異常時に財政規律を厳格にする無分別なEU首脳たち

投稿者 曽我純, 12月12日 午前9:10, 2011年

12月5日の独仏首脳会談で纏まった事項が、EU首脳会議でほぼ承認され、そこで新たに付け加えられたものはなかった。ECBは政策金利を0.25%下げ、1.0%とこれまでの最低と並ぶ水準に引き下げ、長めの資金供給策も打ち出した。ユーロ圏の景気が危うい状態にあるので、金融緩和策は採られているが、首脳会議では財政赤字を縮小させる財政協定に英国を除く26ヵ国が参加することになった。景気が悪化しているときに、財政規律を重んじ、赤字を削減するというのである。

短期金利はすでに十分低いので、0.25%の利下げでは景気に刺激を与えることなどできない。現状の欧州経済をみると、設備投資が急速に冷え込んでおり、資金需要は弱いのである。ドイツの資本財受注は10月、大幅に持ち直したものの、6月をピークに変調を来たしている。ユーロ圏景況指数は今年2月をピークに11月まで低下し続けており、景気後退期に入ったことを示唆している。このような景況感の大きな悪化に遭遇しているときに、財政をカットすることになれば、EU経済は完全に行き詰まることになるであろう。

今回の財政赤字拡大は、戦後経験したことがない景気の激しい下降に出会ったからであり、通常の緩やかな後退とは規模・内容が違うということをまず頭に入れておかねばならない。戦後最大の景気後退に陥ったのだから、財政の拡大もそれ相当の規模でなければ経済を回復させることはできないのである。

 米国の実質GDPは08年、前年比0.3%減少したが、翌年には-3.5%と1946年以来63年ぶりの落ち込みを記録した。その結果、09年の米財政赤字は11.2%(対GDP比)と07年に比べれば8.4ポイントも上昇した。09年のユーロ圏成長率は4.2%減と米国よりもマイナス幅は大きく、その後の回復力も弱い。それは米国のように大胆な財政支出をしなかったからだ。ユーロ圏の財政赤字は09年、6.3%と米国を4.9ポイントも下回っており、こうした財政の出し渋りが回復を阻害している。

08年後半以降の景気悪化は、米国発と捉えがちだが、欧州の住宅バブルも米国並みに膨れており、早晩、バブルが崩壊する運命にあった。特に、バブルが酷かったのがスペインであり、いまだに失業率が20%を超えて回復とはいえない状況にある。バブルの濃淡はあるけれども、欧州の住宅価格は値上がりしすぎていたのである。それが急落し、住宅資産が著しく目減りし、借金だけはそのまま残ることになり、その修復に追われている。

このような過去に積み重ねてきたバランスシートの毀損は一朝一夕に正常な姿に戻すことはできない。少なくとも、戦後の蓄積の結果であるので、痛んだところが直るまでには長期間を必要とする。だから、今、欧州が財政規律を持ち出し、財政出動を抑制することになれば、痛みがぶり返し、病状は悪化することになるだろう。安定的な成長経路に戻るまで、財政手当てを継続しなければ、経済はまた失速してしまうことになる。

EU首脳会議で財政規律が強化されることになったが、これで欧州景気はますます悪化することになり、首脳会議の決定は、間違いであったことが証明されるはずだ。国債売りは小康状態だが、欧州の貯蓄超過は続き、資金は主要国の国債に向かわざるを得ない。財政規律を強めれば強めるほど、皮肉にも、政府部門の支出圧力は強まることになる。設備投資と輸出超過額が拡大すれば別だが、これから設備投資も輸出も縮小していくので、政府部門の拡大が必然的に起こる。政府部門の拡大を強制的に止めることになれば、欧州経済は総崩れになるだろう。それによって、欧州の株式は暴落、ユーロも大幅に下落することになる。欧州投資家の現金志向は極端に強まり、日本株や米株も大きく値崩れすると考えられる。財政の出し惜しみが世界経済を破綻に追い込むことになる。経済が異常なときには異常は政策で対処しなければ、経済は元に戻ることができない。異常時に財政赤字3%を厳しく適用させることは「角を矯めて牛を殺す」ことになる。

翻って日本に目を向けると、原発と津波で生活が成り立たない人を救うことが最重要課題でありながら、TPPや消費税の引き上げなど今すぐに着手しなくてもよいことに論点を逸らしている。ひとつのこともできないのにいくつものことを同時にすることはできない。  増税するのであれば、まず国会議員、地方公共団体の首長・地方議会議員、国家・地方公務員の給与や退職金・年金を減額し、住宅などのその他もろもろの特典を廃止すべきだ、これができなければ増税はできない。景気は落ち込むけれども、これまでの生活を見直し、すこしでも自立した生活をめざさなければならない。季節はずれの生産物は買わない、余分に手を掛けたことでまずくなる種無しぶどうなども買わない、作らないようにしよう。自分で少し手を掛ければできることは労力を惜しんではならない。携帯電話など放擲し、もっとゆったりとした時間を楽しもうではないか。日本人はあまりにも生活を外部化してしまった。再度、内部化し、余分なコストやエネルギーは削る。このような方向に進んでいけば、家族生活も充実し、日本経済も居心地の良い状態に落ち着くのではないかと思う。個人や家庭の生活内容を変えていかなければ、今のままの経済社会から抜け出すことは難しい。 

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