画餅に帰す日銀の金融政策

投稿者 曽我純, 5月25日 午後9:17, 2014年

政府の僕に成り下がった日銀は、金融機関からがむしゃらに国債を購入し続けている。こうした国債購入によって金融機関には現金が入ってくるが、金融機関は非金融機関にこの大半を貸すことができず、日銀にそのまま預けているのだ。5月20日時点の日銀の国債保有額は208.2兆円、1年前から72.6兆円も増加した。1年間で72.6兆円ものかねが日銀から民間金融機関に流れた。だが、4月の銀行計の貸出は414兆円で前年よりも9兆円しか増加していない。これだけ買いオペを実施しても、金融機関の貸出の伸びは微々たるものであり、買いオペの貸出への効果はほとんどない。買いオペで供給されたかねがどこへ行ったかと言えば日銀当座預金として日銀に還流しており、5月20日時点で128.8兆円と1年前(63.7兆円)の倍に膨れている。この日銀当座預金を元手に日銀はさらに国債を買うのである。

日銀が金融機関から巨額の国債を買っているため、金融機関の国債保有額は2月末、132兆円とピーク(2012年3月、171兆円)から39兆円も減少している。昨年2月と比較しても32兆円の減少だ。同期間、日銀は77.5兆円の国債を金融機関から買った。日銀が金融機関から国債を77.5兆円購入したが、金融機関は32兆円の減少にとどまっている。ということは金融機関は新たに45兆円の国債を購入したことになる。

日銀は新発国債を買うことができないので、金融機関に新発国債を買わせるように、金融機関から既発国債をどんどん吸い上げている。それでもこれだけ日銀が金融機関から国債を買い漁れば、国が国債を発行し金融機関が国債を買えるようにしなければならない。国債不足にならないように国は国債を増発、財政の拡大を図ることができる。

日銀がいくら民間金融機関から国債を購入しても、資金需要がないので民間金融機関は貸出を伸ばすことができないのである。日銀は政府の資金不足をファイナンスする機能しか果たしていないといえる。それをあたかも魔法の杖のように、デフレからの脱却に必要なのだという。この1年間に、日銀は金融機関から国債を72.6兆円も購入しながら、銀行の貸出はたったの9兆円しか増加していないことを日銀はどのように説明するのだろうか。  

大企業(資本金10億円以上)などはずっと前からかねを借りる必要などないのだ。溜めに溜め込んだ大企業の純資産は300兆円を超えており、企業はむしろ貸したいぐらいなのだ。現預金をどのように使ったらよいのか頭を悩ませているのが現実なのではないか。

10年物国債の利回りが0.6%前後とゼロに近いところにとどまっていることは、長期期待収益率が国内ではその程度だということなのだ。長期期待収益率を伸ばすことなどできない、だから大企業はかねの使い方がわからない。わからないのではなく、国内に使い道はないといったほうが正しい。

長期期待収益率がゼロに近いことは経済成長率もゼロに近いことを示唆している。だからかねをたくさん必要とする設備投資の機会は少なくなってきている。3月の製造業設備投資向け銀行貸出は前年比2.7%減であり、製造業への総貸出も0.9%前年を下回った。貸出が前年比プラスを維持できているのは、情報通信、電気・ガス、医療・福祉など総括原価方式採用の企業や高齢化といった分野への貸付が増加しているからだ。

10年物国債の利回りが示すように、利回りの長期的な低下は、設備投資を喚起することができないことを証明した。国債利回りの低下に設備投資拡大の役割を期待することはできないのだ。日銀の国債購入によって国債利回りは低下すると考えられているけれども、本当は買いオペでは長期にわたり国債利回りをコントロールすることはできない。基本的には、国債利回りは長期期待収益率で決まってくる。

日銀は民間金融機関への資金供給と国債利回りの低下を促したが、結局、貸出増という目的を達成することができず、駆け込み需要の一時的な景気刺激効果があらわれただけである。消費者物価を2%に上げることもできない。需要が持続的に伸びることはなく、今後、需要が萎んでいくなかで消費者物価は下がっていくだろう。

日銀の掲げた目標はすべて画餅に帰す。日銀の国債購入の顕著な効果は財政のファイナンスをより強化し、経済全体に占める公的部門のウエイトを高めたことと、円安ドル高によって輸入が輸出の拡大を上回り貿易赤字国に転落させた2点に集約することができる。財政赤字と貿易赤字の拡大は日本経済を長期的に衰退させることになるだろう。こうした日銀の金融政策が当たり前のように受け入れられていることこそ、問われるべきことなのだと思う。新古典派の貨幣の存在しないモデルで貨幣を扱おうとしている愚かさに、黒田日銀総裁たちはなにの疑問をいだくことなく、金融政策を遂行しているのである。

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