちに国債を売却し、現金に換えた方が理に適っている。株高要因の債券高が債券安に暗転しつつあるが、利回りの上昇は株式の現在価値を引き下げるだけにその行方から目が離せない。
連邦政府の債務残高は2017年9月末、16.4兆ドルと2007年末(6.0兆ドル)から急増した。債務の大半は財務省証券であり、FRBをはじめ年金やミューチュアルファンドなどが保有している。なかでも非居住者が6.3兆ドル(昨年9月末)も保有しており、FRBの金融引き締めに伴い、非居住者がどのような運用スタンスを取るかに、米国債相場は依存している。
米国が金融を徐々に引き締めていけば、米国以上に経済が良い欧州の金融もゼロ金利からプラス金利に変更されるだろう。世界的にゼロ金利は過去のもとなり、実体経済に見合った金利水準を模索していくことになるはずだ。その時、日銀はどうするのだろう。物価目標2%を頑なに守り、ゼロ金利と国債購入を続けるのだろうか。主体性に欠ける日本人の習性からすれば、一人取り残されるのはまずいと利上げに踏み切るのだろうか。いずれにしても、共産主義国のように中央銀行が巨額の国債購入や株式購入をすることは尋常ではない。
欧米と日本が利上げするときの経済への影響の仕方は相当異なるはずだ。長期間、日本経済はゼロ金利漬けであったため、麻薬中毒患者のように禁断症状で苦しむことになるだろう。禁断症状を克服するまでは、日本経済はもがき苦しむ状態が続くことになる。内需はほとんど変化していないので、海外の利上げが日本の輸出に逆風になれば、日本企業の業績はたちどころに暗転することになる。
米国債を非居住者が売却の意志を示すだけで、米債は売られ、ドルは急落する。激しい円高ドル安となり、日本株も同時に売られることになる。東証1部売買代金で約7割を占める外人が売りを本格化させれば、公的年金や日銀が買い方となっても、相場崩壊を食い止めることはできない。
株式の崩壊は不動産にも波及するだろう。都内では地価が高騰しているけれども、信用不安が起これば、異常な値上がりは異常な値下がりとなるだろう。オリンピック特需の剥落や2022年以降の生産緑地の宅地化といった需要減と供給増要因が加わり、日本の地価、特に都内の地価は大きく崩れるだろう。そうなれば、1990年代のように金融機関は不良債権に青息吐息となり、日本経済は寒々とした景色に後戻りする。
1990年代以降のバブル崩壊で苦しんだ経験がまったく活かされることなく、繰り返されることになりそうである。政府と日銀が本格的に経済を立て直すのではなく、一時的に取り繕う政策を遂行したため、消費はまったく改善していないのである。消費が変わらないことは、国民の生活も変わっていないことなのだ。
小手先の政策に終始し、化粧のように上面を糊塗しただけで、日本経済の中身はなにも変わっていない。現政権や日銀が存続するかぎり、日本経済は外需頼みから抜け出せず、自律的な経済を確立することはできない。