企業業績は悪化しているが、日銀の資産買い増し期待によって、日経平均株価は前週比小幅安にとどまった。日銀は先月(9月19日)、資産買入等の基金を70兆円から80兆円に増額したばかりだが、今月また、資産の買入規模を拡大しようとしている。だが、先月の株式に対する日銀効果は発表当日に出尽くし、その後、株価は下落した。資産買入のような金融政策は、実体経済になにの効果も持ちえず、風評以外のなにものでもない。それをあたかも有効であるかのように囃し立てる。このようなことを繰り返してなにになるのだろうか。日本社会は時間の浪費としかいえない会議に延々と取り組む。お目出度い人たちのなんと多いことか。30日開催の金融政策決定会合もこの種の会議と変わらない。
日銀が金融機関から国債を買入、金融機関に資金を供給するが、その資金が金融機関から家計や企業の金融機関の外に流れていけば、日銀の資産買い増しは有効だと言えるが、すでに長期にわたりそのようにマネーは流れていない。日銀から金融機関に資金が流入しても、その金は新たに国債の購入に使われたり、日銀の当座預金勘定(10月20日現在、43.4兆円)に預けられたりしているのだ。
日銀は新発国債の購入はできないので、金融機関が一旦買った国債を購入するしかない。日銀への金融機関の預金はそのために使われているのだ。金融機関は日銀へ国債を売った資金で国債を補充するだけでなく、それ以上に購入しているのである。金融機関は国債を無理やり購入しているのではなく、購入せざるを得ないのだ。預金は入ってくるけれども、貸出の伸びは預金より低いので、金融機関は資金がだぶついており、国債で資金を運用する以外に使い道がないのである。
金融機関は新発国債を購入し、国に資金を供給している。国は税収不足を国債で賄っており、財政規模を維持することで経済を支える。国の一般会計は半分近くを国債に頼っており、歳出の規模を拡大することは難しく、金融機関の国債購入も経済を刺激するような強い影響力を発揮することはできない。
日銀の国債買入は国債利回りを引き下げることもできず、財政赤字の継続を可能にするくらいのことしかできない。設備投資や輸出を刺激することで経済成長を促すことは、日銀の国債買い増しでは不可能なのである。日銀は日本経済を成長させる手段はなにも持ち合わせていないのである。
日銀は資産買入の規模を拡大すればするほど、バランスシートは不健全になり、しかも株式などの金融・資本市場をさらに歪めることになる。日銀の国債保有高(10月20日)は105兆円と過去最高であり、総資産も151.8兆円と過去最高に近い水準にある。これだけ多量の国債を購入し、バランスシートを膨張させたが、日本経済は一向に良くならない。1995年以降、政策金利はほぼゼロに引き下げていることだけを捕らえても、日銀の金融政策の限界が露呈しているのだ。だから、日銀の株価は最高値の5%にも満たない紙屑同然になっているのである。
日銀や金融機関が国債を買うことができるのは、家計部門の預金や保険などの金融資産が増加しているからである。『国民経済計算』によると、2010年末の家計の金融資産は1,506兆円と2001年末比109兆円増加した。土地の減価で正味資産は2,227兆円、54兆円減少した。2010年末の家計を含めた日本全体の正味資産は3,036兆円と2001年末比102兆円減少している。年換算で約11兆円の減少だが、この程度の減少にとどまっていれば、国債を購入し続けられるだろう。これからも家計の預金や保険の蓄積が過去10年と同じ増加傾向を辿るかどうかが最大のポイントである。家計は経済規模が縮小しても生活を切り詰めて貯金に回しているが、さらに経済が縮小しても貯蓄性向を引き上げ、預金等を増やすのであれば、それが国債にまわり、財政赤字を維持できることになる。家計が預金を取り崩し、預金が減少していくことになれば、巨額の国債を購入することはできず、日本経済は本格的に縮小過程を辿ることになる。