イギリスの世論調査でEU離脱が留残を上回ったことから、ポンドやユーロは売られ、欧州株式は崩れた。円ドル相場は大きく変化しなかったため、円ユーロ相場は週末、1ユーロ=120.3円と2013年1月以来3年半ぶりの円高ユーロ安となった。円ドル相場は106円台を2週連続で維持しており、一段の円高に向かいそうな気配である。1-3月期の実質GDPの前年比伸び率は米国の2.0%が最も高く、次がユーロ圏の1.7%、日本は0.1%と最も低い。経済が弱いという観点に立てば、円は売られてもよいが、物価格差や経常黒字の拡大などで円は強含んでいる。貿易収支の改善により、4月の経常黒字額は1.87兆円と4月としては、2007年以来9年ぶりの高水準だ。5月の企業物価指数は前年比4.2%減と前月と同じマイナス幅であったが、消費者物価に一段の下方圧力を掛けるだろう。
円、ユーロの短期金利はマイナス幅が拡大、10年物日本国債の利回りはマイナス0.15%、ドイツは0.02%、イギリス1.23%といずれも過去最低を更新した。米国も1.64%と2012年12月以来約3年半ぶり低水準であり、過去最低に近づきつつある。このように、主要国の国債利回りは過去にない異常に低い水準にある。
日本のようにマイナスの利回りでは国債保有者が利息を支払わなければならない。これでは国債を保有したいという気にはならないし、年金も日本国債で運用しなくなるだろう。国債の買い手は日銀だけということにもなる。国は国債で借金しても利息が入ってくるので、国債発行コストは低下し、増発に歯止めが効かなくなる。
歴史的に経験したことがない国債価格の高騰は、米国の利上げ後退、日本やユーロの利上げはまったく見通すことができないことに起因している。日本のように約20年もほぼゼロ金利を続け、しかも巨額の国債購入を実施していながら、経済活動は停滞から脱してはいない。永久にゼロ金利が続くのかのような考えが一般的になってきていることが、利回り低下の重要な要因ではないだろうか。
ECBの金融政策がユーロ経済をより歪めている面がある。週末、ドイツの国債利回りはほぼゼロに低下したが、ギリシャは7.34%、ポルトガルは3.07%である。ドイツとギリシャとの利回り格差は拡大した。ECBが政策金利をゼロにしても、各国の国債利回りはそれぞれの国の政治・経済状況によって決まり、これだけの差が出ている。利回りの高い国ほど、資金を必要としているが、そうした国ほど信用度が劣るため、国債での資金調達が難しいのである。経済が良ければ良いほど資金調達に恵まれ、ますます経済が拡大することになり、逆に、経済状況が悪ければ、資金調達もままならず、経済は一向によくならないのである。ゼロ金利政策でもユーロ圏の国の格差は是正されるどころか、ますます格差が拡大することになる。その原因は国債利回りのあまりにも大きな差なのである。
それにしてもドイツ国債の利回りがゼロに接近するとは異常である。今年1-3月期の独名目GDPは前年比3.1%成長している。3.1%も成長しながら、利回りゼロとはいかにも行き過ぎだ。これでは自動的に3%の鞘が抜けることになる。イタリアやスペインの国債利回りも1.5%を下回っている。これほど利回りが低いと、コスト意識が薄れ、企業経営が疎かになるのではないか。また、株式や住宅などの金融経済が肥大化し、バブルとなりはしないだろうか。
米国経済も1-3月期、名目3.3%成長しているが、国債利回りは成長率の約半分である。昨年12月に利上げを実施したが、利回りの低下に歯止めはかかっていない。利上げ時期がどんどん先延ばしされており、次の利上げがみえてこなくなった。だから、株式や商品に資金が再流入しているのである。FRBが金融経済を肥大化させ、経済を歪めているのだ。実体経済をみれば、米株式がこれほどの高値を維持できるとは考えられない。
米鉱工業生産の前年割れは4月まで8ヵ月連続であり、これほどマイナスが続くのは2008年の金融危機以来である。過去30年間を振り返ってみても鉱工業生産のマイナス期間は4回しかない。米国の財輸入は1年以上も減少し続けており、米国経済は弱いといって間違いないが、それでも株式は高値を保っている。偏に、超低金利持続に依存している。
ECBのゼロ金利政策で最大の恩恵を受けているのはドイツだ。これと同じようなことが、国を経済主体に置き換えれば、日本でも言える。日本でゼロ金利の恩恵が大きいのは企業と国であり、家計ではない。家計が資金の出し手であり、企業と国は資金の受け手だからだ。昨年末、家計の現・預金残高は902兆円、保険・年金などを510兆円保有している。この合計1,412兆円が企業や国に貸し付けられているのだ。預金金利が1%であっても14.1兆円が利息として家計に入る。他方、企業や国は金利が1%上がれば、14.1兆円のコストが発生する。
20年間もの長期間、超緩和策によって、家計はお話にならないくらいの利息しか受け取ることができなかった。預金金利が3%であれば年42兆円、10年間だと420兆円もの利息収入が家計を潤すことになる。いずれにしても巨額の金が家計から企業と国に移転したということだ。マイナス金利によって、借金することで利息を貰えるため、借金をなんとも思わない気持が国に染み付いていくことが恐ろしい。