ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「トランプ氏が気にかけていたのは、再選ばかりで、長期的な思慮は片隅に追いやられている」(18日のABCインタビュー)と言うが、遠くから観察していても、トランプ大統領が選挙・株式至上主義者で大統領に相応しくないことはわかる。人種問題は未だに根深く、米国社会の日常生活のあらゆる場面に入り込んでいる。トランプ大統領は人種問題に真剣に取り組む姿勢すら示さず、彼の政策は一部の白人や富裕層に向けられているのだ。
日本の安倍首相の任期は1年3ヵ月ほどだが、最近の政策はますます悪くなり、惨めな終末になりつつある。6月15日、突然「イージス・アショア」の計画停止を発表した。対米従属の防衛戦略を事も無げにやめてしまうことなどこれまでにはなかったことだ。安部首相とトランプ大統領のトップ会談で決まった「イージス・アショア」計画を覆すことは、トランプ大統領を切り捨てたとも捉えることができる。日米安保体制のなかで、日本が独自に判断したというケースはなく、異例の決断といえる。なにが、これほどの決断をさせたのか、トランプ大統領を見限った判断のようにも思えるのだが。
6月18日には河井克行前法相とその妻安里氏が公職選挙法違反容疑で逮捕された。河井克行前法相は安倍首相と菅官房長官に近く、昨年の安里氏の参議院選では自民党本部から破格の1億5千万円の軍資金が配られたという。普通はその十分の一と言われており、いかに優遇されていたかが分かる。その軍資金のおかげでめでたく当選したのだが、金をばらまくという選挙違反をしたのでは、当然議員は剥奪されるべきだし、1億5千万円の使途も明らかにされなければならない。
昔も今も変わらぬ金と選挙のどろどろとした関係が続いている。安倍首相も「桜を見る会」でのさまざまな疑惑があぶりだされたが、結局はうやむやで終わってしまった。金や権力に物を言わせて、安倍首相は力ずくで政局を乗り切ってきたが、このような覇道を推し進めていけば国民の支持を得られなくなり、墓穴を掘ることになる。
黒川問題、新型コロナ、学校の休校、マスク配布、非常事態宣言、10万円給付、持続化給付金と安倍首相のまずい判断・決断が次々とでてくる。安倍側用人政治の限界が露わになったと言える。急いで物事を始めるとろくなことにはならない。何かをしなければならないと催促され、とり急いでまとめはしたが、無駄遣いに終わってしまうことはしばしば起こる。
官僚はお金の大切さを分かっていない。自ら骨身を削って獲得したのではなく、税金や借金で容易く手に入れることができるからだ。だからこそ、国会で十分な審議が必要なのである。だが、自民党の数の力で河井克行逮捕の件があるにもかかわらず、国会を閉会してしまった。
安倍首相もトランプ大統領も王道を歩む人ではない。憲法を守るべき人が改憲を唱え、ツイッターで出まかせを発信するような人物が国のトップにいるという異常な政治状況のなかに、われわれはいる。政治が異常であれば経済も異常な状況に置かれるのである。今年度、国は国債を90兆円発効し、日銀は年12兆円も株式を買う。2013年の外人買い越し額は14.6兆円だが、12兆円はそれ以来の買い越し規模になる。
FRBもゼロ金利と国債購入で株式を支える。数年先までゼロ金利を続けるという予測から円ドルレートはやや円高ドル安である。米10年債利回りも0.69%と低い水準を維持しており、ドルの魅力を引き下げている。米株が底堅く推移していれば、円ドル相場も大きく変動することはないが、米株が崩落することになれば、円高ドル安が急速に進行し、100円を突破することになるだろう。
5月の米小売売上高は前月比17.7%と急増したけれども、3月を0.3%上回っている程度であり、前年比では7.7%減である。激減していた自動車等が前月比44.1%も回復したが、まだ新型コロナ感染者が増加している州もあり、自動車を始め小売業の先行きは不透明である。
米鉱工業生産指数は5月、前月比1.4%にとどまっており、生産は底這い状態である。自動車・同部品が前月比82.1%も伸びたが、指数は55.9(2012=100)と急低下する前の今年2月(139.2)を59.8%下回る。
5月の日本の輸出は前年比28.3%減と前月よりもマイナス幅は6.4ポイント拡大した。金額では1.65兆円の減少だが、自動車などの輸送用機器の減少額が0.82兆円と総減少額の半分を占める。4月の輸出額の前年比減少額は1.46兆円、これに5月分を加えると2ヵ月で3.11兆円になる。この調子で輸出が推移すれば年度で15兆円を超える外需が消えることになりそうだ。給付金の10兆円がすべて消費に支出されても輸出減を補いきれない。
2008年の米金融崩壊のときも世界経済の激しい収縮によって、日本の輸出は苦境に陥った。2008年度と2009年度の輸出は前年比16.4%、17.1%それぞれ減少し、2年にわたる大幅落ち込みの合計減少額は26.1兆円に達した。こうした輸出の急激な落ち込みは企業収益を直撃し、2008年度の大企業全産業の営業利益は前年比45.8%減少した。さらに2009年度も5.7%の減益となり、2007年度の営業利益水準を抜くには8年後の2015年度まで待たなければならなかった。
2010年度の輸出は3年ぶりに増加したが、その翌年の2011年度は東北大震災により、前年割れとなり、2012年度もマイナスとなったが、2013年度は前年を上回った。
日本企業の収益は輸出に依存していると言っても言い過ぎではない。輸出と収益には強い相関関係がある。2012年度を底に輸出が回復していたことが、第2次安倍政権の追い風となった。輸出の拡大は企業収益を引き上げ、2012年度から2015年度まで4年連続の増益となったからだ。企業収益の拡大に伴い株式も勢いを増していった。
だが、安倍首相の任期が残り少なくなった2019年度の輸出は-6.0%と3年ぶりに減少し、本年度は20%を超えるマイナスとなり、営業利益は5割前後落ち込むはずだ。円ドル相場が円高ドル安に向かえば(トランプ大統領はそれを狙っていると思うが)、収益はさらに悪化することになる。
いまだに安倍首相も小池東京都知事も東京オリンピック開催に固執しているが、そのようなことをしている場合ではない。今年度の一般会計の税収は当初予算の63.5兆円から50兆円程度に落ち込むはずだ。東京都の歳入も同様に見通しを大幅に下回るだろう。
新型コロナで日本経済は相当傷むことになり、税金の無駄遣いは厳に慎まなければならない。決断が遅れれば遅れるほど不良債権が膨らむことと同じように、オリンピックに掛かる経費も増えるのだ。だれがどのようにその経費の始末をするのか。今、決めておいてもらいたい。安倍首相、麻生財務大臣、菅官房長官などの老獪な政治家に任せていれば、大事な税金が雲散霧消してしまう。